檻の外へ
1970年以降、若者たちは、人々を長く閉塞感の内に閉じ込めていた幾多の因襲という目に見えない「檻」の外へと、その研ぎ澄まされた意識と感受性とを爆発させた。
ミュージックシーンにあってそれは既に、アメリカは西海岸サンフランシスコでフラワームーブメントとして起こり、19世紀末ヨーロッパに起源を持つナチュラリストの末裔たるヒッピーたちを代表とする、いわゆる、カウンターカルチャーと並行しつつロックジェネレーション運動が生じることになった。ビートルズ、サイモン&ガーファンクル、PPMの解散、それらに代わってLed Zepplinを初めとしたハードロックバンドが一気に隆盛となるのである。確かにビートルズもその基盤には60年前後のR&Bの模倣があるが、ブラックミュージックからの強い影響ということで言えば、Zeppelinたちの世代には、深く潜航してきた英国をその中核としたブルーズへの根強い愛着が、表立って顕著に現れ出ることになる。

白人大衆に受け入れられたキャッチーなロックンロールとは違い、虐げられたニグロ、つまり、アフリカンアメリカンたちの奴隷から身を起こし、奴隷解放後は、更に一層悪化していく貧困生活を生きざるを得ない、その底辺からのリアルな生活感情の激しい表出が、堅固な階級社会である英国の若い世代の深き鬱屈と、ストレートに切り結んだのだ。
そのことが、エルビス・プレスリーやビートルズとは明らかに異なり、ラディカルで新しい、凶暴ですらあるロックミュージックを駆動するエネルギーとなった。
そこには、ソウルやスピリットといった深い精神性すらもが湛えられた。元々早くにブルーズの影響を強く受けていたローリングストーンズが、長きにわたり解散することなく、70年以降むしろヴァージョンアップして今日に至るのは、言わば、必然であったのだ。

それほどに、ブルーズの力は既に一つの確たる伝統となって、文化の表層に噴き出してきた。これを早くに実践してみせたのは、John Mayall率いるYardbidsなど英国の有名無名のミュージシャンたちだが、同時に、20世紀に誕生した新たな音楽としてのブルーズの、その濃密な歴史と現在とを跡付けようと努めるPaul Oliverを初めとする研究者・コレクターたちが、埋もれていたブルーズマンたちを再発見していく気運が期せずして醸成されて、夥しい量に及ぶ録音が行われる。一方、黒人向けにのみ作られた、いわゆるレースレーベルの膨大な音源が今に至るまで発掘され続けている。そうした研究発掘を当初リードしたのは、英国、アメリカのコレクターたちだが、68年以降、日本でも本格的なブルーズ受容が始まる。前回のテーマとした同時代的な若者文化の沸騰となった「熱き想い」がそれといみじくも連動したのだ。ブルーズに込められた、非人間的生活を強いられた者たちの、歴史上稀に見る人間感情の深奥へと進んで身を寄り添わせていくことーーあたかも、それが、20世紀末に差し掛かり閉塞感を深めつつ激しく揺れ動く混迷した情況という、いわば、見えざる檻からの脱出と解放を占うことでもあるかのように。
https://www.youtube.com/watch?v=adLilfftm3M
