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輪郭を削り、私を見つける ― 鯖江で生まれる、ひとつだけの眼鏡

福井県鯖江市という名前に触れると、私はいつも「見る」ということの意味を考える。
景色を見る。
人の表情を見る。
そして、自分自身をどう見つめているのかということ。

鯖江は、ただ眼鏡をつくる町ではない。
長い時間をかけて、人の視界と暮らしに寄り添う技術を育ててきた町だ。国内の眼鏡産地の中心として100年以上の歴史を持ち、職人の手仕事が今も町の呼吸の中に息づいている。

この町で「オリジナル眼鏡をつくる」という体験は、
単なるワークショップでは終わらない気がする。
それは、ものをつくることを通して、自分の輪郭にそっと触れ直す時間なのだと思う。

最初に生地を選ぶところから、もう静かな対話は始まっている。
どんな色に惹かれるのか。
どんなかたちを手に取りたくなるのか。
それは、理屈より先に現れる「今の私」の気配だ。

糸のこを入れる。
少しずつ削る。
磨く。
整える。

その工程のひとつひとつは、派手ではない。
けれど、とても正直だ。
急げば歪むし、焦れば手元に出る。
丁寧に触れたぶんだけ、かたちは静かに応えてくれる。

私は、こういう時間が好きだ。
手を動かしていると、頭の中のざわめきが少しずつ静かになっていく。
言葉にならなかったものが、形のあるものへと移っていく感覚。
それはどこか、自分の内側を整えていく作業にも似ている。

眼鏡は不思議な道具だと思う。
ただ「見るため」のものではない。
顔にのせるだけで、その人の印象も、気分も、少し変わる。
外の世界を受け取るための道具でありながら、同時に「私はこうありたい」という小さな意思も映してしまう。

だからこそ、自分の手でつくる意味がある。

誰かに選ばれた既製品ではなく、
自分の感覚で選び、自分の手で輪郭を削り出していく。
その過程で、私は「似合うもの」を探しているようでいて、
本当は「しっくりくる自分」を探しているのかもしれないと思う。

鯖江には、そうした時間を受け止めるだけの土壌がある。
市の観光案内でも、オープンファクトリーや体験型ワークショップを通して、眼鏡のまちならではの職人技に触れられることが紹介されている。
観光というより、もっと生活に近い距離で、ものづくりの気配に出会える町。

その空気の中に身を置くと、
「完成品を手に入れる」ことよりも、
「つくられていく途中に立ち会う」ことの尊さが、少しずつわかってくる。

ふるさと納税というかたちで、この体験に触れることにも、私は深い意味を感じる。
それは品物を受け取る支援ではなく、
職人の手仕事や、町が積み重ねてきた文化の時間に参加することだからだ。

ものづくりの町は、技術だけでは続かない。
「この手触りを残したい」と思う人がいて、
「この時間に触れてみたい」と選ぶ人がいて、
はじめて未来へつなぐ流れが生まれる。

支援とは、何かを補うことだけではない。
消えてほしくないものに、自分の意志を重ねること。
私はその静かな選択に、いつも心を動かされる。

眼鏡をつくる時間の中で、人はたぶん少しだけ自分にやさしくなる。
完璧な線が引けなくてもいい。
少し不格好でも、それが手の跡として残る。
むしろその不均一さが、世界にひとつの表情を与えてくれる。

それは、私たちの生き方にも似ている。
均一で整ったものだけが美しいのではなく、
迷いながら削り出してきた輪郭の中にこそ、その人らしさが宿る。

私はそれを、レジリエンスのひとつの形だと思う。
壊れないことではなく、
削られ、迷い、少しずつ整いながら、なお自分のかたちを引き受けていくこと。

鯖江の町には、そうした静かな強さが流れている。
大きな声ではなく、
工具の音や、磨かれていく素材の手触りの中に、
人が人らしくものをつくってきた記憶のレイヤーが残っている。

その記憶に触れることは、
過去を懐かしむことではなく、
今の自分の手に「つくる力」がまだ残っていると知ることなのだろう。

そして、その感覚はきっと、暮らしの中にも戻っていく。
少しだけ物を大切に扱いたくなる。
選ぶことを急がなくなる。
自分の見え方だけでなく、世界の見え方まで少し変わっていく。

100年後の笑顔は、こういう場所からも生まれるのだと思う。
誰かが鯖江で眼鏡を削り、
「これは私の手でつくった」と静かに思える時間。
その実感が、次の世代にもものづくりの灯りを残していく。

もし今、少しだけ自分の輪郭を見失っているなら。
もし、誰かの価値観ではなく、自分の感覚に触れ直したいと思っているなら。
この体験はきっと、やさしい入口になってくれる。

鯖江でつくるひとつだけの眼鏡は、
ただ視界を整えるためのものではない。
それは、あなたの内側にある小さな意志を映し出す、声の灯火。

その灯りは、
手のひらの温度をまとったまま、
静かに、確かに、未来へつながっていくのです。


OriHimé 如月愛子

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