三十六計|第14話 借屍還魂 ~別のものを使って再生する~
人は、「新しく作り直す」ことで
問題を解決しようとする。
しかし現実には、
新規に作られたものほど弱く、
時間もかかる。
本当に強い再生は、
すでに存在する「死んだ資産」
を使ったときに起きる。
【三十六計 第十四計の意味】
借屍還魂(しゃくしかんこん)
死体を借りて魂を戻す
すでに機能していないもの、
あるいは他者の資産を利用し、
自分の目的のために再生させる戦略りこと。
重要なのは新規創造ではない。
「停止したものに別の目的を与え、再び動かすこと」
である。
【現代語訳】
企業は問題に直面すると、
ついゼロから作ろうとする。
・新規事業の立ち上げ
・新ブランドの創出
・新システムの構築
しかしこれは時間もコストも大きく、
失敗確率も高い。
一方で、別の方法がある。
・過去に撤退した事業の再利用
・使われていない顧客基盤の活用
・既存資産の再定義
同じ資源でも
「使い方を変えるだけ」で
再び収益化できる。
【歴史の事例】
中国・後漢末期(2世紀末)、
黄巾の乱(184年)以降、
漢王朝は統治力を失い、各地で軍閥が分立した。
189年には董卓が都・洛陽を掌握し、
中央政権は実質的に崩壊する。
この「すでに機能していない王朝」
に対して動いたのが曹操(そうそう)である。
曹操は献帝(けんてい)を保護し、
都を許へ移した(196年)。
本来であれば、
皇帝を保護する意味は既に薄れていた。
しかし曹操はあえてその「形式」を維持した。
理由は明確で、
漢王朝そのものは機能していなくても、
「皇帝」という名は
依然として権威を持っていたからである。
曹操はその「死んだ権威」を利用し、
自らの軍事行動に正統性を与えた。
結果として曹操は、
実態は軍閥でありながら
「漢王朝の正式な執行者」という立場を獲得し、
他勢力を統合する基盤を手に入れた。
これは、機能を失った存在の「名だけ」を借りて、
新しい支配構造を成立させた事例である。
【経営事例】
ある企業が、
過去に撤退した事業を再活用し、
新たな収益モデルを構築した。
その結果、停止していた資産が再び収益を生み、
既存事業に並ぶ新たな柱が生まれた。
この企業はなぜ「失敗した事業」を
再び動かすことができたのか?
この企業はまず以下を行った。
・撤退した事業の資産を棚卸しした
・使用されていない顧客データを再分析した
・停止していたシステムの再活用可能性を検証した
すると、
・既存顧客の一部が接触可能であることが判明した
・過去の技術が現行事業に転用できることが分かった
・新規開発よりも低コストで事業化できる構造が見えた
さらに、
・旧顧客の一部が新サービスへ移行し
・短期間で収益化が成立し
・新規事業より早くキャッシュフローが改善した
結果として、
・過去に失敗した事業が収益源へ転換され
・事業ポートフォリオが拡張され
・投資効率が大幅に改善された
この企業は「新しい事業を作った」のではない。
「死んだ事業に再び意味を与えた」のである。
【解説】
この企業経営者はこう考えた。
①「ゼロから作る必要はない」
・新規事業は時間がかかる
・成功確率は低い
・投資負担が大きい
だから既存資産の再利用を優先した。
②「死んだものにも価値は残っている」
・顧客データ
・技術資産
・運用オペレーション
これらは撤退しても消えていないと判断した。
③「再定義すれば資産になる」
・使えないのではなく
・使い方が変わっていないだけ
と捉え直した。
④「再利用で事業を成立させる」
・新規開発ではなく転用
・追加投資ではなく再設計
・創造ではなく再生
で収益構造を作り直した。
【経営応用事例】
① 事業再生
撤退事業の顧客・資産を再利用し、新サービスへ転換する
② プロダクト開発
既存機能を再構成し、新製品として再定義する
③ M&A戦略
買収企業の遊休資産を収益化し、新事業へ転用する
【核心メッセージ】
新しいものを作る必要はない。
止まったものに、
もう一度意味を与えればいい。
【まとめ】
借屍還魂とは、ゼロからの創造ではない。
「死んだ資産を再び動かす戦略」である。
・作らない
・捨てない
・再定義する
生きている資産より、
一度死んだ資産の方が強くなることがある。
次回予告
三十六計|第15話
調虎離山 ~相手を動かし、守りを外させる~
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