進化系清酒 ❰酒ては通れない話③❱
「ザ・キーパーズ・オブ・ザ・クエイヒ」(The Keepers of the Quaich)という組織をご存知でしょうか? 昔は『国際救助隊』、通称『THUNDER BIRD』と呼ばれたイギリスの組織です。
嘘ですよ😅
今週は進化する清酒を妄想します。

ウイスキーよ永遠なれ
ザ・キーパーズ・オブ・ザ・クエイヒは、スコッチウイスキーの生産、振興、保護に顕著な貢献をした人物を称えるために設立されたスコッチ・ウイスキー業界で最も格式高い名誉組織です。
キーパーと呼ばれるメンバーは、スコッチ・ウイスキーの発展に特に優れた貢献があったと業界から認められた人で、国籍・性別・職業を問わず全世界から選ばれます。現在の会員数は87カ国2100人余、その60%はイギリス人ではありません。ちなみに、この組織のモットーは「Uisgebeatha Gubrath」(ウイスキーよ永遠なれ)です。
余談ですが、関係者に『Uisgebeatha Gubrathって何語ですか?』 と尋ねたことがあります。スコットランド・ゲール語だと言われたので、『あっ、やっぱりそうですかー!』と言っておきました。

桝田隆一郎
2025年10月、ザ・キーパーズ・オブ・ザ・クエイヒのメンバーに桝田隆一郎さんという日本人が選ばれました。
桝田隆一郎さんは、1893年創業で『満寿泉』を看板銘柄とする富山の造り酒屋、桝田酒造店の5代目当主です。清酒の酒造業者がキーパー・オブ・ザ・クエイヒに選ばれるのは史上初の快挙です。

中田英寿
桝田氏とスコッチウイスキーとの本格的な関わりは2018年に始まります。その前年、スコッチウイスキーのシーバスリーガルが主催する名誉賞「シーバスリーガル18年 ゴールドシグネチャー・アワード」に元プロサッカー選手の中田英寿氏が選ばれました。
中田氏は株式会社JAPAN CRAFT SAKE COMPANYのCEOとして、日本酒、日本茶、工芸、農業など、日本の伝統文化の発掘し、世界に発信する「にほんものPROJECT」を推進しており、その活動で出会った桝田氏をイノベーションパートナーとしてシーバスリーガルを発売するペルノ・リカール・ジャパン株式会社に紹介しました。それをきっかけとして、満寿泉とシーバスリーガルのコラボプロジェクトがスタートしました。

リンク 8888
コラボの第一段として作られたのが「リンク 8888」です。この清酒は、山田穂(山田錦の種子親)、山田錦、黒米(玄米)など4種の酒米をワイン酵母で発酵させ、12年以上シーバスリーガル原酒を貯蔵したアメリカンオーク樽で熟成させます。酒米ごとに違う樽に詰めて、熟成後に4種の日本酒を、シーバスリーガルのノウハウでブレンドしました。
ちなみに、リンク 8888の『8888』とは、シーバスリーガルのストラスアイラ蒸留所から、富山県の桝田酒造店の蔵までの距離が8,888kmであることから名付けられました。

シーバスリーガル匠リザーブ
リンク 8888を熟成させた樽は、コラボ第二段のためにスコットランドに送り返されました。その樽でシーバスリーガルの原酒を熟成させるためです。日本酒カスクという、前代未聞のウイスキーの誕生です。
ところが、スコッチウイスキー協会 (SWA)が定める規定では、日本酒カスクでの熟成は認められていません。日本酒樽での熟成ではスコッチウイスキーとは名乗れないのです。
イギリスではウイスキーを含む蒸留酒は『スピリッツドリンク』というカテゴリーに分類されます。その中で「スコッチウイスキー」だけが独立したカテゴリーで、他は「スピリッツドリンク」カテゴリーです。ならばシーバスリーガル匠もスピリッツドリンクとして発売か…と思われましたが、そう簡単にはいきませんでした。
スピリッツドリンク
シーバスリーガル匠は、日本酒カスク以外は通常のスコッチウイスキーの規格で作られています。スコッチウイスキーの規定では『水とカラメル以外の添加不可』なのです。
しかし、イギリスの(ウイスキー以外の)スピリッツドリンクはジン、ピムズ、トフィーウォッカなど副材料を使った蒸留酒です。シーバスリーガルは副材料を使わないので、スピリッツドリンク(ウイスキーを除く)にも分類されないことになります。
ウイスキーにホップ
そこで、シーバスリーガル匠には微量のホップ(含有比率0.001%未満)を加えることになりました。ホップを加えることで、匠リザーブは「スピリッツドリンク」の条件を満たします。つまり、ホップの添加は法的要件を満たすための苦肉の策なのでした。尚、シーバスリーガル匠は、日本の酒税法では「ウイスキー」の扱いです。

清酒のブレンディング
ブレンディングといえばウイスキーやワインが有名なのですが、清酒業界でも昔からブレンディングが一般的に行われてきました。しかし、ウイスキーやワインと清酒ではブレンディングの目的が違います。
ウイスキー・ワインは、異なる個性の原種をブレンドすることで新たな味を生み出すことが目的です。一方の清酒は、品質の平均化・安定を目的としたブレンドが江戸時代から行われてきました。

テロワール
ワイン業界ではブレンディングを「アッサンブラージュ」といい、原材料となるブドウの品種が異なるワインや、製造年が異なるワイン、異なる産地のワインをブレンドします。その背景にはテロワールと呼ばれる地域性、気候・風土を重要視する伝統があります。しかし、テロワールはフランス独自の考え方ではありません。日本でも昔から大切にされてきた考え方です。それなのに、なぜ清酒ではテロワールの精神が発揮されなかったのでしょうか?

業界の在り方
ワインの製造は、ワイナリーと呼ばれる醸造所で行われます。大きな特徴は、ワイナリーが自家農園で原料であるブドウを栽培するということです。醸造家が自家栽培するのですから、ブドウの出来が良くても悪くても自分の責任です。「ブドウの出来が悪いから今年はワインを造らない」という選択肢はありません。生活がかかっていますからね。そこで、貯蔵してあった出来が良かった年のワインや、他産地のワインとブレンドすることで、できが悪かったブドウでも違う方向性でおいしいワインを目指します。
一方の清酒業界では、原料である米の栽培と酒造は別業者です。最近でこそ、酒造会社が米の栽培から手掛ける例が見られますが、中小酒蔵が多かった昔では考えられないことです。この原料栽培と酒造が別々のシステムのおかげで、ある地域で米が不作でも、他地域から米を仕入れることで酒蔵はなんとか酒を造ることができました。米の質の悪さは杜氏の腕でカバーします。
これを簡単に表すと、ワイナリーの仕事の肝はブドウ栽培で、その意味ではワイン造りは『農業』です。方や清酒蔵の仕事の肝は醪造りで、杜氏の腕が大きく影響する『手工業』です。

新しい清酒
以前書きましたが、米のSAKEはあなたが知らないうちに進化し始めています。例えば、富山県に「IWA 白岩酒造」という酒蔵があります。ここはシャンパーニュのドン・ペリニヨンの元醸造責任者であるリシャール・ジョフロワ氏が立ち上げた蔵です。その特徴は、異なる酒米をブレンドして醸造したり、シャンパーニュのアッサンブラージュの手法を取り入れて、従来の清酒とは違う方向性のブレンドを実践しています。
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