四麺楚歌—だめんず戦争| #せりふ三題噺
四人で学食に来ていた。メンバーは、”島国の中の島国”からきた奴と”靴の形をした国”の奴、名古屋人と俺。文化的背景がいつもぶつかり合う。
いつもこの話をすると、固い顔をした男達の昼食時間が伸びる。麺の話は日本じゃ宗教戦争だ。
長期休み明けに久しぶりに集まり、手土産を交換しながら、飯を食う。
イタリア人はショートパスタ、香川県民はうどんの切れ端、名古屋人は手羽先と端ひろきしめん。
イタリア人の前で変なパスタの茹で方をすると、本当に怒られる。たっぷりのお湯を用意した癖にロングパスタを半分でポキっと折って茹でるなんて事があれば語るまでもない。
ましてや、日本で生まれたナポリタンなんて知った日には——。
その怒りのサイズ感を日本のカフェ文化で例えるなら、「ショート……いや、グランデサイズで」と店員に言われるくらいの大ごとだ。
香川県民に稲庭うどんみたいな細麺を出して
「讃岐うどんです」と言うような危険行為にも近い。
あと、夏に水不足になって早明浦ダムの水位ばかりが話題になるくせに、うどんはたっぷりのお湯で茹でるんですね、なんて言われた日だけは、イタリア人と気が合うかもしれない。
そんなことを考えているうちに、目の前では
イタリア人と香川県民が“至高の麺”をめぐって火花を散らしていた。
イタリア人は胸を張る。
「ショートパスタならペンネが最高だ。
夜中に友達が集まったら、とりあえずペンネ・アラビアータを作るんだ。冷蔵庫に何もなくても、ペンネさえあれば人生は広がる!」
香川県民は負けじと反論する。
「うどんのコシは、全てに勝る。
うどんの切れ端の“切り落とし”や、節麺すら至高やけん。端までうまい。変な味付けなんていらん。
味付けがシンプルな方が美味い。出汁も美味い。
お前のショートパスタなんて、猫のなんちゃらとか貝殻の形とか、形から入り過ぎやろ」
イタリア人が食い下がる。
「お土産でもらった乾麺、塩味が強すぎた。
お湯の量、誰も気にしてないだろ」
二人を見ながら、俺はゴボウを齧る。
敢えてラーメンはあいつらの前では食べない。
茹で時間にだけは口を出せない。
そんな不毛な争いの背景にあるこだわりを
つゆとも知らず。
ただ、めんどくさいこと言ってんなと鼻で笑った。
今まで黙っていた名古屋人が目の前のあんかけパスタを食べ終え、皿を先に返却して、二人に声をかける。
「名古屋メシ、サイコー!茹で時間ばかり気にしやがって!茹で過ぎた麺に餡がよく絡むwwwwww」
名古屋人は腹を抱えて笑い転げた。
草原が広がった。
イタリア人が怒鳴る。
「それはパスタではない!きしめんの方がマシ!」
香川県民も負けていない。
「それはコシがない!」
二人の怒りがグランデサイズで迫ってきて、
名古屋人は思わず肩をすくめた。
「話のコシを折って……なんか、ごめん」
そんな事で騒いでいる奴らをみて、
地元の俺は呟いた。
「ここ福岡だぞ。やわやわのごぼ天うどん食べろよ」
誰も、ごぼ天うどんは食べてくれない。
セリフ
「ショート……いや、グランデサイズで」
■三題
・草原
・返却
・ペンネ
▼投稿ルール
投稿締切(任意):2026年6月4日(木)23:59
ハッシュタグ「#せりふ三題噺」「#草原返却ペンネ」をつけて投稿
締切までにハッシュタグをつけて投稿した作品はまとめ記事に掲載させていただきます (※内容によっては一部掲載を控える場合があります)
