第3話【法人乗っ取り】過去の追憶
「あれ……あれ? 三浦さんですよね?」
納骨の打ち合わせを終えようとした、その時だった。
女性理事長が、私の顔をじっと見つめている。
「住職の三浦です。」
そう答えると、理事長は首を横に振った。
「違います。補助金の調査で来られた三浦さんですよね。」
思わず苦笑した。
「黙っていようと思ったのですが……よく覚えておられましたね。」
「もちろんです。」
「本当にですか?」
「ええ、何となくですが。」
私は笑いながら言った。
「違うんじゃないですか。書類の不備がたくさんありましたよね。かなり厳しくご指導した記憶がありますが。」
理事長も笑った。
「そうでした。今でも覚えています。」
「私は忘れましたね。そんなこともありましたか。」
二人で顔を見合わせて笑った。
⸻
当時、問題となったのは、補助金交付申請に必要な理事会決定議事録だった。
社会福祉法人が補助事業を実施するには、事業内容について理事会で審議し、承認を得たうえで交付申請を行うことが原則となる。
ところが、その法人では順序が逆になっていた。
先に交付申請を行い、その後になって理事会を開き、承認を得ていたのである。
形式だけ見れば、交付申請時点では要件を満たしていない。
場合によっては、交付申請そのものが認められず、補助金の対象外となる可能性もあった。
もっとも、調査の結果、故意に手続きを無視したものではなく、「最終的に理事会の承認を得れば問題ない」と担当者が誤解していたことが判明した。
そこで、経緯を詳細に記した始末書を提出させ、理事会議事録などの関係書類を整備したうえで補完措置を講じた。
制度の趣旨は守られていたことから、補助事業は継続され、完了報告も受理された。
「あの時は、本当にお世話になりました。」
理事長は静かに頭を下げた。
私は首を横に振る。
「あれは私の仕事です。無事に事業が終わって何よりでした。」
二十年前の出来事が、思いもよらない場所で一本の線となってつながる。
この時の私は、まだ知らなかった。
この再会が、やがて法人の命運を左右する大きな渦へと巻き込まれていくことを。
