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三十六計|特別回第9話 なぜ気付かぬ内に主導権を奪われるのか ~並戦の計・実例篇~

ここまでの第五套では、
「正面からぶつからず、横から流れを動かす型」
を扱ってきた。

しかし現実では、

・強く命令している側
・大声で主張している側
・権限を持っている側

が、本当に主導権を握っているとは限らない。

表では、
誰かが中心に立っているように見える。

しかし裏では、
別の場所で、静かに流れが変わっている。

見えている力関係と、
実際の支配構造は、
一致していないことが多い。


【事例①】

ある会社で、若手社員の離職が続いていた。
会社側は、

・給与を上げる
・福利厚生を増やす
・研修制度を拡充する
・評価制度を見直す

など、様々な対策を打った。
しかし、状況は改善しない。

面談では、

「将来が見えない」
「この会社にいても成長できる気がしない」
「仕事に意味を感じない」

という声が増えていた。

そんな中、
ある部署だけは、
ほとんど人が辞めなかった。

しかも、徐々に成果まで伸び始めていた。
周囲は不思議に思った。

その部署の管理職は、
特別優しいタイプではない。
むしろ、

・要求水準は高い
・細かい指摘も多い
・仕事にも厳しい

タイプだった。

表面だけ見れば、
離職が増えてもおかしくない。
しかし実際には逆だった。

なぜか?

周囲が観察すると、
その管理職は普段から、

・部下の小さな成果を必ず言語化する
・「この仕事が何につながるか」を説明する
・若手を重要案件に同席させる
・失敗時も人格否定をしない
・責任を自分で引き受ける姿勢を見せる

ということを続けていた。
特別派手なことはしていない。

しかし、
いつの間にか、社員たちは、
「会社についていく」というより、
「この人についていきたい」
という空気になっていた。

なぜ、制度ではなく、
一人の管理職が、
人の流れを変えられたのか?


【事例②】

ある業界で、後発企業が急成長していた。
しかし客観的に見れば、
大手企業の方が圧倒的に有利だった。

・知名度
・広告予算
・販売網
・ブランド力

どれを取っても、
後発企業は劣っている。

当然、大手側も、
当初はそこまで脅威視していなかった。

ところが数年後、
市場の空気が変わり始める。
SNSや口コミでは、

「大手は古い」
「後発企業の方が使いやすい」
「今の時代に合っている」

という評価が増えていった。

しかし実際には、
性能差そのものは、
そこまで大きくない。

では、なぜ流れが変わったのか?

後発企業は、

・初心者でも使いやすい設計
・導入しやすい料金体系
・サポート対応の速さ
・SNSで共有しやすい体験

を徹底していた。

つまり、
「良い商品とは何か」の基準そのものが、
少しずつ変わっていたのである。

しかし市場では、その変化は最初、
ほとんど注目されなかった。

なぜ、強かった側は、
静かに流れを奪われたのか?


【事例③】

ある組織では、長年、
特定部署が強い発言権を持っていた。

・その部署を通さないと話が進まない
・現場も逆らえない
・他部署も配慮する

そんな状態だった。
多くの人は、
「この部署と正面から戦うのは無理だ」
と思っていた。

しかし、新しく着任した責任者は、
正面対立を避けた。

会議で論破もしない。
露骨な権限剥奪もしない。
人事で潰すこともしない。

代わりに、

・会議資料を全体共有する
・数字をリアルタイムで見える化する
・意思決定前に別部署レビューを入れる
・評価基準を変更する
・会議の順番を変える

という変更を、静かに進めた。
すると少しずつ、

「その部署がどう言うか」

ではなく、

「全体としてどうか」

で話が進み始める。
半年後。

以前ほど、
その部署の影響力は機能しなくなっていた。

しかし不思議なことに、誰も、
「潰された」と感じていない。

表面的には、
大きな対立が起きていないからである。

ではなぜ、争わずに、
力関係だけが変わったのか?


【分解】

これらに共通していることは、

・真正面から勝負していない
・露骨に奪っていない
・強引に押し切っていない

という点である。
しかし実際には、

・空気
・評価
・基準
・情報の流れ
・人の心理

が、静かに変わっている。
つまり、

「表面上の力」

ではなく、「人が自然に従う流れ」
そのものが動かされている。

多くの人は、戦略というと、

・強く押す
・論破する
・力で勝つ

ことを想像する。
しかし現実では、

・空気を作った側
・基準を変えた側
・流れを握った側

が、最後に主導権を持つことがある。


【問い】

これらに共通しているのは何か。

・なぜ正面対立がないのに力関係が変わるのか
・なぜ人は「自分で選んだ」と思ってしまうのか
・なぜ空気が変わると、組織全体が動き始めるのか

ここで動いているのは、
単なる説得でも、
権力でも、
強制でもない。

では何が、
主導権を静かに移しているのか。

これらの構造は、
第五套のどの型に当てはまるのか。

・第25話か
・第27話か
・第30話か

あるいは、
複数の組み合わせか。

重要なのは正解ではない。

「人は何に従って動くのか」
「どこを書き換えれば流れが変わるのか」

そこに気づけるかどうかだ。
一度この視点を持つと、

・強い言葉が弱く見え
・静かな変化が強く見える

ようになる。


【まとめ】

並戦の局面ほど、

・人は表面の対立に目を奪われる
・権力や声の大きさに引き込まれる

しかし実際には、

・空気を変えた側
・基準を書き換えた側
・人の流れを動かした側

が、結果を握ることがある。
見えている主導権が、
そのまま本当の支配とは限らない。

人は、命令だけで動いているわけではない。
むしろ、「自然だと思った流れ」
に従って動いていることが多い。

だからこそ、
本当に強い変化ほど、静かに進む。

そして多くの場合、
人は、流れが変わり切った後で、
初めて主導権の移動に気づくのである。


解答は「第31話」とともに投稿します。
そちらで答え合わせをしてみてください。

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