孫子の兵法|第26話 優れた将軍は失敗を知っている ~九変篇が教える判断力~(九変篇まとめ)
勝利だけを学ぶな
人は成功から学ぼうとする。
しかし孫子は違う視点を持っている。
九変篇にはこうある。
將有五危
「将に五危あり」
将軍には五つの危険がある。
ここで孫子が警告しているのは、
失敗の原因である。
優れた将軍とは、
勝ち方を知っている者のことではない。
負け方を知っている者のことだ。
ビジネスモデル組成の注意点
営業組織は、トップセールスの手法を手本に
全員にそれを真似させようとする。
しかしそれは本当に皆が真似できることなのか、
それを徹底して問い詰める組織は少ない。
優れたリーダーは、
失敗原因を分析して再発防止を徹底し、
成功する原因を明確にする。
五つの危険
孫子が挙げる五つの危険は次の通りだ。
① 必死: 死を恐れない性格
② 必生: 生き残ることを第一にする
③ 忿速: 怒りっぽく短期
④ 廉潔: 名誉や潔白を重んじすぎる
⑤ 愛民: 兵や民を愛しすぎる
一見するとどれも
すべて美徳に思える。
しかし戦場では、
それぞれが罠になる。
必死の将は、
退くべき時に退かない。
必生の将は、
危険を恐れて機会を逃す。
短気な将は、
挑発に乗る。
清廉すぎる将は、
侮辱されれば反応してしまう。
民を愛しすぎる将は、
部下を守ろうとして判断を誤る。
つまり孫子は言う。
人間の美徳は、戦場では弱点になる。
歴史が示す「過信」
歴史上、多くの将軍が自分の強みによって敗北した。
例えば、ナポレオン・ボナパルト。
彼はヨーロッパ最強の軍事指導者だったが、
1812年、ロシア遠征で致命的な敗北を喫する。
彼はこれまでの戦争で何度も成功してきた
必勝パターンで進軍した。
速い進軍
決戦による短期決着
だが、ロシア軍指揮官ミハイル・クトゥーゾフ は
戦わなかった。
・正面決戦を避け
・後退し
・食料や都市を焼く
という 焦土作戦 をとり冬を待った。
ナポレオンはモスクワに到着するが、
・市民はいない
・食料はない
・都市は火災で焼けていた
ナポレオンは撤退することにしたが、
ロシアの厳冬、飢餓、コサックの攻撃により
60万人の大軍は数万人まで減少した。
補給線が長すぎたせいだ。
彼の成功の経験が、
判断を鈍らせたのである。
これは経営の世界でも同じだ。
例えば、第23話で取り上げた
ダイエー創業者・中内功氏
中内氏は、「良い品をどんどん安く」
という革命的流通モデルで
百貨店中心の日本の流通を破壊し、巨大スーパーを創り上げた。
しかしその成功体験が後に大きなバイアスになる。
成功モデル:
・巨大総合スーパー
・大量仕入れ
・低価格販売
このモデルに固執した結果、市場は
・コンビニ
・専門店
・ショッピングモール
へと変化したが対応できず、
2004年、ダイエーは経営破綻した。
成功バイアスの本質
時代に関係なく、
成功者が陥る構造は共通している。
① 成功モデルが確立
↓
② 成功体験が信念になる
↓
③ 市場が変化
↓
④ 変化を否定
↓
⑤ 市場から退場
つまり、成功体験が大きいほど
人はその成功体験に縛られ変化できなくなる。
孫子は、
兵無常勢 水無常形
兵は敵に因りて勝を制し、水は地に因りて流る。
現代訳すると、
戦略は固定するものではなく、状況に応じて変化させるもの
だと説いている。
現代の意思決定にも起きる
成功した経営者ほど、
自分の判断に自信を持つ。
しかし市場は変わる。
成功体験は、
最も危険な思考バイアスになる。
例えば
・成功した商品戦略
・成功した営業モデル
・成功した組織運営
これらは
環境が変わると機能しなくなる。
優れた経営者とは、
成功の再現を考える人ではない。
失敗の可能性を常に考える人である。
成功モデルに固執した瞬間、敗北が始まる。
核心テーマ
九変篇の教えは明確だ。
自分の弱点を知れ。
敵よりも先に、
自分を観察せよ。
なぜなら戦場では、
人間の性格そのものが戦略になる
からである。
怒りや恐れ、誇りや優しさ。
それらすべてが判断に影響する。
優れた将軍は、それを理解している。
まとめ
九変篇が教えるのは、
戦術ではなく自己理解である。
・美徳は弱点になる
・成功体験は判断を曇らせる
・敵は性格を突いてくる
・自分の危険を知れ
戦場において
最も予測しにくいものは敵ではない。
自分自身である。
優れた将軍とは、
勝ち方を知る者ではない。
失敗の原因を理解している者である。
なぜなら
成功にはまぐれがある。
偶発もある。
しかし
失敗には必ず理由があるからだ。
次回予告
第27話 軍はなぜ崩れるのか
~行軍篇が教える軍の乱れ~
孫子の兵法シリーズ目次 ※最新記事までの全話が確認頂けます
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