月は巡る、星も巡る。〜天見煌来・「星見」
京都、天見神社。
“星見”の血を継ぐ家系に生まれた、
高校三年生――剣道部の少女、天見煌来(あまみ・きら)。
その名は「明星の輝き」から授けられた。
だからだろうか。
彼女は昔から、夕暮れになると無意識に金星を探してしまう。
五月十九日。
西の空。
細い月。
まるで誰かが夜に残していった、淡いメロンの皮みたいだった。
そのすぐ傍では、宵の明星――金星が白く燃えている。
「今日はね、空の流れが変わる日なんだ」
煌来は、月の輪郭をなぞるように指を伸ばし、小さく笑った。
「でも、“運命が変わる”っていうより――
流れ方が変わる、って感じかな」
斜め上では木星が、
少し遅れて頷くみたいに光っている。
急いでいた心。
答えを探していた日々。
どこかへ辿り着かなきゃって、息を切らしていた魂。
そんなものたちが今夜、
少しだけ椅子に座る。
「これからはね、“走る”より
“育てる”運気なんだって」
夜風に揺れる髪を押さえながら、煌来は静かに言った。
「だから、焦らなくていいんだ。
芽が出ない時間もね、ちゃんと地面の下では動いてるから」
西の空は、群青色にゆっくり沈んでいく。
月は細い。
けれど、欠けているわけじゃない。
まだ、満ちていないだけ。
金星は強く。
木星は遠く。
そしてその間で、
人は今日も、揺れながら生きている。
“変わる”というより、
“巡り直す”。
――そんな夜だった。

