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三十六計|特別回第12話 なぜ人は、負け戦から退けなくなるのか【解答】

前回扱った事例では共通して、
「負け始めている」
という兆候が存在していた。

しかし当事者たちは、
途中で止まれなかった。

・明らかに赤字が拡大している
・組織が疲弊している
・現場が崩れ始めている
・勝率が下がっている
・周囲も危険視している

それでも、人は戦い続ける。
しかも厄介なのは、

本人たちも、
「冷静に判断している」
と思っていることである。

第六套(敗戦計)が扱うのは、
単なる敗北ではない。

「なぜ人は、負ける局面ほど、
正常な撤退判断を失うのか」
という構造だ。


【事例①の構造】

赤字事業へ投資を続けた企業。
ここで起きていたのは、
単なる経営判断ミスではない。

本質は、
「過去投資の正当化」である。

人は、一度大きく投資すると、
途中で止まることが難しくなる。
なぜか?

撤退を認めた瞬間、
・費やした時間
・使った資金
・過去の判断
・自分の面子
まで否定される感覚になるからだ。

つまり本当は、
未来を見ているようで、
実際には、
「過去を否定したくない」
という心理で動いている。

これは、
第32話「空城計」
とも繋がる。

本来、空城計とは、
「戦えない時に、無理に戦わない」
ための型である。

しかし現実では逆に、
撤退すべき局面ほど人は虚勢を張る。

・まだいける
・次で回復する
・ここで止めたら終わりだ
・あと少し耐えれば逆転できる

こうして、
本来は冷静に見るべき状況を、
感情が覆い始める。

すると組織全体も、
「止められない空気」
へ変わっていく。

つまり敗戦計では、敵より先に、
自分の心理が判断を狂わせるのである。


【事例②の構造】

長期戦へ突入した企業間競争。
ここで起きていたのは、
「勝負の目的の消失」である。

最初は、利益や成長のために始めた競争だった。
しかし途中から、目的が変わっていく。

・相手に負けたくない
・ここで引けば立場を失う
・市場に弱いと思われる
・過去の発言を撤回できない

つまり、
「成果のための戦い」ではなく、
「引けなくなる戦い」へ変質していた。

これは、
第35話「連環計」
に近い構造を持つ。

連環計とは、
単体ではなく、
複数の要素が絡み合い、
全体が抜け出せなくなる型である。

このケースでも、

・競争
・メディア評価
・株主期待
・社内面子
・経営責任
が連鎖し始めていた。

すると誰も、
「一度止まりましょう」
と言えなくなる。

なぜなら、途中撤退が、
敗北宣言のように見えるからである。

しかし現実には、
負け戦ほど、
「戦い続けるコスト」
が急激に膨らむ。

だから本来、
最も難しい能力は、
勝つ能力ではなく「退く能力」なのだ。


【事例③の構造】

崩壊寸前でも、
現場が動き続けた組織。

ここで恐ろしいのは、
多くの現場社員が、
途中から、
「おかしい」
と感じていた点である。

しかし誰も止められなかった。
なぜか?

