晴れた日に傘を差してもいいじゃない| (ホラー短編)シロクマ文芸部
晴れた日に
傘を差してもいいじゃない。
雨の日に
傘を差さなくてもいいじゃない。
雨の中、スーツ姿の紳士が歌に合わせて踊りながら、小さな常識なんて捨ててしまいなさいよと励ましてくれる映画が昔あった。
正直、映画の内容はよく知らない。
雨に打たれたように額と背中に汗が流れていく。
晴れた日に傘を差してもいいじゃないという
常識を打ち破ったのは日傘だな。
そんな事を考えながら、熱い日差しを避けるように
小さな影に身を潜めるようにして、会社まで歩く。
暑さのせいなのか誰も道を歩いていない。
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目の前にこの熱いのに着ぐるみを纏った人が道端に座りこんでいる。
男性か女性か背丈からは判断できない。
日傘を差していても、雨に降られたような汗をかいている私には、到底信じられない光景だった。
(暑いのに着ぐるみの仕事かな?
大丈夫かなこの人。)
そんな勝手な妄想が頭の中を巡る。
そんな心配しているうちに、着ぐるみの頭がゆっくりと灼熱の道路に近づいていく。
ゴンッ!
完全に頭から道に倒れこんでしまった。
私は慌てて駆け寄り、声をかけた。
「大丈夫ですか!返事できますか?」
いくら呼びかけても、着ぐるみからは返事は返ってこなかった。
熱中症になってるはずだと、慌てて着ぐるみを脱がそうとした。
しかし、着ぐるみの脱がし方もわからない。
見た目よりも重くて、硬直している身体を必死に抱え込み、チャックを外せないか背中を見る。
数分間、汗ひとつかいていない着ぐるみと
格闘していた。
あまりの暑さで、化粧が落ちる。
私もだんだん眩暈がして、手に力が入らなくなった。
ゴンッ!
一度目より鈍い音が耳に届く。
私のせいで後頭部を地面に叩きつけてしまった。
あっ、やばい。
自分の意識も朦朧としているせいか、
救急車を呼んだ方がましだと気が付くのに
時間がかかった。
「救急ですか?大変です、着ぐるみを着た人が倒れています。
最初は熱中症だと思うんですが、何度か頭を強打しています。」
私は少し嘘をつく。
人通りもなく、誰もいない。
救急車が来るまで、私は必死に着ぐるみに向かって、声をかけ続けた。
失神しているのか、体が硬くなったままピクリとも動いてくれない。
汗もかいていない。
体から水分がなくなったのかもしれない。
そんなことをしている間に、救急車が到着した。
「ケガをした方はどちらですか?」
救急救命士が声をかけてくれる。
安堵と共に着ぐるみの人を助けてもらえるように声をかけた。
救命士は驚き、困惑したような声を上げる。
「人じゃありません、着ぐるみにマネキンが入っています!」
そんなはずはないと思い、着ぐるみの中身を見た。
着ぐるみの頭部にはマネキンの頭が入っていた。
安心と共に状況が飲み込めず、言葉がでてこない。
これも暑さのせいなのか。
騒ぎを聞きつけた近所のスーパーの若い店員がやってきた。
「あっ…。すみません。それうちのです。」
「なんか、まとめたほうがいいって言われて…。」
状況を理解した店員が申し訳なさそうに謝っている。
救命士が事情を聴いた。
経費削減のために産業廃棄物として、
マネキンに着ぐるみを着せて一緒に捨てたらしい。
私と店員は救命士にお騒がせしてすみませんと
しきりに謝った。
誤解が解け、救急車は戻っていった。
ーーーー
若い男の店員が、私の方を向いて謝ってきた。
「おっ、お姉さん。大変ご迷惑をお掛けして申し訳ございませんでした。」
私は若い店員に向かって声をかけた。
「人騒がせだけど、誰も傷ついてなくてよかったわ。」
怒りよりも、怪我をさせていなくて良かったという安堵感の方が勝り、いつもより優しい答えを返した。
会社に遅れていることを思い出し、急いで私はその場を去った。
ーーーー
若い店員は、遠ざかる日傘の背中を見送った。
汗で崩れた化粧の下から、無精ひげの青みがうっすらと浮いていたことを思い出していた。
「…お姉さん、でよかったのかな」
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この企画に初参加させていただきました。
コアテーマがあると書きやすかったです。
楽しめました。ありがとうございました。
