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小説『鳥音波(ちょうおんぱ)』~民間医工連携で「SFプロトタイピング」手法を実践


本稿は筆者が2025年3月に起業して取組む、医療の“あったらいいな”を実現する「デザイン工房」を軌道に乗せるため、星新一賞へ6年連続で投稿する中で出会った下記の書籍を参考に「SFプロトタイピング」の手法を実践してみた小説です。ちなみにこれはSF(サイエンスフィクション)の作品にする事で他者と未来像を共有し、議論の叩き台とする事でアイデアを飛躍させ、先端技術を活かす革新的なビジョンを導く手法。本来ワークショップで数人が行うそうですが、代わりに私は、以下の通り生成AIとのキャッチボールで仕上げました。お楽しみ頂くと共に、手法導入のご参考になれば幸いです。

私はこれを基に2025年4月からストリート・メディカル・ラボに参加。ここに描いた世界観をバックキャストして、今度は現実からどんな第一歩をデザインするか?…を構想し、最終「先端技術を活かす革新的なビジョン」10月に発表するための第一歩とする所存です。では以下お楽しみ下さい!

(あらすじ)
50年後、誰もが吹けるようになった口笛に、固有の音紋を発見した医師が、夫となる研究者と「口笛個人認証」を確立。そんな時、自然災害で心に傷を負った夫が、娘の行動で精神疾患から救われたのを機に、医師は「音楽療法を民主化する医療機器」の開発に取組む。途中で難題に苦しむ医師に、夫の難病発症と早世が追討ちをかけるが…。

2024年「星新一賞」に投稿したものを修正

(生成AI:ChatGPT-3.5を使用した制作過程)
まず星新一賞への応募を目的として、以下の条件で5つのあらすじを生成。
①50年後に実現しそうな技術
②医療機器を開発する物語
③口笛が重要な役割を果たす作品を

それを受け私が骨子を構想。今度は以下の条件で、1つのあらすじを生成。
①口笛で心身の状態を周波数に変換し様々な病気の診断を行う社会
②人工の口笛音波で非侵襲の手術を行う画期的な医療機器を開発
③娘がこれに異常な反応を示し苦悩
④脳内留置ナノマシンに働きかける役割を人工口笛に与え、娘の難病を克服

さらに以下の条件を加え、再度あらすじを生成。
①口笛を固有の個体識別手段として使用
②口笛で人間の免疫機能に働きかけ活性化させる手段を確立
③娘にメカニズムが機能しない理由に気づく主人公
④主人公の口笛に自動的にハーモニーを加え、夫の存在を脳内に創り出す機構を持つナノマシンを開発
⑤医療機器として承認されたナノマシンは、病気の有無や寿命の長さに関わらず、誰もが幸せに包まれて人生を終えることができるように活用

最後に、より良い小説にするためのアドバイスを5つ貰い、それを参考に、後は1から自分で執筆をしました。

2024年「星新一賞」に投稿した補足説明から

(本 編)
「もう少しですよー。がんばりましょうねー。はい、ひっ、ひっ、ふー。」「ひっ、ひっ、ふー。ひっ、ひっ、ふー。」

これが初産となる美咲は、人生最大の苦難に直面していた。海外で医師をしている友人が言っていた“無痛分娩”にしておけばよかった……と今更ながら思ったが、今2076年の日本では、なんと4割が高齢者なので(美咲を含め)医師が多忙を極めており、未だに麻酔専門でない医師が全身麻酔をするのだと聞き、不安を感じ断念したのだった。仕方ない、頑張るしかないか……と改めて腹を括った美咲の目に、なぜか苦悩にゆがむ夫、義一の顔が逆さまに映った。違和感を覚えたがそれどころではなく、100年以上も続く呼吸法を続けるしかなかった。もーっ!これって本当に効果あるの?ラマーズさん、助けてっ!!……そんな美咲の心の叫びが聞こえたのか、突然ふっと楽になり、数秒後にけたたましい泣き声が轟いた。

「生まれましたぁ!おめでとうございます!とっても元気な女の子ですよー。」

息も絶え絶えな美咲の胸に、助産師さんが赤ちゃんを乗せてくれた。んー、なんだか青くてぬめぬめしてて、全然赤くないじゃん!思っていたのと違う……でも、ありがと。元気で生まれてくれて。これからよろしくね!

