ハノイから3時間の桃源郷。少数民族の暮らしとホームステイの優しさに、心ほどける「マイチャウ」紹介
※2026年4月のマイチャウ訪問時の内容をもとに作成しています
日本からベトナムへの旅行を計画するとき、多くの人が思い浮かべるのは、活気あふれるハノイやホーチミン、あるいは美しいビーチリゾートのダナンやニャチャンではないでしょうか。特にハノイを訪れる際の定番といえば、世界遺産であるハロン湾や、陸のハロン湾と呼ばれるニンビンへのクルーズです。
しかし、ベトナムという国の本当の奥深さは、実は「多様な民族文化」にあります。ベトナムには実に54もの民族が暮らしており、それぞれが独自の言語や色鮮やかな文化を守り続けています。
今回は、一般的な観光ルートや、ベトナム在住の日本人の間でもそれほど語り尽くされていない、私のお気に入りの場所をご紹介します。それは、ハノイから西へ車を走らせて約3時間。緑豊かな山あいの盆地に位置する、少数民族・白タイ族の郷「マイチャウ(Mai Chau)」です。

ハノイ市内からマイチャウには気軽にアクセスが可能です。そこには、日本の原風景を思わせるのどかな田んぼが広がる一方で、少数民族の伝統が息づく「非日常」の世界が待っています。かといって電気やWi-Fiなどのインフラは一定レベルでしっかりと整備されており、日本からの旅行者でも無理なく快適にホームステイができる、絶妙なバランスが魅力の場所です。そんなマイチャウの魅力を、現地レポートとともにお届けします。
■ 霧の向こうに広がる、どこか懐かしくも新しいグリーンの世界
ハノイの賑やかな通りを離れてバスに揺られること約3時間。峻険な山々をくり抜いたトンネルを抜けた瞬間、眼下にパッと広がるエメラルドグリーンの盆地。それがマイチャウです。ここは、穏やかで優しい気質で知られる少数民族「白タイ族」が古くから耕してきた土地です。

おすすめの季節は、春(3月〜5月)か秋(9月〜10月)。雨季の前後であるこの時期は、水田が一年で美しく輝く季節です。
あぜ道を一歩歩けば、どこか日本の田舎にタイムスリップしたかのような強烈な懐かしさを覚えるでしょう。しかし同時に、行き交う人々の色鮮やかな民族衣装や、高床式の家々の軒先から聞こえる「トントン、カラリ」という手織り布の機織り(はたおり)の音が、ここが美しい未知の異国であることを教えてくれます。マイチャウは、この美しい手織り物や繊細な刺繍が名産品としても有名で、村のそこかしこで伝統の手仕事に触れることができます。
■ バスをネットで予約して、スマホひとつでゆるりと出発
マイチャウへの移動はスマートです。ハノイに滞在中、確実なのは、12Go Asiaなどの多言語対応のオンライン予約サイトで、ハノイ発マイチャウ行きのバスを事前に手配しておく方法です。費用は片道30万〜50万ドン(約1,800円〜3,000円)ほど。ハノイ旧市街の指定された集合場所から出発します。
予約が完了すると、ドライバーや運行会社から直接WhatsAppなどのメッセージアプリで「明日の朝、この場所に集まってね」と英語で連絡が届くため安心です。事前にマイチャウでの宿泊先を伝えておくと、村の入り口や、その宿の近くの道沿いで降ろしてくれることもあります。

窓の外の景色が、ハノイのバイクの群れから徐々に雄大な岩山へと移り変わっていく約3時間。車内で外を眺めているうちに、心地よい非日常の入り口に到着します。
■ 「おかえり」の笑顔に包まれる、高床式のやさしい家
マイチャウを訪れる大きな体験、それが彼らの伝統建築である「高床式住居(スターツハウス)」へのホームステイです。中心地(ポムコーン村など)にもたくさんの宿がありますが、今回はさらに一歩離れた、よりのどかな「ナフォン(Na Phon)村」の近くに位置するHoa Ban Lalastayをご紹介します。


