形容詞、この厄介なるもの⑥
さて、ロシア語の形容詞短形単数対格が現代ロシア語の中にも на бóсу нóгу「素足で」という固定された言い回しに残っているという説明を前回しましたが、対格形がある(あった)ということは、当然他の格形も存在してたのではないかと考える人がいても不思議ではないですね。
ていうか正にその通り、古期ロシア語(大体15世紀以前に行われていた古いロシア語)にはその変化形がフルに使われていました。
ということは、この短形も長形同様に名詞を修飾する形容詞の一形として機能していたということです。
ここで、その古期ロシア語とやらで、「良妻」の短形を格変化させてみましょう。
主格:добра жена
属格:добры жены
与格:добрѢ женѢ
対格:добру жену
具格:доброю женою
位格:добрѢ женѢ
呼格:добра жено!
現代ロシア語とは違って、格変化形が一つ増えています。
つまり呼格(「良妻よ!」のように呼びかけに使う形)が有ります。
これは現代スラブ語でもチェコ語やポーランド語には今も残る格形です。
又与格と位格に現れるѢ はять「ヤッチ」と呼ばれる文字で、ロシア語では1918年の正書法改正までは使われていましたが、現在では使用されません。
どのような発音だったかは諸説ありますが、便宜上は [je](ィエ) のように発音しておいて差し支えありません。
対格形 добру жену を見ると、先の(на) бóсу нóгу と全く同じ語尾変化が確認出来ますね。
つまり、古くは短形も名詞を修飾するために用いられていて、普通に格変化もしていたのが次第に廃れ、今では добрая жена という長形を使った言い方の一択になったということなのです。