理由は単純で、
周囲も動き続けていたからである。

人は集団の中に入ると、
自分単独の判断を失いやすい。

特に組織では、
・皆が徹夜している
・上司も続行している
・会社全体が前進している
という空気が生まれると、
途中離脱が、「裏切り」
のように感じ始める。

これは、
第36話「走為上」
と深く関係する。

走為上とは、
単なる逃走ではない。

「生き残るために、
戦場から離脱する判断」

である。

しかし現実では、多くの人が、
逃げることを敗北と誤認する。

すると、
本来なら撤退すべき局面でも、
組織全体で突入し続ける。

しかも怖いのは、
こういう時ほど、
内部では、
「一致団結している」
ように見えることだ。

だが実際には、
正常判断を失った集団同調が、
加速しているだけの場合がある。

つまり敗戦計では、
敵軍より先に、「空気」
が人を追い込むのである。


【敗戦計の核心】

第六套(敗戦計)が扱っているのは、
「負ける状況」そのものではない。

本当に扱っているのは、

「なぜ人は、負け始めると、
さらに深く突入してしまうのか」

という構造である。

そして現実では、
敗北の原因の多くは、
最初の失敗ではない。

・途中で止まれない
・撤退を認められない
・過去判断を否定できない
・周囲の空気から離脱できない

ここで傷が拡大する。

つまり、
人を破壊するのは、
失敗そのものより、

「失敗を認められない心理」
なのである。


【重要な視点】

現実社会でも、
巨大失敗ほど、最初は小さい。

・小さな赤字
・小さな違和感
・小さな無理
・小さな虚勢

しかし途中で、
「今なら戻れる」
という地点を越えると、
人は逆に、突入を加速させる。

なぜなら、
途中で止まる方が、
精神的苦痛になるからだ。
これは、

企業でも、
国家でも、
戦争でも、
投資でも、
人間関係でも起きる。

だから敗戦計とは、
単なる敗北論ではない。

「人は、どの瞬間に正常判断を失うのか」
を扱う計なのである。


【核心メッセージ】

人は、
勝っている時より、
負け始めた時の方が、
冷静さを失いやすい。

なぜなら、
負けを認めることは、現実だけでなく、
自分自身を否定する感覚に近いからである。
だから人は、

・さらに投資し
・さらに戦い
・さらに突入し
・さらに撤退不能になる。

しかし現実では、
本当に危険なのは「失敗」ではない。
「止まれなくなること」
である。


【まとめ】

第六套(敗戦計)は、
追い詰められた局面で、
人がどのように判断を失うかを扱っている。

・面子
・執着
・集団空気
・過去投資
・恐怖

これらが絡み始めると、人は、
「合理的撤退」ができなくなる。

そして多くの場合、
崩壊は、最初の敗北ではなく、
「退けなかったこと」
によって決定的になる。

だから本当に難しいのは、
勝つことだけではない。

「どこで退くか」
を見極めることなのである。


【最後に】

ここまで三十六計をお読み頂き有難うございました。
三十六計は、単なる「騙し合いの兵法」ではありません。
本質は、

・人はなぜ動くのか
・なぜ流れが変わるのか
・なぜ強者が崩れるのか
・なぜ弱者が勝てるのか

という「人間社会の構造」を観察した書物です。
そして現実社会でも、人は必ずしも
合理だけで動いているわけではありません。

・感情
・空気
・恐怖
・希望
・面子
・欲望
・疲弊
・慢心

こうしたものが複雑に絡み合い、
組織も、市場も、国家も動いています。
だからこそ三十六計は戦争だけではなく、

・経営
・営業
・交渉
・組織運営
・人間関係
・人生判断

にまで応用され続けてきました。
ただし重要なのは、「相手を陥れる技術」
としてだけ見ないことです。

・人はどこで判断を誤るのか
・なぜ流れを読めなくなるのか
・なぜ負け戦から退けなくなるのか

を知ることで、
自分自身の判断を守る視点にもなります。
現実では、力だけで勝負は決まりません。

・空気を読める人
・流れを変えられる人
・撤退を決断できる人
・相手の心理を理解できる人

の方が、最後に大きな差を作ることがあります。
三十六計は、「こうすれば必ず勝てる」
という万能の答えではありません。

人間社会の裏側で何が起きているかを、
一段深く見る視点を与えてくれる。
私はそう感じています。

もし今後、
・会社
・組織
・市場
・SNS
・政治
・人間関係
を見る時に、
「あの時読んだ構造かもしれない」と、
一度立ち止まれる瞬間があれば、
このシリーズを書いた意味は十分にあったと思っています。
ここまでお付き合いいただき、本当に有難うございました。

明日からは、第六章「世界の偉人シリーズ」を連日投稿いたします。


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