明け方に出産してから夕方までゆっくり休んだ後、私たちは個室に移り、初めて家族3人の夜を迎えることとなった。義一が痛そうにお腹をさすっていたので、美咲はそこでやっと出産時の違和感について訊くことができた。

「えー?!覚えてないの?」
「うん、まったく。」
「美咲が渾身の力で締め上げたんだよ。僕の横っ腹を、両方とも万力のように。死ぬかと思ったけど、君も命がけだったから、せめて痛みを共有することにしたんだ。」
「そうだったの。ベッドのヘッドフレームを掴んだつもりだったけど、どうりで上手く力が入らなかったわけだ。義一のお腹、ぽよんぽよんだものね。」
「やかましいわい!」

その時、お腹が空いたのか娘が泣き出した。名前はあやか、彩る香りと書く。気に入ってくれるといいな。そんなことを考えながらお乳をあげるのだが、初めてだからか上手くゆかない。お乳が出てくれないのだ。だんだん泣き声は大きくなるし、先っちょが痛くなってくるしで、こっちが泣きそうになってきた時、ふと義一が口笛を吹いてくれた。

「あっこれ “Isn’t She Lovely?”だ。いいね。さてはイントロの泣き声から連想したな。」
「ご名答。これは100年前の曲なのだ。気が和むでしょ。慌てないで、必ず出るから。」
「ありがと。とっても助かる。」

しばし夫が奏でる音色に身を委ねていたら、彩香もいつも間に大人しくなっている。

「寝た。」
「うん、可愛いね。」
「ねぇ、なんでだろ。」
「何が?」
「彩香……口笛好きなのかな。」
「そりゃあ、お腹の中でも聞こえていたでしょ。毎日、吹いて聞かせていたのだから。」
「そっか。それで安心したんだね。」

義一とは最初、口笛の大会で出会った。競争が嫌いなところが似ていて親近感を抱いた。それから医師になった私は、全員が一位になれればいいのに……と思って、口笛で個体識別する技術の開発に乗り出した。そこで義一と再会して、一緒になったのだ。

「彩香も、早く口笛吹いてくれるといいな。」
「普通の親は先に、話して欲しいと望むものだけどね。」

私たちが生まれるずっと前に、口笛が鳴る原理は科学的に解明されていたから、基本的に(口腔機能に欠損や障害がなければ)誰でも口笛を吹けるようになっていた。だから大会に出たのも特に意味はなくて、皆が出るから出ただけなのだけれど、そもそも骨格も違えば、舌の長さや歯並びだって人それぞれ違うのに、同じ土俵で競うことに違和感があったんだ。だって、それって(同じ笛でも)リコーダーとトランペット、さらにトロンボーンやホルンやピッコロ等々が、同列で勝負するってことだよね。それは絶対におかしい!……と感じて、口笛が人によってどれだけ違うかを調べ始めたのだ。そうしたらなんと!一人として同じ音紋はないと科学的に立証できてしまったので、それなら個体認証ができるね!となって、いつの間にか私が第一人者に祀り上げられてしまったのだった。

「ねぇ、彩香は2人の口笛、聞き分けられるのかな?」
「できると思うよ。鳥の雛だって親鳥を聞き分けられるのだから。」

義一は、医師でなくエンジニアだ。電気工学を修めたが生物にも詳しく、言うならバイオエレクトロニクスが専門となるらしい。その一環で鳥の鳴き声を沢山研究していたことで、私たちの個体識別プロジェクトに呼ばれたそうだ。口笛は鳥の鳴き真似が発祥だからと。

「そうだ!じゃあさ、今のうちに僕と美咲の口笛も聞かせておかない?」「いいよ、何を吹こうか。」
「“Stand by Me”なんてどう?安心すると思うんだよね。」
「いいねぇ。じゃあ私がメインの旋律を吹くから、ハモリは義一に任せたよ。」

