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提案書は綺麗。でも「名前を変えれば同じだよね」と言われた営業マンの話

入社して、もうすぐ1年が経とうとしていた。

最初の頃は、会議で飛び交う専門用語がほぼ宇宙語に聞こえていた僕も、少しずつ仕事に慣れてきた。

CV、CPA、LTV、CRM、DX。
最初はアルファベットを見るだけで軽くめまいがしていたけれど、だんだん会話についていけるようになってきた。

お客様との打ち合わせでも、以前ほど焦らなくなった。
社内の専門メンバーとの会話も、少しずつ理解できるようになった。
提案書も作れるようになってきた。

「あれ、もしかして僕、ちょっと成長してる?」

そんなことを思い始めた頃だった。
ふと、自分の営業活動を振り返って、ある事実に気づいた。

新規顧客が、全然取れていない。

アポは取れる。でも案件にならない

テレアポ自体は、そこまで苦手ではなかった。
むしろ、アポ獲得率だけ見れば悪くなかったと思う。

10件電話をかければ、2件くらいはアポイントが取れる。
もちろん商材やタイミングにもよるけれど、新規営業としては、それなりに話を聞いてもらえていた。

問題は、その先だった。

アポは取れる。
初回商談もできる。
お客様も話は聞いてくれる。

でも、案件にならない。

毎月10件ほど新規顧客にアプローチする。
そのうち商談まで進む。
でも、実際に案件化するのは、せいぜい1件あるかどうか。

つまり、案件化率でいうと10%程度。

最初は「まあ、新規営業ってそんなものかな」と思っていた。

でも、何ヶ月も同じ状態が続くと、さすがに焦る。

アポは取れている。
商談もしている。
提案もしている。

なのに、次に進まない。

これは、何かがおかしい。

僕の提案は、お客様に刺さっていなかった

当時の僕は、いろいろ考えた。

トークが悪いのか。
ヒアリングが浅いのか。
サービス内容が合っていないのか。
価格が高いのか。
タイミングが悪いのか。

いろんな理由を考えたけれど、正直、自分ではよく分からなかった。

だから、ある時、思い切ってお客様に聞いてみた。

「率直に、今回の提案が次に進まなかった理由を教えていただけませんか?」

今思えば、かなり怖い質問だった。

営業としては、断られた理由を聞くのはしんどい。
できれば、ふわっと終わらせたい。
「タイミングが合わなかったんだな」
「予算がなかったんだな」
そうやって、自分を守りたくなる。

