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燗酒 ❰酒ては通れない話②❱

    寒くなると恋しくなるのが燗酒です。ところが、最近は上手に燗をつけてくれるお店が減ってしまいました。それどころか「上燗」が通じない店があるから驚きです。今週は日本独自の食文化である燗酒を妄想します。

燗酒の基礎知識

 日本で燗酒の説明をするなんてことがあるとは思いもしませんでしたが、何度かお店で説明したことがあります。
日向燗ひなたかん… 約30℃
    かすかに「ぬるい」。
人肌燗ひとはだかん… 約35℃ 人肌の温かさ。
▶ぬる燗… 約40℃ 熱さを感じない程度。
上燗じょうかん… 約45℃   注ぐと湯気が出る程度。
▶熱燗… 約50℃    徳利から湯気が出る程度。
▶飛びきり燗… 約55℃   徳利を持つと熱く感じる。

 蛇足ながら、冷酒れいしゅざけは違います。ざけは常温。冷酒れいしゅは冷やしてあります。

燗酒の歴史

    一般的に、「奈良時代には酒を温めて飲む習慣があり、平安時代の貴族の間で広がりました」と言われていますが、奈良時代や平安時代の酒は現在のような清酒ではなく、濁り酒でした。清酒と濁り酒では味も特性も違うので、ここでは別物として扱います。

 筆者は、現代の清酒とほぼ同じ「清酒」が登場した室町時代以後、庶民が年中燗酒を飲むようになったのは江戸時代後期だと考えます。とはいえ、当時は現在ほど誰でも毎日、気軽に酒が飲めるわけではなかったと思います。ただ、江戸や大坂、京、名古屋では富裕層が酒を飲んでいましたが、これは例外と言っていいでしょう。

    余談ですが、『燗』という漢字は「燗酒」や、「燗をつける」以外には使われない漢字です。なぜなら、そのために明治時代に考案された漢字だからです。そのため、江戸時代には燗酒と言う言葉が無いので「煖酒あたためざけ」と呼んでいました。

なぜ燗をするのか?

    シンプルな疑問ですが、なぜ清酒を燗するのでしょうか?

   ひとつには、暖を取るためだと考えられます。地域によっては真冬の冷や酒は辛いですからね。それは否定しませんが、それよりも根本的な理由があります。

儀式の酒

   日本では、米は神様の恵みであり、米で造る酒は神様に感謝して捧げるものでした。そのため、酒は神事には欠かせないもので、神事の開催に合わせて、その都度造りました。これは濁り酒の頃からの伝統です。

    ですから、昔の酒は火入れをしない、現代で言う「生酒」です。したがって、残った酒や御下がりの御神酒はどんどん発酵が進みます。雑菌が繁殖して腐敗することもあります。昔々、各家庭で濁り酒を作っていたころは、それを防ぐために温めて、発酵を止めて飲んだのが燗酒の始まりだと思います。

火入れ

    鎌倉時代に、酒に火入れをする技術が開発され、江戸時代には冬に一年分の酒を造るようになります。しかし、江戸時代当時は清酒に加水して飲んでいたので、痛みやすかったのです。

    清酒の水割りについては元旦の有料版で詳しく書きますが、当時の飲料水は消毒をしていない生水なので腐りやすい水でした。それで割るのですから清酒の火入れも意味が無くなります。そこで、毒消しと、消臭のために燗をして飲んだと考えられます。

ホットワイン

    燗酒は日本独自の飲み方だと思っていましたが、よく考えるとホットワインという飲み方があります。しかし、ホットワインと燗酒は大きく違います。

   ワインを温めて飲む国のほとんどは、グリューワインにして飲んでいます。 グリューワインは、赤ワインにシナモンやクローブなどのスパイス、オレンジなどの果物、砂糖・蜂蜜などを加えて温めたものです。その起源は、紀元1世紀頃の古代ローマ時代にまで遡ります。当時のローマ軍が、寒い土地を征服する際に飲んだのがスパイス入りワインだったそうなので、体を温める目的だったのでしょう。

    尚、グリューワイン「Glühwein」はドイツの呼び名で、国によって名称は違います。

清酒の香り

    スパイスを加えるグリューワインに対して、燗酒は基本的に何も加えません。両者の違いは何だと思いますか?

    これは筆者の妄想ですが、清酒の原材料は日本人の主食である「米」です。日本人は清酒に「米を見ている」    いや、『米を求めている』と言ったほうがいいかもしれません。その香りと味は「米」でなければならないのです。例えば、完成した清酒にシナモンの香りだけを付けると、多くの日本人は飲まないと思います。

ワインの香り

    一方、ワインの原材料であるブドウは、欧米人の主食ではありません。しかし、ワインの香りと、パンの香りには共通点があります。両者とも天然の同じ酵母で発酵させたからです。

✳️現在のワインやパンは天然酵母ではない物もあります。

    ですから、ワインにシナモンやクローブ、オレンジなどのフルーツを加えて温めると、香りがジャムトーストに似ていると言えなくもありません。

燗酒の文化

   ウイスキーやジンなどのスピリッツは基本的に温めませんが、日本ではホットカクテルもあります。筆者もホットウイスキーやホットジンが好きです。これは燗酒の文化があるからなのかもしれません。ただ、ホットビールだけはどうにも苦手です。

ちろり

ちろり

    またまた脱線しました。話を清酒にもどします。

   最近の若い方達はご存じないようなので紹介しておきますが、上の写真のような燗付け器を『ちろり』といいます。江戸時代後半に登場したのですが、それまでは小鍋に酒を入れて直火で温めていたので面倒でした。

湯煎

   江戸末期から現代にかけて、ちろりは湯煎で燗を付けるのに使われています。江戸時代の屋台そばなら、そばを湯がく釜に浸けたり、おでんの鍋に浸けて燗をつけました。しかし、元々の使い方は湯煎ではありませんでした。

灰埋め

   酒を燗して飲むようになったのは、寒冷地から始まったということに異論はないと思います。

    昔、寒冷地の家には必ず囲炉裏がありました。その灰の中にちろりを埋めて燗をつけたと筆者は妄想します。これすなわち『地囲炉裏ちいろり』です。

蒸籠

蒸し燗

 現在、湯煎で燗をつけるのが一般的です。また、手っ取り早く電子レンジを使うこともあろうかと思います。ただ、電子レンジに徳利を入れて加熱すると、温度にムラができますので、途中で一度箸でかき混ぜるなどの工夫が必要です。そこで筆者の一押しは「蒸し燗」です。やり方は簡単です。徳利に入れた酒を蒸籠で蒸すだけです。何度かやればだいたいの温度変化がつかめ、取り出す頃合いが分かります。湯煎よりも柔らかい酒になるので是非お試しください。

日本の飲酒文化

    著しく減少した清酒人口の中でも、燗酒愛好家は少数派になりつつあります。世界でも稀な飲酒文化である燗酒を絶やさないためにも、今夜は燗酒をいかがでしょうか? 

 あっ、燗酒の肴はお好きものをどうぞ。筆者は丹波屋の「松まみれ」で上燗をやっつけるのがお気に入りです。

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