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三十六計|特別回第11話 なぜ人は、負けると分かっていても戦い続けるのか ~敗戦の計・実例編~

ここまでの第六套では、
「崩れた側が最後に使う計」
を扱ってきた。

・内部崩壊
・疑心暗鬼
・空洞化
・撤退
・見せかけ
・連鎖

敗戦計とは、
単なる「負け方」ではない。

むしろ、
「なぜ人は、崩れる局面で正常な判断を失うのか」
を扱ったものに近い。

本来、人は、
負けると分かれば止まるはずである。

損をすると分かれば、
引くはずである。

しかし現実では逆に、

・赤字が膨らむほど止まれない
・関係が壊れるほど執着する
・失敗するほど強硬になる
・組織が崩れるほど統制を強める

という現象が起きる。

なぜ人は、
「もう勝てない」
と薄々分かっていても、
戦い続けてしまうのか。


【事例①】

ある企業で、
大型プロジェクトが進んでいた。

しかし途中から、
現場では異変が起きていた。

・納期遅延
・仕様変更
・人員不足
・赤字拡大

すでに、採算割れは見えていた。
現場管理職も、
「このままでは危ない」
と感じていた。

しかし会議では、
誰も中止を言い出さない。
むしろ逆に、

・追加投資
・追加人員
・追加広告
・追加会議

が増えていった。
理由は単純だった。
ここで止めれば、

・過去の判断ミス
・投資損失
・責任問題

が表面化するからである。

つまり人々は、
「未来の勝利」ではなく、
「過去の失敗を認めないため」
に動き始めていた。

結果、損失はさらに拡大した。
しかし最後まで、多くの関係者は、

「ここまで来たらやるしかない」

と言い続けていた。

なぜ人は、損失が大きいほど、
引けなくなるのか?


【事例②】

ある国では、
長期化した戦争によって、
国民の疲弊が進んでいた。

・経済悪化
・物資不足
・人的損失
・支持率低下

誰の目にも、
状況悪化は明らかだった。

しかし政府は、
撤退ではなく、
さらに戦線拡大を進める。

演説では、

・ここで退けば全てが無駄になる
・犠牲者を裏切れない
・あと少しで勝てる
・敵の方が限界に近い

という言葉が繰り返された。
すると次第に国民側も、

「ここで終われない」

という空気に飲み込まれていく。

本来、合理性だけで考えれば、
早期撤退の方が損失は少ない。

しかし実際には、
多くの国家や組織は、
崩れる直前ほど強硬化する。

なぜ人は、
終わらせるほど傷が浅い局面で、
さらに前へ進もうとしてしまうのか?


【事例③】

ある人物は、
長年続けた人間関係に苦しんでいた。

・相手に振り回される
・傷つけられる
・信頼も崩れている

周囲から見れば、
離れるべき状態だった。

しかし本人は、
関係を切れない。
むしろ、

・さらに尽くす
・さらに我慢する
・さらに関係修復を試みる

方向へ進んでいった。
理由を聞くと、

「ここまで支えてきたから」
「簡単に終わらせたくない」
「いつか変わるかもしれない」

と言う。
しかし実際には、
状況は改善していない。
それでも離れられない。

なぜ人は、
苦しいと分かっている関係ほど、
自分から離れられなくなるのか?


【分解】

これらに共通していることは、

・合理性で止まれなくなっている
・損得より感情が優先されている
・過去の投資に縛られている

という点である。

本来、戦略とは、

「勝てない時に引く」

ためにも存在する。
しかし人は、
負け始めると逆に、

・感情
・意地
・恐怖
・責任回避

に支配されやすくなる。
すると目的は、いつの間にか、

「勝つこと」

ではなく、

「負けを認めないこと」

へ変わっていく。
ここで、敗戦計が動き始める。


【問い】

これらに共通しているのは何か。

・なぜ人は撤退できなくなるのか
・なぜ損失が増えるほど執着が強くなるのか
・なぜ崩壊寸前ほど強硬化するのか

ここで動いているのは、
単なる意思の弱さではない。

人は、「失う恐怖」
だけで動いているわけでもない。
むしろ、

・過去を否定したくない
・自分の選択を間違いにしたくない
・意味を失いたくない

という心理に強く支配される。
では、敗戦局面で人を最も狂わせるものは何か。

・恐怖か
・執着か
・責任か
・自己正当化か

あるいは、
それら全てが連鎖しているのか。

これらの構造は、
第六套のどの型に当てはまるのか。

・反間計か
・苦肉計か
・連環計か
・走為上計か

あるいは、
複数が同時に動いているのか。
重要なのは正解ではない。

「人はいつ撤退できなくなるのか」
「どこで冷静さを失うのか」
「なぜ負けるほど執着が強くなるのか」

そこに気づけるかどうかである。
一度この視点を持つと、

・強気な言葉が危険信号に見え
・止まれない組織の空気が見え
・崩壊前の焦りが見える

ようになる。


【まとめ】

敗戦計の局面ほど、
人は冷静さを失いやすい。

しかし本当に危険なのは、

・敵の強さ
・状況悪化
・資源不足

だけではない。
最も危険なのは、

「もう止まれない」

という心理状態である。

人は、
損をしたから止まれないのではない。
「ここまでやった意味を失いたくない」
から止まれなくなる。

だからこそ、
崩壊は突然起きるのではない。

少しずつ、
撤退できる地点を失い続けた結果として起きる。

そして多くの場合、
人は最後まで、

「まだ逆転できる」

と思い続けながら、
崩れていくのである。


解答は明日、

【第六套:敗戦計】実例篇⑥ 
なぜ人は負け戦から退けなくなるのか

を投稿します。

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