地面から一段高くなった木造の建物は、1階が壁のないオープンな共有スペース(食堂やリビング)、2階が天井の高い広々とした寝室スペースになっています。「民族の家に泊まる」とはいえ、温水シャワー、サクサク動くWi-Fiが完備されています。用意されている布団や枕カバーにも、彼らの伝統工芸である美しい刺繍が施されていて、思わず嬉しくなってしまいます。
マイチャウにはいくつか大きなホテルもありますが、せっかくここに来たのなら、ホームステイがおすすめです。
この宿には、都会のホテルのような堅苦しい手続きはありません。到着した瞬間から、宿のオーナーのトゥアンさんが笑顔で「よく来たね!」と迎えてくれます。部屋へ案内された後は完全に自由。果物やお菓子を自然体でもてなしてくれます。周囲の美しい風景も相まって、まるで「おじいちゃん、おばあちゃんの家に遊びに来た」かのような、無条件の安心感に包まれる場所です。

こうしたホームステイを探すときは、Googleマップやホテル予約サイトを覗いてみるのがおすすめです。時にはベトナム語表記のみのページに出会うこともありますが、翻訳アプリを使いながら手探りで予約を進める、そのひと手間さえも「旅の前の非日常感」として楽しさに変わります。写真の雰囲気やレビューをよく見て選んでみてくださいね。宿泊費の相場は、ドミトリー(相部屋)やシンプルな素泊まりであれば1泊1,500円〜3,000円程度、個室タイプや食事付きのプランでも4,000円〜7,000円程度です。
一方で、より贅沢に過ごしたいなら、田んぼの真ん中にプールを構えるMai Chau 4 Seasonsや、きれいに整備されたMai Chau Mountain View Resortといった宿泊施設を選択することも可能です。
また、Hoa Ban Lalastayは最近になって施設が新しく改修されました。ホームステイらしい昔ながらの雰囲気のロッジからホテルのようなお部屋も新設されています。詳細については下記の施設情報からぜひ確認してみてください。

【施設情報:Hoa Ban Lalastay】
住所:Na Phon, Mai Châu, Hòa Bình, Vietnam
電話番号:+84 032 9000 644 ※Zalo(メッセージアプリ)で連絡可能
地図・予約:Googleマップで位置を確認・予約する
■ 別テーブルの温かいおもてなしと、言葉を超えて「ヨー!」と響く夜
マイチャウの夜は、宿の家族が作ってくれる伝統的なタイ族料理です。夕食の時間になると、1階の大きな共有スペースに、野菜のたっぷり入ったスープや、山のハーブで味付けされた肉料理などが並びます。

よく見ると私たち外国人に運ばれてくる料理と、隣のテーブルのベトナム人旅行者たちの料理で、ほんの少し味付けやメニューが違うことがある点です。宿の人が「日本から来てくれたから、口に合うように」と、食べやすい優しい味付けにアレンジしてくれているのです。その細やかな気遣いに胸が温かくなります。
基本的にはグループごとに別々のテーブルで食事を楽しみますが、夜が更けてくると、そこかしこから声がかかり始めます。ベトナムの旅行者たちは、日本から来たゲストだと分かると、自分たちのビールを片手にこちらへやってくるのです。言葉は完全には通じなくても関係ありません。彼らが笑顔で叫ぶのは、ベトナム定番の乾杯の掛け声です。
「モッ(1)、ハイ(2)、バー(3)、ヨー(乾杯)!」
これは「1、2、3、それ乾杯!」という意味の、場を一瞬で明るくする合言葉。何度もグラスを合わせ、ビールを酌み交わしているうちに、言葉の壁は消え去ってしまいます。

さらに夜が更けると、美しい伝統衣装をまとった地元の踊り子さんたちが宿を訪れ、伝統的な演奏や歌を披露してくれます。最後は宿泊者も、村の人もみんなでひとつの大きな円になり、肩を組んでステップを踏む。そんな、純粋で温かい時間がここにはあります。

