十二星座物語(エピソード⑤)
獅子座の支配星であり、この星座を守護しているのは太陽。まさに太陽系の主役。その太陽のエネルギーを大地に注ぎ、命を与え、奪いもする「獅鹿神(しかがみ)」その伝説の実態を解き明かすべく、使命を宿された主人公、日向(ソエル)が今、立ち上がる。
日本の神話と語り継がれてきた神の世界が融合した、獅子座の勇気と誇り高きその輝きに迫る。
獅鹿神ダイアリー
~ソエル、陽を添える。日の光をソエル、その人よ~
8月8日 快晴。
宇宙のポータルであるライオンズゲートが全開。真夏の太陽がジリジリと肌に照り付け、向日葵の花が例年よりも数多く咲いたとても暑い日の朝、私はこの地に生を受けた。名は日向。家族や友人たちは、私のことを「ソエル」と、親しみを込めてそう呼んでくれる。これは、北欧のルーンの文字(ᛋ)が由来となっていて、太陽そのものを意味しているのだそうだ。
私の家は先祖代々、古い社の宮司を仰せつかっており、幼いころから、数々の奉り事もこなす父の姿を側で見てきた。
中でも、私の生まれた8月の盂蘭盆会に「ひむかいの儀」という大祭が行われるのだが、真夜中の闇に、黄金の光に包まれた獅鹿神が姿を現すとの言い伝えがあり、私は幼いころから、その祭りの日がやってくると、言葉では言い表せない喜びと、高揚感に満たされる。
先日、宮司である父が、大切な話があると、神楽殿に私を呼び出した。いつになく厳格な面持ちで座っている父を見て、そのただならぬ空気感に背筋がすっと伸びる。深く息を吸い、ゆっくりと長く吐き出しながら、心を鎮めて着座した。
「ソエル。お前はただ、この宮で神事を執り行い、宮に仕える人間ではない。我が一族に数千年ぶりに生まれた、太陽の力を宿す子だ。お前に我らが代々受け継ぎ、守り抜いてきた真実を伝えなければならない」
その瞬間、ゆらゆらと揺らめいていた蝋燭の火は、微動だにすることなく一本の灯火となる。風は止み、神聖かつ張り詰めた空気が、より一層静かに凪いでゆく。父は真っすぐに私の目を見つめ、ゆっくりと言葉を繋いだ。
「命を与え、そして奪いもする絶対的な自然の理、獅鹿神。その正体は、高天原を統べる太陽の神、アマテルの荒御魂と和御魂が大地に降り立ち、受肉した姿なのだ」
空に輝くアマテルは、この世の光そのものだが、大地に降りたその化身である獅鹿神は、土に還る命を糧として、新たな命を芽吹かせる「生と死の循環」そのものになっているのだと、父は話してくれた。
「お前の使命は、ツクヨミの使者と共に、獅鹿神に謁見し、その理をその身に刻み、迷える現代の人々に伝えることだ」
正直、難しいことは私には分からない。分からないけれど…ただ、自分が大きな使命を担っている、そのことだけは、この身が振るえるほどに感じる確かなこと。私にしか成し得ないことがあるとするのなら、私はそのためにこの命を使いたい。今日ここで、父からこの話を受けたということは、これが私の独りで立つ人生の舞台であり、本来の自分として生きるための、新たな旅立ちの時なのだと思っている。
☀
ソエルの父が伝えた「ツクヨミの使者」とは、いったいどこにいるのだろうか?ソエルは父の言いつけ通り、深い森の奥、長い道のりを突き進む。
ちょうど、十里を過ぎた頃だろうか。美しい朱色の大きな鳥居が見えてきた。ソエルの前に一人の人物が現れた。 プラチナグロウの長い髪を月明かりのように煌めかせ、静寂を纏うその少女は、瑠璃奈と名乗った。月を意味する「ルナ」という愛称で、幼いころから月族の娘として育ち、夜の世界と月を司る、ツクヨミの力を継承する者だった。
「あなたがソエル。私はルナと申します。父から、あなたの旅を助けるよう、仰せつかって参りました」
ソエルはルナの支援をありがたく受け取り、共に旅をすることとなった。
ソエルが圧倒的な光と熱を放つ「動」であるならば、ルナは月の夜の静寂を陰と共に包み込む「静」。対極にある二人は、見えない引力に引き寄せられるかように、不思議な力に導かれ、互いの存在を語らずとも受け入れた。
道中、ソエルはその持ち前の明るさと、獅子が群れを率いるような力強さで、出会う人々や森の獣たちに積極的に声をかけ、時に助け、励まし歩いた。その頼りがいある逞しい姿に、すべての生き物が魅了されていく。彼が笑えば花が咲き、彼が前を向けば皆が後に続く。まさに己が中心となって世界を回す、王の如き、輝かしいカリスマ性だった。
ルナはそんなソエルの行動を頼もしいと思いつつも、一つだけ気がかりなことがあると、空に浮かんだ三日月を見上げながら、こう告げた。
「ソエル殿、強すぎる光は時に己の命をも焼き尽くします。あなたは決して弱みを見せず、動き続けている。もちろんそれは素晴らしいことだけれど…。時には夜の静寂と共に光を眠らせ、休んでください。土に還る命の営みがあってこそ、世界は循環するのです」
「私の光が強すぎるか。これまでそのようなことを意識したことは一度もなかったな。心を鎮め、自重するように務めるよ」
