世界の偉人シリーズ|第9話 井植敏男 三洋電機創業者・松下幸之助を超えようとした男
世の中には、
華やかな創業者がいる。
天才発明家。
圧倒的カリスマ。
時代の寵児。
しかし一方で、
もっと泥臭く、
もっと生活に近い場所から、
時代を変えた人もいる。
その代表格だった。
彼は、革命家ではない。
派手な理論家でもない。
むしろ、
「戦後に放り出された男」だった。
だがその男は、洗濯機を通じて、
日本の家庭そのものを変えていく。
三洋電機とは、
単なる家電メーカーではない。
「家庭の苦労を減らす会社」だった。
井植敏夫
戦後日本を代表する家電経営者の一人。
松下幸之助の義弟。
松下電器専務、その後企業。
1902-1969|三洋電機創業者。
【松下家の人間だった】
井植敏夫は、
松下幸之助の妻・むめのの弟である。
つまり、松下家の身内だった。
若い頃から松下電器で働き、
営業、生産、現場管理で頭角を現す。
彼は、学者肌ではない。
しかし非常に強かった。
特に、
・現場感覚
・行動力
・販売網構築
・生産管理
に優れていた。
彼は、
「どう作るか」だけではなく、
「どう生活へ届けるか」
を考える人間だった。
ここが後の三洋へ繋がっていく。
【GHQによって「外へ出された」】
戦後、運命が変わる。
GHQは、戦後改革を進めていた。
・財閥解体
・企業民主化
・経営陣整理
その流れの中で、
松下グループも整理対象になる。
そして井植は、
経営中枢から外される。
彼は、松下一族でありながら、
会社を失った。
しかも1940年代後半。
日本はまだ、
・食糧不足
・資材不足
・インフレ
・混乱
の真っただ中だった。
後に成功したから美談に見える。
だが当時は、本当に先が見えなかった。
【三洋の始まり】
1947年、
井植は、小さな工場で再出発する。
最初に作ったのは、
・自転車用発電ランプ
・小型モーター
などだった。
まだ、巨大家電メーカーとは程遠い。
しかし彼は、既に世界を見ていた。
社名「三洋」には、
太平洋
大西洋
インド洋
を越えていく会社、
という意味が込められている。
焼け跡の日本。
しかも小工場。
その段階で、既に世界市場を見ていた。
ここが、井植の面白さだった。
【彼が見ていたのは「家庭の苦労」】
当時の日本では、
洗濯は重労働だった。
特に息子の嫁。
・冬でも手洗い
・水仕事
・大家族
・長時間家事
が普通だった。
当時は祖父母、両親、若夫婦、子供が同居。
嫁は真冬でも一日三回手洗いで洗濯していた。
井植は、そこを見ていた。
彼が見ていたのは、機械ではない。
家庭の苦労。
女性たちの苦労だった。
ここが、三洋の本質である。
彼は、
「家事を減らせば、
人生の時間を取り戻せる」
と考えていた。
だから三洋は、
単なる家電会社ではなく、
「生活改善会社」
だったのである。
【洗濯機は失敗だらけだった】
現在では当たり前の洗濯機。
しかし当時は、
極めて難しい製品だった。
問題だらけだったのである。
・モーターが焼ける
・水漏れ
・振動
・感電
・騒音
・コスト高
しかも日本家屋は狭い。
欧米製を、そのまま持ち込めない。
そのため、
「日本の生活に合う家電」
をゼロから作る必要があった。
井植は、何度も試作を繰り返す。
社長室に洗濯機を持ち込み挑戦する。
失敗
改良
また失敗
資金も苦しい。
社員数も少ない。
それでも彼は、
「絶対に家庭は電化される」
と信じていた。
ここが重要だった。
当時、多くの人は、
洗濯機を贅沢品だと思っていた。
しかし井植は違った。
これは、将来の生活インフラになる。
そう読んでいたのである。
そして彼は7年の歳月を費やした。
【最大の問題は「売る場所」だった】
ようやく洗濯機が完成した。
しかしまたも問題が起こる。
三洋には、販売網がなかった。
当時の大手家電メーカーは、
系列電器店を持っていた。
しかし三洋にはない。
普通なら、ここで終わる。
だが井植は、松下時代を思い出す。
彼は以前、営業として、
「自転車屋ルート」
を開拓していた。
そこで考えた。
自転車屋で、
洗濯機を売れないか?
当時の自転車屋は、
・地域密着
・修理に強い
・モーターに理解がある
という特徴があった。
しかも店先は、油まみれだ。
そこへ、洗濯機を置く。
今なら違和感がある。
しかし逆に、それが目立った。
主婦たちは、「あれは何だ?」
と興味を持ち店主に尋ねる。
店主は「洗濯機」だ。
この機械が洗濯してくれる。
油が落ちるし便利だと答える。
ここから、販売が伸び始める。
つまり井植は、
「販路がなければ、自分で発明する」
人だった。
単なる努力家ではない。
販売導線まで考える、
極めて現場型の経営者だったのである。
【三洋が変えたのは「家庭の時間」】
三洋が本当に変えたもの。
それは、家電市場だけではない。
家庭の時間だった。
洗濯機によって、
・女性の労働時間
・肉体負担
・家事拘束
が大きく変わる。
三洋は、「戦後日本の家庭構造」
そのものへ影響を与えた会社でもある。
これは実は、かなり大きい。
【三洋文化の原型】
三洋には昔から、
独特の空気があった。
・現場主義
・泥臭さ
・スピード
・実用性
・海外志向
が強い。
これは、井植そのものだった。
【まず生活に必要か】
Sony が、
未来
感動
ブランド
を重視したのに対し、
三洋はもっと生活へ近い。
・洗濯機
・冷蔵庫
・掃除機
・炊飯器
・テレビ
など、生活密着型へ強かった。
なぜか?
