世界の偉人シリーズ|第40話 田中角栄 第64・65代内閣総理大臣 日本列島を経営した男
世の中には、
会社を大きくした人がいる。
工場を作った人がいる。
世界的なブランドを築いた人がいる。
しかし、
「国そのものを動かした人」
は少ない。
道路を作る。
鉄道を通す。
空港を整備する。
電気を届ける。
人と金の流れを変える。
企業経営ですら難しい。
まして相手が一億人を超える国民ならなおさらだ。
しかし、その巨大なプロジェクトを動かした男は、
東大卒でもなかった。
官僚でもなかった。
名門政治家の息子でもなかった。
雪深い新潟の農村で生まれ、
高等教育すら満足に受けられなかった一人の青年だった。
田中角栄。
彼は総理大臣になった男ではない。
日本列島を経営した男である。
田中角栄
第64・65代内閣総理大臣。
高度経済成長期の国家設計者。
日本列島改造論を掲げ、日本のインフラ構造を根本から変えた男。
1918-1993|政治家・実業家・国家経営者。
【雪国の少年】
1918年、新潟県刈羽郡。
冬になれば雪が積もる。
道路は埋まる。
物流は止まる。
都会なら数時間で済むことに何日もかかる。
豊かな地域ではなかった。
角栄は幼い頃から見ていた。
なぜ東京には仕事があるのか。
なぜ地方にはないのか。
なぜ東京には人が集まり、
地方からは人が出ていくのか。
この疑問は、
後の日本列島改造論へと繋がる。
角栄は後に日本を変える。
しかしその原点は、
雪国の不便さだった。
【学歴がない】
角栄は高等教育をほとんど受けていない。
東大も出ていない。
官僚試験も受けていない。
当時の政治の世界は、
東大
官僚
名門家系
そうしたエリートが支配していた。
角栄はその外側にいた。
しかし彼には別の武器があった。
行動力だった。
そして異常な努力だった。
人の何倍も働く。
人の何倍も覚える。
人の何倍も会う。
学歴で勝てないなら、
実行力で勝つ。
それが角栄だった。
【建設業で学んだ現実】
若い頃、角栄は建設業界へ入る。
そして自ら会社を立ち上げる。
ここで彼は重要なことを学ぶ。
世の中は理想だけでは動かない。
道路がなければ工場は来ない。
電気がなければ産業は育たない。
人と金が流れなければ地域は発展しない。
つまり、
経済発展にはインフラが必要だった。
この経験が、後の政治思想になる。
【なぜ政治家になったのか】
事業は順調だった。
会社経営者として成功する道もあった。
だが角栄は満足しない。
故郷を思い出す。
雪国
過疎
貧困
若者の流出
彼は気付く。
会社を一つ成功させても、
地方は変わらない。
道路を一本作るには政治が必要だ。
ダムを作るにも政治が必要だ。
鉄道を通すにも政治が必要だ。
つまり、
本当に地方を救うには、
国を動かさなければならない。
だから政治家になる。
出世のためではない。
勲章のためでもない。
地方を変えるためだった。
【選挙の天才】
ここから角栄の伝説が始まる。
角栄の選挙は異常だった。
演説ばかりしない。
政策集を配るだけでもない。
歩く。
ひたすら歩く。
家を回る。
靴を脱ぐ。
座敷へ上がる。
話を聞く。
母親の話。
子どもの話。
農作物の話。
病気の話。
借金の話。
何時間でも聞く。
そして帰る。
だが驚くのは次だった。
次に会った時、全部覚えている。
「お母さん元気か」
「長男は就職したか」
「娘さんの結婚はどうなった」
相手は驚く。
この人は覚えている。
つまり、自分を見てくれている。
これが角栄の選挙だった。
政策より先に、
人を見る。
だから強かった。
【人を覚える怪物】
角栄の記憶力は伝説になった。
国会議員の名前。
秘書の名前。
地元支援者の名前。
それだけではない。
妻の名前。
子どもの名前。
家族構成。
誕生日。
