夏の丘に眠るともだちへ
スマホを見ながらだらだらしてると、Facebookの通知が届いた。
「今日は〇〇さんの誕生日です。」
亡くなった同級生の名前だった。
彼の訃報を知ったのは、8年前の早朝だった。
同級生のグループに、「訃報です」というメッセージが届いた。
寝ぼけ眼の僕は最初、当時の担任の訃報だと思った。当時から高齢だったし、まあ亡くなってもおかしくないか、と思いながらメッセージを開いた。
予想に反して、そこには、彼の名前があった。
がんで闘病中だったが亡くなった、と書いてあった。
彼は、僕が今まで出会った中で一番優秀な人間だった。
スポーツも勉強もできたし、なにより人格者だった。
自然と人がついてくるようなやつで、組織のリーダーになるのはこういう人なんだろうな、って勝手に思っていた。
そんな優秀なやつと、僕みたいな平凡な人間がなぜ友達になったのか、よく覚えていない。けど、なんやかんやで僕たちは仲良くなった。
うちの実家に泊まりにきたこともあったし、彼の家に泊まったこともあった。酒を飲みすぎて泥酔し、べろべろのまま夜道を二人で散歩したことを今でも覚えている。
就職をしてから、僕たちはめっきり合わなくなったし、連絡も取っていなかった。その知らせが入る数か月前、僕はふと彼のことを思い出し、メッセージを送った。
「元気か?」
返ってきたのは、親指を立てた絵文字だけだった。
「元気だよ」と言いたかったのか、「大丈夫だ」と言いたかったのか、
それとも、言葉にできない何かを押し込めた挨拶だったのか。
今でも、あれが何を意味していたのか分からない。
そのころ、彼は既に闘病中だった。知らずに送ったにしろ、今思えば、なんて無神経なメッセージだろう。
葬式には、彼の人徳を表すかのように、すごい数の人間が参列していた。
涙は出なかった。実感が湧かなかったからだ。いや、その事実を受入れたくなかったのかもしれない。
彼が亡くなったという現実を目にするのが怖くて、棺に入った彼の顔を見ることなく、薄情な僕はそそくさと会場を後にした。
それから、ときどき彼の夢を見るようになった。
夢の中で、彼は生きている。あの日のまま、元気な姿で。
僕は、彼の肩をゆすって泣いている。
「お前、病気治ったんか!生きとったんか!」
彼はにこにこと笑っている。
いつも、そこで目が覚める。
月に1、2回は必ずその夢を見ていたと思う。
これはもしかして、きちんと別れを告げられてなかったからかもしれない、と思った。
友人づてにお墓のある場所を聞いて、墓参りに行くことにした。
暑い夏の日だった。
小高い丘の上にある、広い霊園。
そこからは、街を一望することができた。
気持ちよく晴れた空の青と、山々の深い緑が美しく広がっていて、深呼吸をするととても良い気分だった。街の向こう側にはわずかに海が見えて、その上には大きな入道雲が浮かんでいた。
なんとなくの場所しか聞いていなかったから、うろうろと歩き回って、ようやく彼のお墓を見つけた。
用意してきた花を供えてしまうと、なんだかそわそわしてしまった。
それでも、ずっと言えていなかった言葉を絞り出した。
「すまん、来るのが遅くなった」
「葬式で顔合わせんくて、ごめん」
なんて声をかけるべきだったのか、今でも分からない。
「まあ、あれだわ…」
「ゆっくり休めよ」
それきり、彼の夢を見ることはなくなった。
SNSの中で、彼は今でも一年に一回、誕生日を迎える。
通知が来て、今年も僕は彼のことを思い出す。
そして、あの小高い丘にある霊園のことを考える。
そこには今日もきっと心地よい風が吹いていて、すっきりと晴れた空の下で、青々とした葉がさわさわと揺れている。
夏草のにおいが鼻を掠める。アブラゼミが鳴いている。
彼は30歳のまま眠っていて、僕だけが年をとっていく。
最後も結局、きちんと言えていなかった。
さよなら。
大切なともだち。
また、そのうちな。