でも、その時は聞くしかなかった。

そして返ってきた言葉は、なかなか痛かった。

「提案は綺麗なんですけど、少し汎用的なんですよね」

まず、この一言で軽く刺された。

さらに続いた。

「うちの会社のビジネスや経営計画に対して、どういうアプローチが適切なのかが少し見えにくいです」

「課題解決の方向性は分かるんですが、体制や予算感が現実と合っていない部分もあります」

そして、最後に一番きつい言葉をもらった。

「正直、会社名を変えれば、他社にも出せる提案に見えます」

はい。
心の中で、静かに倒れた。

「ロジックがない」と言われた日

さらに別のお客様からは、もっと厳しい言葉をもらった。

「ロジックがないですね」
「論理的ではないです」

これは、本当にきつかった。

営業として、提案書を作る。
資料を整える。
サービスの説明をする。
事例を見せる。
競合がやっている施策も紹介する。

自分では、それなりに頑張っているつもりだった。

でも、お客様から見れば、そこには筋道がなかった。

「なぜ、今それをやるべきなのか」
「なぜ、その施策がこの会社に合っているのか」
「なぜ、その優先順位なのか」
「なぜ、その予算をかける意味があるのか」

そこが説明できていなかった。

競合がやっているから。
市場で流行っているから。
成功事例があるから。
一般的に効果があると言われているから。

そんな理由だけでは、お客様は動かない。

当たり前だけど、競合がやっているからといって、その会社もやるべきとは限らない。

会社によって、状況は違う。
売上構造も違う。
顧客も違う。
組織体制も違う。
予算も違う。
経営方針も違う。

そこを理解せずに、綺麗な提案書を持っていっても、ただの“それっぽい資料”で終わってしまう。

この時期、僕は完全に迷子になった。

「じゃあ、どうすればいいんだ?」

たどり着いた答えは「ワークショップをやろう」だった

悩んだ末に、僕がたどり着いた答えは、かなりシンプルだった。

案件化する前に、お客様ともっと話そう。

もっと正確に言うと、提案する前に、お客様と机を並べて議論する場を作ろうと思った。

それが、僕にとっての「ワークショップ」だった。

※ここで言うワークショップとは、単なる説明会やヒアリングの場ではありません。営業側が一方的にサービスを紹介するのではなく、お客様と一緒に現状・課題・目的・優先順位・実行体制を整理するための打ち合わせです。ホワイトボードや資料を使いながら、事業の方向性、現場の困りごと、予算感、意思決定の流れなどを一緒に言語化していく場です。つまり、「売るための場」ではなく、「一緒に考えるための場」です。

それまでの僕は、どこかでこう考えていた。

お客様に課題を聞く。
それに合いそうなサービスを選ぶ。
提案書を作る。
見積もりを出す。
受注を目指す。

でも、それだけでは足りなかった。

サービスのことは、こちらの方が詳しいかもしれない。
でも、お客様の事業や商品、サービス、業務、経営方針、売上計画、ビジョン、組織事情、業界の空気感は、お客様が一番理解している。

そこを理解せずに、案件化して、提案して、受注する。

今思えば、かなりナンセンスだった。

案件化までの流れを変えた

そこから、僕は案件化までの流れを少し変えた。

それまでは、

問い合わせ・アポ獲得

初回商談

ヒアリング

提案

見積もり

受注

という流れをイメージしていた。

でも、ワークショップを入れるようになってからは、こう変えた。

初回接点

簡易ヒアリング

課題仮説の整理

ワークショップ実施

現状・目的・優先順位の共通認識化

施策方針・体制・予算感のすり合わせ

提案書作成

社内稟議・意思決定支援

受注

キックオフ・運用開始

※案件化までのワークフローで大事なのは、「提案前に共通認識を作ること」です。
営業が勝手に課題を決めつけて提案するのではなく、お客様と一緒に「何が本当の課題なのか」「なぜ今やる必要があるのか」「どの順番で進めるべきなのか」を整理します。この工程を挟むことで、提案が単なるサービス紹介ではなく、お客様の事業に紐づいた実行計画に変わります。

このやり方は、正直、時間がかかる。

すぐに提案書を出して、すぐに見積もりを出して、すぐに受注する。

そんなスピード感とは違う。

でも、その分、お客様との信頼関係は明らかに変わった。

提案書の中身が、お客様に寄るようになった

ワークショップをやるようになってから、提案の質が変わった。

以前の提案書は、綺麗ではあった。
サービス説明もある。
事例もある。
スケジュールもある。
見積もりもある。

でも、どこか汎用的だった。

悪く言えば、テンプレートに会社名を入れただけの資料に近かった。

それが、ワークショップを通じて、お客様の言葉を拾えるようになった。

現場担当者が本当に困っていること。
責任者が気にしていること。
経営層が判断する時に必要なこと。
今すぐやりたいこと。
本当はやりたいけど、体制的に難しいこと。
予算をかけるべき理由。
逆に、今はやらない方がいいこと。