寝ながら聴いている彩香の口角が、少し上がった気がしたのは気のせいかしら。
       



ヒン、カララララララララ!!!!義一のスマートグラスがけたたましく鳴った。

「義一さん!大変だ!!森林公園が燃えている!!!」

鳥類観察で釧路に来ていた義一に、後輩から緊急メッセージが届いた着信音だった。

「ニュースによると、義一さんが観察しているコマドリの生息域も危ないです。」

 第二信を読むまでもなく、義一はグラスを装着して、宿舎を飛び出していた。日暮れまでまだ間がある!明朝の観察用に準備しておいた鳥型ドローン(キビタキ型)を、迷わず発進させた。コマドリは縄張り意識が強いが、キビタキとは共生。生息地と捕食対象が似ていて、繁殖期と巣を作る場所も近いから“ママ友”のような関係なのだろう。だから義一は咄嗟に、これでコマドリを導いて避難させようと考えたのだ。その黄色と黒の躯体が舞い上がり、目指す方向に向かうのを見届けてすぐ、義一はモニター越しに現場の映像を待った。

ほどなく届いた映像は、凄まじいものだった。毎年上がる気温と共に乾燥も進み、加えてこの年は空梅雨だった為、乾ききった木々が容赦なく業火に飲み込まれてゆく。そんな中にふと、待ち望んだ橙色の頭が見えた。内蔵したAIもコマドリと認定。自分に付いて来い!と鳴き、飛び立つキビタキ。しかし画面は再びコマドリを映す。付いて来ないのだ。何度か繰り返すそのやり取りの中、義一はコマドリの叫びを聞いた。「カッ!カッ!カッ!」普段聞いている優しい声とは違う、危険を知らせる合図だ。その視線はキビタキと自分の後ろを交互に見ている。ズームしてゆくと……巣だ!雛が居る!!

「そう……それじゃあ、付いて来られないわね。」
「そうなの。3羽いるからどうやっても運べないわ。」
「人間は“火事場の何とか”って言うけど、頑張って自力で飛べないかしら。」
「やってみたけど、無理そうね。もう少しで巣立てたのに……悔しいわ。」

キビタキに搭載されたAIとコマドリとで交わされた鳥語の会話が、翻訳された音声となって義一のスマートグラスから流れてきた。すでに涙でぐしゃぐしゃになった義一の目に、炎に呑まれてゆく雛たちの姿が焼き付く。

「ヒン、カララララララララ!!!!」

天を恨むかの如き親鳥の慟哭が、愛らしい橙色の顔と同色の炎に塗り潰されていった。



ポイ捨てされた煙草の火がきっかけだった。どんなに時代が移ろおうとなぜか変わらぬこの旧習を、義一は心から嫌っていた。どんな理由があろうと立派な火だ。それをポイ捨てする行為は放火罪ではないのか?……マナー云々の話ではない!と、自分の中でわだかまっていた想いが、この出来事で憎しみへと転化してしまった。2075年、コマドリは環境省のレッドリストで絶滅危惧IA類(CR)、つまり絶滅の一歩手前とされていた。かつて日本三鳴鳥の一つにも数えられた鳥なのに……それがこんな愚かな振舞いで!

義一の心はぐちゃぐちゃだった。こんな時に怒りを紛らわしてくれるはずの鳥類研究や個体認識プロジェクトといった仕事や家族との関係、さらにあれほど日常そのものだった口笛を吹くことまでもが、今の義一には悲しみと悔しさを想起させ、苦痛でしかなかった。そうして気力を失い、幻聴が聞こえるようになった。医師には統合失調症と診断された。

「一生懸命にやっても報われないさ。だって人間は足を引っ張り合う生物なのだから。」
「口笛の個体識別なんか作りやがって。社会には余白が必要なのに、堅苦しいんだよ。」
「地球なんていずれ住めなくなるんだ。早く宇宙へ脱出する方が正解に決まっているぜ。」

そんな声が聞こえ、ますます無気力になり引籠る義一。その様子をみて、美咲は心の傷が癒えるまで待とうと思ったが、まだ小さい彩香は、お父さんを元気づけるのだ!と突進した。

