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孫子の兵法|第27話 軍はなぜ崩れるのか ~行軍篇が教える敗北の兆候~(行軍篇)

軍は突然崩れない


軍隊が崩壊するとき、
それは突然起きるわけではない。

敗北には、必ず前兆がある。
孫子は行軍篇でこう述べている。

 辭卑而益備者,進也。
 辭強而進驅者,退也。


言葉が低姿勢でありながら、守りの備えを固めている場合は
「進撃してくる」。
言葉が強気で、前に出て追い立ててくる場合は
「退こうとしている」。

つまり孫子は言う。

軍の行動には、必ず心理が現れる。

戦場では、
言葉、動き、態度、行動のすべてが
軍の内部状態を映し出している。

敗北は、戦闘が始まる前から始まっているのだ。


軍隊の崩壊は心理から始まる


戦場では、兵士の心理がすべてを決める。

孫子は行軍篇で、
軍の内部が乱れる兆候をいくつも挙げている。

例えば次のようなものだ。

・兵士がざわついている
・隊列が整わない
・将軍の命令が徹底されない
・陣営の動きが統一されない

こうした現象は、
単なる規律の問題ではない。
軍の信頼関係が崩れている兆候なのだ。

戦場において、兵士は命を預けて戦う。
そのとき兵士が信じているものは二つしかない。

・将軍の判断
・仲間の存在

この二つの信頼が崩れたとき、
軍はまだ戦っていなくても
すでに敗北している。


歴史に見る軍の崩壊


歴史上、軍が心理的に崩壊した例は多い。

例えば、
フランス軍が崩壊した1940年のフランス戦役がある。

当時フランス軍は
装備でも兵力でも
決して劣っていなかった。

しかしドイツ軍の電撃戦によって
前線が突破されると、

・司令部の判断が混乱
・命令系統が崩壊
・部隊の移動が統制不能

という状況に陥った。

兵士たちは、
どこが前線なのか、
誰の命令に従えばよいのか
分からなくなった。

結果、
フランス軍はわずか6週間で崩壊する。

軍事史家はこの敗北を

「精神的崩壊」

と呼んでいる。

兵士が敗れたのではない。
軍の心理構造が崩れたのである。


行軍篇が教える視点


行軍篇の特徴は、
戦術の説明ではない。
戦場の兆候を読む技術である。

孫子は言う。

軍の状態は必ず外に現れる。

・兵士の態度
・陣形の乱れ
・命令の伝わり方
・隊列の動き

これらを観察すれば、
軍の内部状態は分かる。

つまり孫子は

戦場を観察せよ

と言っているのだ。
優れた将軍は、

戦闘の結果を見るのではなく、
戦闘の前に兆候を見る。


経営に見る「行軍篇の失敗事例」


2013年、
ペッパーフードサービスは
新業態 いきなり!ステーキ を立ち上げた。
 
コンセプトは極めてシンプルだった。
 
「立ち食いステーキ」
 
それまでのステーキは

・高級店
・ファミレス

のどちらかだった。
そこに

「安く・早く・肉だけ食べる」
 
という新市場を作った。
そしてこれがヒットした。

すると、短期間に大量出店を進めた。
2013年 1店
2014年 5店
2015年 50店
2017年 200店
2018年 500店超


市場には「異変」が出ていた


①客単価の低下
当初の客単価は、3000円前後だった。
しかし競争が増え、2000円台へ下落。

②リピーター減少
「立ち食い」は話題性はあるが、
 
・ゆっくり食事できない
・家族利用には向いてない
・日本人にとってステーキは「ハレ」の食事
 
想定したリピート率を生まなかった。
 
③同業参入
成功を見た外食企業が
次々とステーキ業態に参入。
 
・ステーキチェーン
・焼肉店
・ファミレス

市場は一気に競争状態になる。

それでも出店を止めなかった。
ここが経営判断の分岐点だった。
普通なら

・出店スピードを落とす
・市場を再分析する

局面だった。
しかし、一瀬邦夫社長は

「1000店構想」

を掲げて拡大を継続させた。
 
結果、2019年には44点を閉鎖。
さらにその後、200店以上を閉店することになった。


孫子は言う。
 
「小さな兆候を見逃すな」
「敵の兆候を観察せよ」

 
経営に置き換えると、
見るべきは

・客数
・客単価
・競争環境
・リピーター率

である。
しかし急成長の成功体験は
経営者の目を曇らせた。
 
成功は、
時として最大の敵になる。


組織でも同じことが起きる


企業組織でも同じ現象が起きる。

会社が崩壊するとき、
それは突然ではない。

必ず次の兆候が現れる。

・会議が増える
・責任の所在が曖昧になる
・現場が指示を信用しなくなる
・組織内で情報が止まる

こうした現象は、
単なる業務の問題ではない。

組織の信頼が崩れている兆候である。

組織とは
人間の信頼によって成立する構造だ。

信頼が崩れた瞬間、
組織はまだ動いていても
内部ではすでに崩壊が始まっている。


核心テーマ


行軍篇の核心はシンプルだ。

軍は心理で崩れる。
兵力でも、武器でもない。
軍を支えているのは、信頼である。

将軍への信頼
仲間への信頼
組織への信頼

それが崩れた瞬間、
軍はまだ戦っていなくても
敗北している。


まとめ


行軍篇は、戦術の書ではない。
戦場観察の書である。

・軍の状態は必ず外に現れる
・敗北には必ず兆候がある
・軍は心理から崩れる
・信頼が軍を支える

戦場で最も重要なのは、
敵の兵力ではない。
軍の内部状態である。

敗北は戦闘で始まるのではない。
心理から始まるのだ。


次回予告
第28話 勝つ軍には兆候がある 
~行軍篇が教える勝利の兆し~

孫子の兵法シリーズ目次 ※最新記事までの全話が確認頂けます


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