こういう情報が提案に入るようになると、資料の説得力がまったく変わる。

提案トークも変わった。

「このサービスがおすすめです」ではなく、
「御社の場合、今の売上計画と体制を踏まえると、まずここから着手するのが現実的です」
と言えるようになった。

これだけで、お客様の反応はかなり変わった。

稟議が通りやすい提案には理由がある

営業をしていると、商談相手が「いいですね」と言ってくれることがある。

でも、それだけでは受注にならない。

なぜなら、その人が社内で稟議を上げなければいけないから。

担当者が上司に説明する。
責任者が経営層に説明する。
予算を取る。
関係部署を巻き込む。
最終的に、誰かが判子を押す。

この流れの中で、提案にロジックがないと止まる。

「なぜ今やるの?」
「なぜこの会社に頼むの?」
「費用対効果は?」
「他に優先すべきことはないの?」
「体制的に本当に回るの?」

こうした質問に答えられないと、担当者がどれだけ前向きでも、社内で止まってしまう。

ワークショップを通じて提案を組み立てると、この稟議がスムーズになった。

なぜなら、提案書の中に、お客様の事業背景、課題、目的、優先順位、実行体制、期待効果が入っているから。

担当者が社内で説明しやすい。
責任者も判断しやすい。
経営層も納得しやすい。

つまり、提案書は営業が話すためだけの資料ではない。

お客様が社内を動かすための資料でもある。

この視点に気づけたのは、大きかった。

受注後の仕事も、うまく回るようになった

もうひとつ大きかったのは、受注後だった。

以前は、受注した後に認識のズレが起きることがあった。

「思っていた内容と少し違う」
「どこまでやってもらえると思っていた」
「この数字を見るとは聞いていなかった」
「現場の体制が追いつかない」

こういうズレは、受注前のすり合わせ不足から生まれる。

でも、ワークショップで事前に議論しておくと、受注後のキックオフがスムーズになる。

目的が共有されている。
優先順位も決まっている。
体制も分かっている。
進め方も合意できている。

もちろん、運用が始まれば想定外のことは起きる。
でも、認識の土台がそろっていると、軌道修正が早い。

分析、報告、改善のサイクルも回しやすくなる。
お客様との会話も前向きになる。
サービス品質も上がっていく。

提案して受注したら終わり。

営業をしていると、ついそう考えたくなる。
でも、本当は違う。

受注はゴールではなく、スタートだった。

営業に必要なのは「プロデュース力」だった

この経験を通じて、僕は営業に対する考え方が変わった。

営業は、サービスを売る人ではない。
提案書を作る人でもない。
見積もりを出す人でもない。

もちろん、それも大事な仕事の一部だ。

でも、本当に必要なのは、お客様と自社サービスの間に立って、方向性を作る力だった。

お客様の事業を理解する。
課題を整理する。
現場と経営の間をつなぐ。
社内の専門メンバーを巻き込む。
提案を実行可能な形にする。
受注後もズレが出ないように整える。
運用が始まってからも、改善の方向性を作る。

つまり、営業にはプロデュース力が必要なんだと思う。

案件を作るだけではなく、
受注後の業務まで見据えて、
お客様とサービス全体をまとめ、
進むべき方向を作り上げる力。

これがないと、たとえ受注できても、長く続く信頼にはならない。

「綺麗な提案書」より大事なもの

あの時、お客様に言われた言葉は、今でも忘れられない。

「提案は綺麗だけど、名前を変えれば同じだよね」
「ロジックがない」
「論理的ではない」

当時は、本当にしんどかった。

でも、今思えば、あの言葉があったから、自分の営業スタイルを変えることができた。

耳が痛いフィードバックほど、自分を変えるきっかけになる。

営業として大事なのは、綺麗な資料を作ることではない。
流行りの施策を並べることでもない。
競合事例を持ってくることでもない。

大事なのは、お客様の事業に対して、なぜそれをやるべきなのかを一緒に考えること。

そして、その理由を、担当者にも、責任者にも、経営層にも伝わる形にすること。

それができて初めて、提案は“売り込み”ではなく、“事業を前に進めるための計画”になる。

入社して1年。
ようやく僕は、少しだけ営業という仕事の奥深さを理解し始めた。

まだまだ未熟だった。
でも、この頃から少しずつ、営業が面白くなっていった。

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