「ねぇお父さん、顔出さなくていいから聴いていてね。前に教えてくれた口笛、吹けたよ! ヒン、クルルルルルルルル!!!!」

暗闇に沈んでいた義一の心に、音が届いた。それは、あのコマドリを彷彿させるさえずりだった。そういえば釧路に行く前に彩香に教えたのだった、口笛のWarblingという技術を。それは、舌を口腔内の天井に付けたり離したりすることで空気の流れを瞬時に変え、高速で明確に音を波打たせる奏法。小さな彩香の口蓋からは義一より高い音が発せられ、あたかも炎に呑まれたコマドリの雛が、義一のために再び鳴いてくれたようだった。

「今の……彩香が吹いたのか?」
「そうだよー!ほれ、もう一度。ヒン、クルルルルルルルル!!!!」

今度は親コマドリの姿がはっきりと脳裏に浮かび、AI風に、義一へこう語り掛けた。

「心を痛めてくれてありがとう。私たちは貴方の中に生きているから心配しないで。」

そしてこれが、義一の聞いた最後の幻聴となった。



美咲は、彩香が起こした奇跡について考えていた。口笛という音波を使って、なにげなく統合失調症という夫の精神疾患を治癒してしまった現実を、どう受け止めたらよいものか……何はともあれ、医師として学術的に研究する必要を感じた。

世には既に音楽療法というものがある。経験を積んだ療法士が、患者の反応を伺いながら行うものだ。統合失調症のような精神疾患もその対象となる。しかし、音楽の受け止め方は人それぞれで、中には特定の音楽が強い感情を引き起こし、過去のトラウマや悲しい記憶を呼び起こしてしまうこともある。この場合は逆にストレスや不安が増す危険があるそうだ。それがゆえにこの療法は、長く属人的で職人的とされ、臨床現場で広く使われてはいない。

しかし今回、全くの未経験者である娘が意図せず使い、結果を出してしまった。ならば、そうした臨床上のリスクを避けるようにデザインされた医療機器があったらどうだろう?音楽療法を解放し、もっと民主化できるのではないか……という可能性を感じたのだった。

ちなみに義一は、その時を振り返ってこう言っていた。

「僕が戻って来られたのは、彩香が僕の脳内に親コマドリの姿を再生してくれたからだ。コマドリの悲惨な最後を見たことで社会の理不尽への不満が溢れて、僕の心は壊れた。でも彩香のおかげで悲嘆の中にも希望を見出せたから、心を修復できたのではないかな。だからこのプロセスに再現性を持たせられれば、一般の人が使える医療機器になり得ると思う。」

難しい課題だが、義一が経験した成人の精神疾患やこどもの発達障害、さらには認知症の進行を遅らせたり、がん終末期の疼痛緩和や死生観を整えたり等、大きな影響がありそうだ。何より家族で口笛をたしなみ、個体認証にまで昇華させた自分が取組むに相応しいテーマではないか?……よし!やってみよう!!娘の能天気な笑顔を見ながら、そう誓った。



まず、これから開発する医療機器を、以下の通り定義した。

①    (口笛の個体認証を使用し)患者が大切に想う人の口笛で起動
②    (その音波で)患者の人生を幸福感で満たすイメージを脳内に創出
③    (患者のストレスや不安を増す)トラウマへの刺激は自動で早期に回避

口笛の個体認証で①は何とかなるから、②③に注力しよう。③はニューロフィードバックという手法で脳波をリアルタイム計測して、トラウマが刺激された兆候を早期に発見する仕組みを開発すれば出来そうだ。ただ問題は②で、患者の人生を幸福感で満たすイメージをどう脳内に創出するか……手始めに、義一の例から原形を構想してみよう。

義一の場合は、キビタキ型ドローンからの映像でコマドリの姿を視認。それがトラウマとなり、またトラウマを解く鍵ともなった。彩香の口笛がたまたまコマドリを想起させたからトラウマを解除できたが、いつでも口笛がそのように作用する訳ではない。患者に苦しみを生む課題に、いつでも的確に作用するストーリーをどう探索するのか?……かなり難問だ。

多くの脳波を計測するうち、トラウマを刺激しそうになった際に、早期にその兆候を知る術は見つかった。これで③は何とかなる目途が付いたが、②が暗礁に乗り上げつつあった。