そこまで覚えていたと言われる。
ある日、久しぶりに会った支援者に角栄は言う。
「お母さん元気か」
相手は驚く。
さらに続ける。
「長男は大学を卒業したか」
「娘さんの結婚はどうなった」
なぜ覚えているのか。
記憶力が良かったからではない。
人に興味があったからだ。
角栄は人を見る。
肩書ではない。
学歴でもない。
その人がどんな人生を生きているのかを見る。
だから忘れない。
そして人は思う。
この人は自分を見てくれている。
政治家が票を集める時代だった。
しかし角栄は違う。
票を集めたのではない。
人を集めたのである。
【情報を集める男】
角栄の一日は早い。
朝から全国紙を読む。
業界紙も読む。
地方紙も読む。
大量の資料にも目を通す。
そして夜。
枕元には紙とペン。
思いつけば書く。
朝になれば指示する。
情報を溜めない。
判断を止めない。
政治を止めない。
彼は組織で動く政治家ではない。
自分自身が情報処理システムだった。
【現場主義の怪物】
角栄には有名な言葉がある。
「現場を見ろ」
書類だけでは分からない。
机の上では決められない。
だから現地へ行く。
自分の目で見る。
耳で聞く。
高速道路
ダム
新幹線
空港
全てそうだった
今ならプロジェクトマネージャー。
しかし角栄は、
国家規模でそれをやった。
【東京タワーを止めなかった男】
建設行政に携わっていた頃、
東京タワー建設は法規制との調整が課題になっていた。
高さ333メートル。
当時としては前例がない。
建築基準法との整合性も複雑だった。
そこで角栄は、
「どうすればできるか」を考える。
止める理由ではない。
進める方法を探す。
法律を破るのではない。
法律の中で現実を実現する。
これが角栄だった。
彼にとって政治とは、
問題を説明するのは仕事ではない。
問題を解決することが仕事だった。
【総理大臣になる】
1972年、54歳。
戦後最年少の総理大臣になる。
そして掲げたのが、
日本列島改造論。
東京だけを発展させるな。
地方にも投資しろ。
地方にも仕事を作れ。
地方にも人を残せ。
高速道路。
新幹線。
港湾。
空港。
通信網。
今の日本を支えるインフラ整備は、
この時代に一気に加速する。
角栄は未来を見ていた。
20年後。
30年後。
その日本を。
【人情政治の本質】
角栄には無数の逸話が残る。
寒空の下で待つ記者を中へ入れる。
警護の警察官を労う。
部下の家族を気遣う。
困っている人間を見捨てない。
その一つ一つは小さい。
しかし積み重なる。
だから人が集まる。
だから人が残る。
だから強い。
角栄は知っていた。
人は理屈で動かない。
人は感情で動く。
だから人間を大切にした。
【責任は俺が取る】
角栄の組織は速かった。
理由は単純である。
トップが責任を取ったからだ。
部下に言う。
「やれ」
そして続ける。
「責任は俺が取る」
だから組織が動く。
だから決断が速い。
だからプロジェクトが進む。
現代企業でも、
ここまで責任を背負えるトップは少ない。
【ロッキード事件】
しかし絶頂は永遠ではない。
1976年、ロッキード事件。
戦後最大級の政治スキャンダル。
角栄は逮捕される。
総理経験者の逮捕。
日本中に衝撃が走った。
新聞は連日報道した。
テレビは特集を組んだ。
誰もが思った。
田中角栄は終わった。
これで政治生命は終わる。
これで田中時代は終わる。
そう思われた。
だが、本当にそうだったのだろうか。
【なぜ人は離れなかったのか】
不思議な現象が起きる。
権力を失った。
総理ではない。
大臣でもない。
それでも人が来る。
政治家が来る。
経営者が来る。
地方の支援者が来る。
目白御殿には人が絶えない。
なぜか。
権力があったからではない。
人との約束が残っていたからである。
