告白はエレベーターの中に置いてきた。
たまには恋バナでも。
K君というナースマン(私の4つ年下)が休職している。もともとうちの病棟にいて、他の部署に異動しその後すぐに休職になったのだった。
K君の同期の子なら何か知ってるかと思って同じ夜勤の日に休んでいる理由を聞いてみた。
「K君って何で休職してるの?」
「K君は旅に出たんです。」
「旅に⁉️何でまた。」
「姫草副師長、やっぱり気付いてなかったんですね?K君、副師長のこと好きだったんですよ。」
「How strange he is!!またまた〜そんな訳ないじゃーん。」
「そうやってすぐふざけないで下さい。」
「すみません」
「看護の日のイベントでK君とボロい商業施設に行った日のことは覚えていますか?」
それならよく覚えている。
去年の看護の日のイベント、地域住民にBLS(一次救命処置)をレクチャーするのに、K君とボロい商業施設にやってきた。嘘みたいな本当の話だがスケスケのボロいエレベーターが最上階で停止して、しばらく閉じ込められた。
K君は高いところが苦手で軽くパニックになっていた。
「あ〜俺、高いところダメなんです💦こわいこわい〜もうやだ〜💦帰りたい〜💦だから最初っからこんなボロいとこ来たくなかったんですよ、俺は!!自分の休み使ってボランティアで来てるのになんでこんな目に遭わなきゃならないんですか!!理不尽ですよ!!もう帰りたいです!!!」
「まあまあ、K君、今は騒いでも仕方ないからさ。ほら見て見て。エレベータースケスケだから下にいる外の人が見えるよ!人がめっちゃ小さく見えるよ。せっかくだからここはムスカの真似でもしてやり過ごそうよ。ハハっ見ろ!人がゴミのようだ!ハハハハハハっ!」
「姫草主任!(←この時は主任)なんでこんな時にふざけてられるんですかっ!!」
「むしろこんな状況だからこそ、ふざけでもせんとやっとれっか!!」
確かこんなやり取りをしていた。
後輩は言う。
「あの時に惚れたらしいですよ。あー、きっとこの人と一緒だったらどんな状況のときでも大丈夫なんだろうな、って。」
「いや、まさかそんなことで‥K君大丈夫?」
「K君は昔から萌えポイントが変なんです。だからそこそこ格好良いのに彼女がいないんです。それでK君は虎視眈々とチャンスを狙ってて、まずはバレンタインデーの日にコーヒー好きの副師長をスタバに誘おうと思ってたら、その日あなたから思いがけずチョコをもらったから嬉しくて、そんでホワイトデーの日にお返しあげて告白しようと思ってたのに、副師長、あなたホワイトデーの日に『え、私あげたっけ?』って言ったんですよね?」
⸻
後輩の尋問がこわくてだんだん思い出してきた。あの日のバレンタイン。
…あのときの私。K君がずっと後をついてきたので
『K君帰り道ずっとついてくるなぁ。あー💡もしかして家に帰ったらお母さんからチョコ何個もらった?って聞かれるのが嫌で帰りたがらないのかも。K君、お母さんと仲良いし。』
って思って、たまたま余ってた女医さん用の友チョコをひとつ、彼に渡したんだった。
そういう経緯だったからあげたことも忘れていたのだった。
もっとよく思い出せ。あの日のバレンタイン‥。たしかK君は仕事が終わってるのにやたら丁寧にパソコン拭いたり私物ボックスを片付けていてなかなか帰らなかったから「K君、私、先に帰りますねー。」って言ったら「俺も帰ります!」って。
で、K君がずっと後ろを歩いてたのは分かってた。
でも私は、
『まさか私に用があるなんてことないない』
って、勝手に思ってた。
……こういうとき、昔からだ。
誰かの好意ややさしさを素直に受け取るのが怖い。
毒親のもとで育ったせいか、自己肯定感はいつも地面スレスレ。
「自分なんかにそんなこと、あるわけない」って無意識に打ち消す癖がついてしまった。
‥でもホワイトデーの日にK君から「お返しです‥」って渡されたときは本当に忘れていた。
だってお返ししてもらうほどのことを私はしてないから。
後輩は更に続ける。
「ショックを受けてK君は傷心の旅に出たんです。本当に気付いてなかったんですか?いつも副師長のこと見てたし、副師長が重いもの持ってたら遠くからでも走ってきて『俺、持ちますよ!』って言ってたのに。」
「親切な人だな、と思っていました。」
「どれだけ鈍いんですか?バカなんですか?患者さんの変化にはすぐ気付くくせに。」
「Oh my goodness!!」
「またふざける。」
「すみません。」
きっとK君は告白はエレベーターの中に置いてきてしまった。もう二度と取りに戻ることもない。
いつか私がおばあちゃんになった時に「あの時K君の気持ちに気付いていたら違う未来があったのかな。」とか後悔する日が来るのだろうか?
K君、ごめん。
なんかもう毒親がどうとか自己肯定感がとか鈍いからとか言い訳していいような年齢じゃないのかもしれない。
‥‥それにしてもK君はどこに旅に出たのだろうか。
(続かない)
⚠️今はK君はちゃんと仕事復帰しています‼️
※登場人物やエピソードは事実に基づきつつ、一部を創作・脚色しています。あたたかく読んでいただけたら嬉しいです。
大人ならプラトニックな恋愛の1つや2つあっても良いと思う。
タイミングや環境が違えばもしかしたら付き合ってたのかもしれないね、みたいな。
この本みたいな。
銀座鮨店に10年通ったバブル期OL物語。 80年代。都内で働いていた青子は、25歳で会社を辞め、栃木の実家へ帰る決意をする。その日、彼女は送別会をかね、上司に連れられて銀座の高級鮨店のカウンターに座っていた。彼女は、そのお店で衝撃を受ける。
寿司職人に心よせる主人公。握ったお寿司を直接手渡してもらう時だけが唯一の肌の触れ合い、というのはとてもエロティック。
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