義一に難病が見つかったのは、そんな時だ。



「そんなに深刻にならないでよ。特に自覚症状はないし、普通に仕事もできるのだから。」
「でも、原因も治療法も分からないって……それに動脈炎だから全身に飛び火するかも。」
「それはそうだけど……仕方ないよ。遅かれ早かれ、人間いつかは必ず死ぬんだしさ。」
「お父さん、死んじゃうの?」
「大丈夫だよ。彩香が大人になるまでは死ねないね。さぁおいで。子守歌を吹いてあげる。」

そうして気丈に振る舞った義一だが案の定、程なく炎症が皮膚から主要臓器へ飛び火し、容体が急速に悪化。悲しみに暮れる彩香は、お気に入りの子守歌を自分で吹けなくなった。吹くと悲しみが溢れて駄目なのだと。口笛は口角を上げないと鳴らないから、無理もない。そうして家族に見守られながら、特に有効な治療も施せぬまま義一は逝った。でも最後まで意識ははっきりしていて、美咲にこんな言葉を残してくれた。

「前に、僕が心を病んだ訳は“社会の理不尽に不満が溢れて”と言ったけど、最近そうじゃない気がしている。彩香が子守歌を吹けなくなったことで気づいた。本当の理由は“喪失感”なのではないかと。あの時はコマドリの命が理不尽に奪われた怒りで、真の理由を見失った。心の奥底ではコマドリにもう一度会いたかったんだ。彩香が口笛でそれを実現してくれた。だから僕が居なくても、彩香の中にいつでも僕が居るようにして欲しい。頼んだよ。」

彩香の中に……そうか!“中にもう一人”、居ればいいのかもしれない。

それから美咲は、開発目標を「埋込型ナノマシン」と定めた。彩香が再び義一との想い出である子守歌を吹けるようになるには?……と考えた時、「彩香の中に義一が居れば良い」と思ったのだ。つまり、彩香の大切な人(私)が吹く口笛に、身体の中で義一が音を重ねてくれたらどうだろう。大切な人の音と喪失感を埋める音が重なれば、そこから患者が自分で、大切だったストーリーを蘇らせてくれるのではないか?……失ったものを自ら復元しようとする力が、傷ついた心に僅かでも残っていることを信じて!こうして②も目途が立った。

そのように開発方針をピボットさせた美咲は、新たに2つの課題を追加した。

④    患者の体内で長期間作動できる、電力供給メカニズム
⑤    患者の免疫システムを回避できる、生体適合性

ただ、これらはいずれも、義一が生前に病床で、ある程度まで道筋を描いてくれていた。④は、「口笛が持つ音波としての振動エネルギーを、電力に転換する機構」として。⑤は、「寄生する生物が宿主の免疫攻撃を回避する仕組みを、人体内に再現する可能性」として。美咲は、義一が残した口笛音源を常時研究室中に響かせながら、これらの実現に邁進した。



こうして開発した医療機器は「鳥音波(ちょうおんぱ)」と名付けられ、世界各国で薬事審査を通過して上市された。そして患者の心が失ってしまった、あるいは元々足りなかった感覚を充足させ、(幸福感と共に)自力で病気と共生する為のパートナーとして重宝された。

ある国では早くに父を亡くした自閉症のこどもが、鳥音波で母の口笛から父を想起して、「お前は大丈夫。それでいいんだぞ。」と励まされながら、日々自分の興味対象を拡大中。

ある国では認知症の高齢女性が、鳥音波で孫の口笛から高校時代に仲が良かった合唱部の友人を想起して、当時練習していた数十の歌を暗譜で日々歌い、病気の進行を止めている。

ある国では難病を患う盛年の独身男性が、鳥音波で信頼する同僚の口笛から顧客を想起、「今まで本当にありがとう。貴方がいてよかった。」等の声に囲まれ、死生観を整えている。

ある国では末期がんで疼痛が激しい女性が、鳥音波で息子の口笛から出産時の看護師を想起し、「苦しいね。でももうすぐ会えますよー。」と励まされ、疼痛を活力に変えている。

そして彩香にも、ついに鳥音波を使う日が来た。病気でない彩香には管理医療機器である埋込型を使えないので、美咲は並行して、特定の資格がない人でも操作できる一般医療機器「イヤホン型」の開発を進めていたのだが、それをやっと上市できたのである。