■ 時計を外し、スマホを閉じて。風の音とペダルを漕ぐ音だけの贅沢
マイチャウには、派手なテーマパークや観光地化されすぎた施設はありません。ここでは、彼らの「日常の暮らし」にお邪魔させてもらうことそのものが、良い体験になります。
朝起きたら、あえて時計を外し、スマホの画面もそっと閉じてみましょう。宿で自転車を借りて、目的もなく村のあぜ道を走り出してみます。

どこまでも続く緑の田んぼ、のんびりと草を食む水牛、軒先で静かに機を織る女性たちの姿。すれ違うたびに、誰もが笑顔で会釈を返してくれます。ただそこにある綺麗な空気と、豊かな自然、そして行き交う人々の柔らかい空気感を全身で受け止める。時間を忘れてペダルを漕いでいるだけで、日々の慌ただしさで固まっていた心がゆっくりとほぐれ、深いリフレッシュ感に満たされていくのが分かります。
のどかな田舎でありながら、村の中には本格的なエスプレッソが美味しいカフェや、ピザ・ハンバーガーが食べられるレストラン、さらには散策で少し疲れた足を癒やしてくれるマッサージショップもあります。こうした「ローカルな風景と、旅行者が困らないインフラ」が同居するギャップも、マイチャウの面白いところです。

また、週末の土日を挟む滞在であれば、朝早くから開かれるローカル市場に足を伸ばすのもおすすめです。近隣のさらに深い山岳地帯から別の少数民族の人々が集まり、手作りの刺繍布や山の新鮮な野菜を並べる光景は、歩くだけで新鮮なエネルギーをもらえます。
マイチャウ市場(Chợ Mai Châu)
・住所:Quốc lộ 15, Thị trấn Mai Châu, Huyện Mai Châu, Hòa Bình
・特徴:中心地からアクセスしやすい、地元タイ族やムオン族が集まる生活市場。日曜朝(7−9時頃)が最も賑やかです。
■ ここにいると、心が優しくなる。またいつでも「帰ってきたい」場所
マイチャウに滞在中、私はいつも「なんだか、ここにきて自分の性格が少し良くなった、優しくなれた気がする」と感じます。
それほどまでに、この地に流れる時間と、出会う人々は優しさに満ちています。ついた瞬間から自分の家族のように心配してくれる宿の人々の眼差し、伝統の手仕事を大切に守りながら生きる少数民族の歴史や文化。彼らと直接肌を触れ合わせ、温かい文化交流を経験することで、「もっとこの人たちのことを知りたい、この美しい文化や暮らしを大切にしたい」という気持ちが自然と湧き上がってきます。

一つの明かりを頼りに作業する姿がとても美しく、しばらくの間、静かに眺めていました。


これを見る度に、またここに戻ってこよう、それまではちょっと頑張みようと思えるのです。
マイチャウにあるのは、マニュアル通りの完璧なホテルサービスではありません。むしろ、チェックインの手続きさえ曖昧な、緩やかで素朴な世界です。しかしだからこそ、そこには「あなたがここに来てくれて嬉しい」という、人間本来の温かさがあふれています。日常のペースに少しだけ疲れてしまったとき、ここに来れば、いつでもあの温かい高床式の家と優しい笑顔が「おかえり」と迎えてくれます。
ハノイからわずか3時間。次のベトナム旅行では、定番のルートを少しだけ飛び出して、心ほどけるマイチャウの優しさに触れてみませんか?
Fav!では、ベトナムの少数民族の伝統技術から生まれた製品や、ユニークな背景を持つブランドを、日本向けに紹介・販売しています。
私たちが現地で目にした、作り手の優しい眼差しや、代々受け継がれてきた手仕事の知恵。それらを単に「商品」として売るだけでなく、その裏側にあるストーリーや、マイチャウのような美しい土地の空気感、そこに住む人々の温かさごとお届けしたいと考えています。
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Writer
Yasu(Fav ! 編集部/ハノイ在住・ベトナム歴5年目)