ソエルは静かに頷いた。
ふと、これまでの人生を振り返ってみれば、ソエルは自分の弱い部分を人に見せたことが一度もなかった。弱さは出せない性分だ。両親にこそ、弱音を吐いたり、泣きついたことはなかった。それが日常であり、当たり前のことだと思い、これまで生きてきた。強くなければ…強く在ることでしか、大切なものはこの手では守れない。
☀
やがて二人は父たちの教えにあった、深い森の奥にある大きな磐座の前に辿り着いた。人の手が決して入ることのない森の最深部であり、巨大な大岩の上部には、神の手が描いた、イカヅチの紋様が刻まれている神域だ。ソエルはその手を合わせ、深く二礼し柏手を四つ打った。祝詞を上げ、静かに一礼すると、ルナもその後に続いた。
その時だった。磐座のイカヅチの紋様の隙間から、目も眩むほどの光が放たれ、ソエルとルナはその眩しすぎる光に目を覆った。神聖な静寂の中、菩提樹の張り巡らされた根にそっと寄り添う、光の獣、獅鹿神がまばゆい光と共に降臨された。その姿は、顔は猿、身体は鹿、そして足は鳥のような姿をしており、生命の息吹に満ちあふれ、穏やかな光を纏ったアマテル。神の化身そのものであった。
その時、獅鹿神の足元で、寿命を全うした一羽の山鳩が息絶えようとしていた。 獅鹿神は静かにその山鳩のもとへ歩み寄り、そっと息を吹きかけた。すると山鳩は光の粒子となって土へと溶け還り、そこから青々とした新芽が勢いよく芽吹いた。
「命が終わっていくことを悲しむ勿れ。終わることは次なる命を産み出し、創造すること。我はアマテル。大地の理、命の終焉と再生を巡らせる」
直接脳内に響くような荘厳たる神の声。それは紛れもなく、万物を照らす太陽神のもう一つの大切なお役目であり、この宇宙の中心にある光の恩恵であった。
「私は…」
ソエルは息を呑んだ。自分は今まで、光を与え、皆を笑顔にし、中心で輝くことだけが「太陽」の役割だと思っていた。しかし、真の太陽とは、命が朽ちていく悲しみや、死という陰の側面すらも等しく照らし、受け入れる存在だということを、今この場所で知ったのだ。
ソエルの内側で、何かが波打ち、そして大きく弾けた。 彼の目から涙の雫が一筋、頬を伝って流れ落ちる。その背後に、強大な黄金の獅子のオーラが立ち昇る。それは彼の内側に眠っていた、真のリーダーとしての、万物の命を背負う「王」の自覚が目覚めた瞬間だった。
ソエルは獅鹿神に向かって深く頭を下げ、そして力強く顔を上げると、何かを悟ったかのような、自信に満ち溢れた表情で言葉を紡いだ。
「アマテルの御魂たる獅鹿神よ。あなたの理、私の魂に刻み、肝に銘じる。私は空で輝く灼熱の光の存在などではない。だがしかし、私は人間…人として生まれた以上、人々の生も死も、喜びも悲しみも、すべてをこの腕で抱き留める器になってみせます!」
その宣言を聞き、ルナもまた静かに頷いた。
「夜の闇と安らぎは、ツクヨミたる私が引き受けましょう。あなたが安心して、その大きな光で世界を包み込み、弱きものたちの叫びも受け止めて、己を信じるという、尊き宝珠が等しく与えられるように…」
獅鹿神は二人の勇姿を見届け、満足そうに目を細めると、光の粒子となって大地へと溶けて消えていった。
☀
私の旅は、ただ先頭に立って率いる、リーダーとしての役割だけを、果たしていればいいというものではなくなった。この世に生きている人々の中心として存在することは、強き者を導く獅子の気高さと、弱き者や散りゆく命を慈しむ心。その両方を兼ね備え、生きていくことだと真に悟ったからだ。
今日は新月だ。毎月、新月の日には、太陽と月が同じ場所に集うことに感謝し、祭を執り行う。私はルナと共に、獅鹿神が示す「命の循環」の尊さを人々に説いて回った。私の心には常に、魂の源から溢れ出す陽の光がある。絶えることなど決してない。この光を燃やし続けることこそ、私の命の営みであり、この世の安寧に繋がると信じている。
国境を越え、地球を包み込み、まるで私自身がこの星々を繋ぐ「太陽系の真の王」であるかのように、永遠にすべての生物を照らす、温かな光でありたい。
獅子座の最大のテーマ、それは「自己表現」。いかにして自分の生き方をこの世に表現していくか、その一択であります。どんな時も『個』としての威厳を保ちつつ、外側の他者に対しても同じく『個』としての存在を認めています。強さは優しさであるということを知っている人。ある意味、自分のペースを守りながら、自分という人間を誰よりも深く味わい、演じ切ることのできる星座と言えるでしょう。私にとって太陽とは、いつも笑って周りを勇気づけ、弱い自分も認めてくれる母のような存在です。
次の6番目に登場する部屋は、子供以上大人未満、人間として成熟していく、とても大切な気付きを得る場所。「個」の意識から、外側の他人を通して、自分の本当の望みを知っていく領域へと移行していきます。