「これで、本当にお父さんに会えるの?」半信半疑な彩香。
「そうよ。彩香は力を抜いて目を瞑り、お父さんを想うだけでいいわ。」
「なんだか怖いよ。上手く話せるかな。」
「そう。ずいぶん長いこと話していないものね。でも大丈夫。お父さんは優しいから。」
「わかった。やってみる。私、お父さんに会ってくるよ。」
「ええ、お父さんも喜ぶわ。あとで何を話したか、お母さんにも教えて頂戴ね。」
「うん!」

イヤホンを付けた彩香の耳に、美咲の口笛が届く。すると程なく、懐かしい義一の口笛が重なった。吹けなくなった子守歌、 “Stand by Me” ……脳内が幸せの波長で満たされる。まだ悲しさは消えないが、幸福感の方が圧倒的に優位だ。あぁなんて気持ちいいのだろう。

クラウドで繋ぐモニターを眺める美咲は、冒頭で彩香の脳波に悲しみの兆候を認めたが、それ以上には増悪せず、やがて消滅……安全装置が正常に作動して、彩香の心を守っていた。

「お父さん。」
「ただいま。大人になる前に戻れてよかった。約束したものな。」
「戻れたの?本当に?これからはずっと一緒?」
「ああそうさ。いつでも彩香の心の中に居るから、会いたければいつでも会える。」
「でも私、悲しくなっちゃうからこの曲、吹けなくなったんだよ。大好きなのに。」
「そうか?でも、こうして会えたからもう大丈夫。ほら吹いてごらん。吹けるから。」

またもや半信半疑な彩香だったが、父に励まされておそるおそる吹いた口笛は、意外にも強くしっかりと響き、見事に義一とのオクターブハーモニーが成立した。実はこれも機器の手助けがあってのことで、あたかも自分が吹いている感覚を保ちつつ、彩香の音質でガイド口笛を入れているのであった。ただそれも最初だけで、途中から本当に力強く鳴っていたが。

「吹けた!吹けたよ!!お父さん……いっぱいありがとう。ずっと言いたかったの。でも言ったら居なくなっちゃうと思ったから、我慢していたら本当に居なくなっちゃって。あぁ言えてよかった。彩香ね、理科の勉強を頑張っているんだ。大きくなったお父さんみたいなお仕事したいから。鳥の名前もたくさん覚えたよ。鳴き声だって口笛で真似できるんだ。」

それからそれからと、彩香の話は堰を切ったように続いた。そうして途中大泣きした涙もすっかり乾いた頃……わかった、またねーと言って、やっと目が開いた。

「お父さん、どうだった?」
「うん、元気だったよ。いっぱい話したから忘れちゃった。ていうか、ほとんど私ばかり話していた気がするな。あ!でもひとつ、すごく大事なことを言っていたよ。」
「えっ?なになに?」
「もうすぐ弟ができるよって。」

美咲は言葉を失った。なぜ義一がそれを?……いやいや、これは本人じゃなくて、彩香が創り出したイメージのはず……ああそうか、この娘は感じていたのだ。お腹に居る弟の存在を。でもどう言おう……弟の目は光を失っているのに。

「私、知っていたよ。弟かわからないけど、お母さんの中に何か居るって。本当に弟?」
「ええそうよ。でもよく分かっ」
「やったー!!!前から弟が欲しかったの。神さま、ありがとう!」
「でもね、彩香。弟は目が見えないの。元気に育つかしら。」
「大丈夫だよ。代わりに耳がいいから。私の声でむっちゃ動くもん。」
「あなた、そんなことまで分かるの?」
「分かるよ。上手く言えないけど……感じるんだ。姉弟だから、繋がっているんじゃない?それに、お父さんが最後に頑張ってくれたんでしょう?私、生まれてくれるだけで嬉しいよ。えっ?お母さんどうしたの?泣いたらやだ。」

ねぇ義一、私とっても幸せ。あなたとの約束も果たせたよね。それともう一つ、弟は必ず元気に産むよ。そしてあなたが残した名前を付けるの。口笛と立派に生きてゆけるように。そしていずれ教えて貰うんだ。音だけの世界で生きるのが、どんなに豊かなのかってことを。

命名「羽駒(はく)」。

≪了≫

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