あの道路を通してくれた。
あの橋を作ってくれた。
あの新幹線を持ってきてくれた。
あの空港を整備してくれた。
そして何より、
困っていた時に助けてくれた。
人は権力に集まる。
権力がなくなれば去る。
しかし角栄の場合は違った。
人が集まったのは、
田中角栄という人間だったからである。
裁判では負けた。
政治では倒れた。
しかし人間関係では負けなかった。
ここに角栄という男の本当の強さがあった。
【人生最大の成功】
角栄は財閥を作っていない。
世界企業も創業していない。
それでも歴史に残った。
なぜか。
日本列島を変えたからである。
高速道路。
新幹線。
空港。
電力網。
通信網。
それらは今も使われている。
つまり、彼の仕事は今も生きている。
【人生最大の失敗】
ロッキード事件は避けて通れない。
批判もある。
評価も分かれる。
しかし一つだけ確かなことがある。
彼は完全無欠の英雄ではなかった。
だからこそ人間味がある。
だからこそ今も語られる。
だからこそ歴史から消えない。
【現代経営者への示唆】
角栄が教えるものは三つある。
学歴より実装力。
理論より実行力。
そして、
人間関係は資本である。
最後に人を動かすのは、
システムではない。
人である。
角栄はそれを知っていた。
【戦っていた相手】
角栄が戦っていたのは、
野党ではない。
官僚でもない。
本当に戦っていたのは、
・地方格差
・雪国の不便さ
・交通インフラ不足
・情報格差
・東京一極集中
・学歴社会
・貧困
・行政の遅さ
・現場を見ない政治
・責任を取らない組織
だった。
彼は権力を求めたのではない。
日本を動かそうとしたのである。
【これは戦略だったのか】
結果だけ見れば、
総理大臣まで上り詰めた成功譚。
しかしそこには一貫した型がある。
雪国に生まれる
↓
地方格差を知る
↓
建設業へ入る
↓
インフラの重要性を知る
↓
政治を志す
↓
一軒一軒歩く
↓
人を覚える
↓
人に信頼される
↓
組織を作る
↓
情報を集める
↓
即断即決する
↓
責任を引き受ける
↓
総理大臣になる
↓
日本列島改造論を掲げる
↓
日本を再設計する
さらに、
人を見る
↓
人を覚える
↓
人を助ける
↓
組織が動く
↓
国家が動く
つまり角栄は、
政治をしていたのではない。
国家という巨大プロジェクトを経営していたのである。
【まとめ】
田中角栄は、
政治家だった。
実業家だった。
営業マンだった。
そして、
国家経営者だった。
彼が作ろうとしたのは権力ではない。
道路だった。
鉄道だった。
空港だった。
地方の未来だった。
人の流れだった。
金の流れだった。
日本そのものだった。
多くの人は角栄を語る時、
ロッキード事件を語る。
しかし歴史はもっと長い。
高速道路を走る。
新幹線に乗る。
地方空港を使う。
物流が全国を巡る。
その風景の中には、
今も田中角栄がいる。
学歴はなかった。
だが構想力があった。
肩書はなかった。
だが行動力があった。
雪深い新潟の農村で生まれた一人の少年は、
やがて日本列島の設計図を書く。
そして日本を動かした。
彼は総理大臣だったのではない。
日本列島という巨大プロジェクトの責任者だったのである。
世界の偉人シリーズ第一章はここで幕を閉じる。
四十人の偉人たちに共通していたものがある。
才能ではない。
環境でもない。
信念である。
そして行動である。
時代を変える人は、
いつもその二つを持っていた。
明日から始まる第七部では、
舞台を日本から世界へ移す。
次に描くのは、
二千年以上語り継がれる巨大国家。
すべての帝国の原点。
ローマ帝国である。
次回予告
ローマ帝国 第一話
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