孫子の兵法|第25話 すべての状況に「正解」はない ~九変篇が教える柔軟な判断~(九変篇)
状況は常に変わる
戦場において、最も危険なものは何か。
それは敵ではない。
固定された思考である。
孫子は「九変篇」でこう述べている。
將有五危:
必死可殺也,
必生可虜也,
忿速可侮也,
廉潔可辱也,
愛民可煩也。
将に五危あり。
必死は殺され、
必生は虜にされ、
忿速は侮られ、
廉潔は辱められ、
愛民は煩わさる。
現代文に訳すと、
将軍には五つの危険がある。
死を恐れない者は殺される。
生を重んじすぎる者は捕らえられる。
短気な者は挑発に乗る。
清廉すぎる者は侮辱される。
民を愛しすぎる者は利用される。
ここで孫子が指摘しているのは、
性格の欠点ではなく
長所の固定化だ。
どんな美徳も、状況が変われば弱点になる。
戦場においては、
正しい性格というものはない。
あるのは、
状況に合うかどうかだけである。
なぜ「正しさ」は危険なのか
人は、自分の強みを信じる。
それ自体は悪いことではない。
問題は、
その強みをいつでも使おうとすることだ。
孫子は言う。
知九變之利者,知用兵矣。
「九変の利を知る者は、兵を用うることを知る。」
つまり、
九変の利を理解する者だけが、
兵の運用を知る。
九変とは、
九つの変化する状況のことだ。
つまり孫子は、
戦いの本質をこう定義している。
戦争とは、変化への対応である。
どれほど優れた戦術でも、
状況が変われば意味を失う。
だからこそ、
固定された正解は存在しない。
歴史に見る「正解の罠」
歴史では、
「正しい戦術」で敗北した例が多い。
例えば、カンネーの戦い。
ローマ軍は当時、
最も合理的とされた戦術を取った。
大軍を集中させ、
正面から押し潰す。
これはローマ軍が何度も勝利してきた
成功パターン・必勝パターンだった。
しかしその戦術は、
ハンニバルに読まれていた。
ハンニバルは中央をあえて後退させ、
両翼から包囲する。
結果、ローマ軍は
史上最大級の壊滅を受ける。
ここで重要なのは、
ローマ軍の戦術が間違っていたわけではなかった
ということだ。
それはむしろ
最も成功していた戦術だった。
しかし、状況が変わった。
正しい戦術は、
最も読まれやすい戦術でもある。
現代ビジネスにおける「成功パターンの罠」
企業経営でも同じことが起きる。
成功した企業は、
成功の理由を分析する。
そしてそれを
「成功モデル」として再現しようとする。
しかしここに落とし穴がある。
成功モデルとは、
過去の環境に適応したモデルなのだ。
市場が変われば、
そのモデルは機能しなくなる。
かつて市場で圧倒的だった
Kodak や Nokia も、
デジカメやスマートフォン時代になり苦戦した。
彼らの戦略が間違っていたのではない。
環境が変わったのである。
九変篇が教えるのは、
まさにこの視点だ。
成功モデルに依存するな。
変化を前提に思考せよ。
ファーストリテイリング(ユニクロ)の経営者
柳井会長がよく語る経営哲学の一つにこんな言葉がある。
「変化しないことは衰えていることである」
現状維持は成長ではない
常に自分たちを壊す必要がある
変化できない企業は必ず消える
つまり、
「変わらない企業は、すでに負け始めている」
という警告だ。
核心テーマ
九変篇の核心はシンプルだ。
戦場に正解はない。
あるのは
・状況
・相手
・時間
・環境
である。
そしてこれらは常に変わる。
つまり戦いとは、
変化に合わせて判断を変える技術
なのだ。
まとめ
九変篇は、戦術の書ではない。
思考の柔軟性を教える篇である。
・正しい性格は存在しない
・長所も状況によって弱点になる
・成功パターンは読まれる
・変化に合わせて判断を変えよ
戦場において最も危険なのは、
敵ではない。
固定された思考なのだ。
次回予告
第26話 優れた将軍は失敗を知っている
~九変篇が教える判断力~(九変篇まとめ)
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