創業者自身が、
「今の家庭に何が必要か」
を、見ていたからである。
【庶民の味方だった】
昔の三洋製品には、
・安い
・実用的
・丈夫
という印象が強かった。
これは井植の、
「家電を大衆へ届けたい」
という思想から来ている。
つまり三洋は、
「高級家電」ではなく、
「生活インフラ」
を目指していたのである。
【海外志向が異常に早かった】
三洋は、
かなり早い段階から海外へ出ている。
なぜなら井植は、
「日本市場だけでは限界が来る」
と考えていたからだ。
これは当時、かなり先進的だった。
焼け跡の時代に、
既に世界市場を前提にしていた。
ここにも、井植の視野の広さがある。
【情に厚い現場人間】
井植は、
かなり情に厚い人物だったと言われる。
戦後の苦労を知っていた。
だから、社員を食わせる意識が強い。
机上だけで判断しない。
工場へ行く。
現場を見る。
販売店を見る。
彼は、
「数字だけの経営者」
ではなかった。
【異常な負けず嫌い】
しかも彼には、強い執念があった。
松下を離れた後、
「絶対に成功する」
という意識が非常に強かった。
しかも比較対象は、松下幸之助である。
これは相当なプレッシャーだった筈だ。
だからこそ、井植は、
「松下とは違う道」
を意識したとも言われる。
ここが、三洋独特の泥臭さへ繋がっていく。
【失敗と弱点】
もちろん、成功ばかりではない。
後年の三洋は、
極めて多角化していく。
・半導体
・電池
・白物家電
・金融
・流通
「何でもやる会社」になっていった。
これは成長力にもなった。
しかし逆に、
経営資源分散の原因にもなった。
【ブランド戦略は弱かった】
三洋は、
・現場力
・実用性
には強かった。
しかし、
・高級感
・デザイン
・ブランド演出
では、Sony や Panasonic に劣る部分があった。
「良い製品だが地味」
になりやすかったのである。
これは三洋最大の弱点でもあった。
【猛烈文化の限界】
三洋は、非常に現場主義だった。
スピードも速い。
しかしその反面、
・長時間労働
・精神論
・根性文化
も強かったと言われる。
これは、戦後型企業の典型でもある。
成長期には強い。
だが時代変化には、苦しみやすい。
ここにも、昭和企業らしさがある。
【戦っていた相手】
井植が戦っていたのは、
競合企業だけではない。
本当に戦っていたのは、
・重すぎる家事
・不便な生活
・家庭の苦労
・「家電は贅沢品」という常識
だった。
だから彼は、
洗濯機を作り、
家庭へ電化を持ち込み、
生活時間そのものを変えていった。
三洋がやったのは、
単なる家電販売ではない。
「生活革命」だった。
【これは戦略だったのか】
結果だけ見れば、三洋電機成功譚。
しかし中には、かなり強い型がある。
・家事負担を観察する
・庶民生活から発想する
・「高級品」を日用品へ落とし込む
・大企業が見ない市場へ入る
・販路が弱ければ自分で作る
・生活導線そのものを変える
・価格を下げて普及側へ振る
・時代変化を家庭視点で見る
極めて生活密着型の構造である。
井植は、巨大理論を語るタイプではなかった。
しかし実際には、
洗濯
↓
家電普及
↓
家事時間短縮
↓
女性の生活変化
↓
高度成長期の家庭構造変化
まで繋がっていた。
彼は、単に家電を売っていたのではない。
「家庭から、人間の時間を解放する」
ことをやっていたのである。
【まとめ】
井植敏夫は、
学者でも、
発明家でも、
華やかなカリスマでもなかった。
むしろ、
戦後に放り出された現場人間
だった。
しかしその男は、
・洗濯機
・冷蔵庫
・家電普及
を通じて、
戦後日本の暮らしを大きく変えていく。
だから井植は、
「家電王」
というより、
「日本の家庭労働を減らした人」
として見ると、
非常に人間臭く、
そして面白い人物なのである。
次回予告
世界の偉人シリーズ|第10話 ヘンリー・フォード
Ford Motor Company 創業者
こちらが投稿記事インデックスです。
ご関心がある記事があれば是非ご覧ください。
投稿記事インデックス ★こちらで関心ある記事をお探し頂けます
投稿記事インデックス#2 ★シリーズ毎の閲覧メリットを説明しています
孫子の兵法シリーズ目次 ※全42話が確認頂けます
三十六計シリーズ目次
世界の偉人シリーズ|インデックス
いいなと思ったら応援しよう!
もしよろしければ応援をお願いいたします。いただいたチップはクリエイター活動費に使わせていただきます!ありがとうございます。