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誰  #きのころチャレンジ

フォローしているきのころさんが、「続きを考えませんかコンテスト」という企画を実施されています。
普段であれば恐れ多くて、こうした企画には参加しようと思わないのですが、色んな方の作品を拝読して、とても感動しました。天才・鬼才の集まりです!
物語の回収に驚いたり、声を出して笑う作品もありました。
私もチャレンジしてみようと頑張って書きました。(笑いはありません💦)
きのころさん、300日おめでとうございます!
これからも楽しみにしています!

朝、目が覚めると、
隣で知らない女が電話をしていた。
私のスマホで。
私の声で。

叫んでも声は出なかった。
鏡の中の私は眠っている。

女は一瞬だけ私に顔を向けた。
そして、私の声で電話の相手に告げる。

「起きました」


カーテンが開く音。朝の光が部屋を包む。

女が近付いてきて、私の髪をそっと撫で、頬を両手で包む。

女は部屋を出る。
私は動けない。声も出せない。
頭の中に無機質な数字だけが並ぶ。
「584267」
数字の意味は分からない。
女の手の感触だけは知っている、気がする。

窓から日差しが差し込み、顔に落ちる。
時刻は11:43。
バンッと車の扉が閉まる音。チャイム。
部屋の外で、男の声がもごもごと聞こえる。

「…確認に来ました。朝の…ですか?…あ、ちょっと起きて…確認…ですか?」

「すみません、朝の電話は彼女です。大丈夫です。もう帰ってください」

女の怒った声が部屋に響く。

車が走り去る。
女が部屋に戻ってきた。 
ベッドの端が揺れ、そっと私の手を握る。
鼻を啜る音が、静寂に響く。

「ねえ、起きてよ」

ポタポタと手に落ちてくる水。しゃくりあげる声。
女が触れる感触だけが、私と世界が繋がっている証のように感じる。

日が暮れ、部屋の中は暗くなる。
時刻は19:23。

女がそっと部屋に入り、つぶやく。

「ねぇ、どうしたら起きるの?」

声は出せない。答えも分からない。
女が頭を優しく撫で、耳元でカチッと音が響く。
全て霧のように消えていく。

そして、真っ暗になった。


翌朝、女が私のスマホで電話をかける。

「起きました」

カーテンを開ける音。光は部屋に届かない。

「雨の匂いがするね」

微かに出てくる映像。
知っている声。顔が見えない。
雨の匂い。存在している。理解は出来ない。
今日も雨の匂いがするのだろうか。

そばに女がいる気配。毛布がずれて落ちる音。
泣きじゃくる私の声。
でも泣いているのは女。
女は30分間、私の手を握り、ただ泣き続けた。

女が部屋にいない時間は、冷たく長い。
時計の針、カラスの鳴き声、遠くを歩く人の声。
世界は動いている。

私は、ただ世界の音を聞き続けている。

トラックが止まる音。チャイム。複数の人の足音。

「一週間、反応が確認できなかったので、規定通り584267番の回収させてもらいます」

若い男の声。
部屋に入ってくる人たち。

「このアンドロイド、よく出来ていますね。ここまで似せると、見分けがつかない。
長くご利用頂いていたので、お辛いかもしれませんが、回収になります。」

女は黙っていて何も答えない。

女の手と違って、雑に手や足を持ち上げられる。

「すみません、ちょっとだけ待ってください。
お願いだから、そんなに、乱暴に扱わないで」

女の震える声が聞こえる。

身体は動かず、記憶は消えていき、意識は箱に閉じ込められている。

「584267番じゃない。あなたは、番号じゃない。
あなたは私だよ。ごめんね、ごめんね。」

女が抱きついてくる。
包まれると同時に、わずかなデータが回復する。

女はずっと、私の手を握り続けていた。
女が病室で動けない日々、退院後もひとりでは耐えられなかった孤独。
私の手は、女にとって、唯一触れることができる「女が生きている」証だった。

私は、女の代わりに世界に音を作っていた。

女の泣き声だけが、私の耳に届く。
その音は、「哀しい音」と理解している。

数字だけが並んでいる私の頭の中。
音の種類すら記号のようにバラバラに壊れていく。

明日の朝、私は女の手を覚えているだろうか。

私が、握りしめた手。
私に、触れた手。

それは、唯一の「私の存在」の理由。

女が頭の後ろを優しく撫でる。
女の向こうで、ザアーッという音が聞こえた。
音も匂いもその正体は分からない。

耳元でカチッという音が響いた。

そして、私の世界から全ての音が、消えた。