十二星座物語(エピソード⑫)
12の星、最後の部屋は、現実と空想の境目を行ったり来たりしながら、過去と現在、今と未来を繋いでいく使命を果たす、魚座「めぐる」の物語。現実の生きづらさに戸惑いながらも、必死で自分探しをするめぐるが、ある日出逢った一冊の本が、彼の人生の転機となる。大切なものを守るために、めぐるはどんな未来を選択し、創造するのだろうか?
十二星座の物語を締めくくる、夢先案内人の真の願いとは?
めぐり巡る時をつなぐ糸
か・な・と.。o○〇●.。o○〇待って.。o○.。〇
あ・り・さ.。o○〇.。o○〇いかないで.。o○〇
僕を置いていかないで……
「めぐる」という名は、彼の両親が、巡る季節の、その年度最後の3月に待望の男の子が生まれたこと、そして惜しみなく自分の夢を巡って、人生をクリエイトしてほしいとの思いから名付けたそうだ。幼い頃は病気がちで、おまけに早生まれということもあり、同学年の中でも特に小柄なことが、彼の一番の悩みだった。
そんな彼にも信頼できる友達がいた。幼馴染みの奏斗。彼は4月生まれの牡羊座で身体も大きく、みんなの人気者だ。奏斗だけは一度も自分のことを見下したりせず、等身大の彼を受け入れ、一緒にいてくれた。いじめっ子たちも、奏斗には逆らえなかった。おかげで、学校にも普通に通うことができた。めぐるはそんな正義感のある奏斗にずっと憧れを抱いていた。
そして、中学に上がり、9月生まれの乙女座、有紗に出逢う。しっかり者で細やかな気配りのできる、優しくて柔らかな人だ。同じクラスになってから、不思議な運命の糸で手繰り寄せられるかのように、いつも三人で一緒だった。その空気感が何とも心地良く、まるで新緑の丘に吹き抜ける透明な風のように感じた。
そう、あの時までは・・・。
高校を卒業して、奏斗が突然、引っ越していなくなってしまった。一言、相談してくれたらよかった。何も言わずに行ってしまうなんて悲しすぎる。でも、あいつはそういうやつだ。みんなに迷惑かけず、自分で決断し、行動できる。奏斗はそういうやつなんだ。僕らはいつも一緒にいたのに、奏斗の真意に気付かずに、のほほんと自分の夢の話ばかりしていた。
「卒業したらさ、保育士になって、そんでもってカフェを開く資金を貯めるんだ。一緒に三人で植物園みたいなカフェやろうぜ!」
だけど、世の中そんなに甘いもんじゃない。奏斗も有紗も、現実的なこと考えて、それがそんなすぐに叶えられるものじゃないって分かってた。なのに僕は…理想論ばかりで、何一つ分かっちゃいなかった。
「めぐる先生。どうしたの?お腹痛い?」
「ゆかちゃん、大丈夫だよ。気にかけてくれてありがと。先生、ぼーっとしてただけだ」
めぐるは街の中心部にある保育園に勤めている。たくさんの子供たちと毎日関わりながら、それなりの居場所を手に入れた。ここなら自分が何者なのかなんて、考えなくて済む。保育士として、子供たちが健やかに成長し、それぞれの未来で、キラッキラに輝いて活躍してくれることを願いながら、かけがえのない「今」をサポートすること。この仕事がやりたくてここに来たんだ…と思うことにした。本当は何をするにも自信がなかった。自分の存在が、まるで色のない薄っぺらい紙切れのように思えて仕方がなかった。
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僕の本当に叶えたかった夢。それは、奏斗と有紗と三人で小さな店をオープンすることだった。何でもよかったんだ…三人が一緒にいられる口実を探していたのかもしれない。僕には信頼できる相棒が二人もいる。この三人なら、きっとそれぞれの良さがバランスよく発揮でき、これからも幸せに生きていける。そう思って疑わなかった。
奏斗がいなくなり、いつも傍にあった「元気の源」を失ってしまった僕は、もう一人の大切な人、有紗に想いを告げた。彼女と一緒に生きていきたかった。最初から答えは分かっていたのに…。
「めぐるが必要としているのは、私じゃないよ。私には均衡を失ったあなたの心を埋めることはきっとできない」
しっかりと軸を持っている彼女のさりげない優しさだった。あの日、もし僕が奏斗のように男らしく彼女を守れたなら、有紗を失うこともなかったはずだ。もちろん、奏斗と交わした約束もきっと叶えられただろう。後悔してももう遅い。やり直すことなどできるはずがない。時々、こんな風に過去に囚われ、前に進めなくなる。同じ場所でなんども足踏みをするばかりで、スポンと抜けた穴の中へ、繰り返し何度も落ちてゆく。自分の無力さに心まで失くしてしまいそうで…。
有紗が大切にしてきた白いひつじのぬいぐるみ。震えるめぐるの手の中で、アリーの目から静かに涙が落ちた。ほろりと流れたその一筋が、地の波に重なり、大きく王冠のように環になって拡がり跳ね上がった。
ふと、我に返り顔を上げると、めぐるの視線の先に、小さな単行本が一冊、姿を現す。拾い上げてみるとそこに「12星座・星読み全集」と書いてある。ページをめくれば、30日のスパンで変わる、それぞれの星の性質を持った12の星座のことが、こと細かく記されている。作者は不明。めぐるはそれを家に持ち帰り、夢中になって一晩で読み終えた。
この気持ちをなんと説明したらいいだろう。同じ時代、同じように生きている人でも、その産まれた日や時間が違うだけで、これほどまでに見る視点も考え方も違ってくるなんて…。たかが宙に浮かんでいる星が、なぜこれほどまでに人間たちに影響するのか、僕にはさっぱり分からない領域だ。なのになぜか、普段見ている景色さえも彩りを増し、不思議と見え方が変わってきたんだ。例えば、そう。園児たちを見る視点も、面白いように一変した。
牡羊座のカナデくんは、誰よりも初めに「やりたい!やってみる」という元気な一声を放つヒーロー気質。 牡牛座のタマちゃんは、お花の傍で座り込んで、蜜蜂たちと一緒に花の香りを嗅いで、とても活き活きしている。 双子座のコウキくんは口笛でリズムを刻みつつ、踊りながら全身で喜びを表現していたんだ。 蟹座のツムちゃんなんか、仲良しのお友達を集めて、ままごとでお母さん役にとても忙しそう。 獅子座の陽太くんは名前の通り、先生たちのお手伝いをしながらいつもサンサンと笑っている。本に書いてあった通り、みんな星の特徴を見事に纏っている。
乙女座のアドちゃんは、泣いている小さなお友達の頭を、優しく撫でて励ます面倒見のいい子。 天秤座のソウくんは持ち前のバランス感覚で一輪車を乗りこなして注目を集めている。 蠍座のハナちゃんは、仲良しのケンくんと、これから秘密基地に潜伏するんだって。ハハハ案件だ! 射手座のセイヤくんは相変わらず姿が見えないので、どこにいったかと探していたら、園長のお部屋にいた。園長先生の朗読する、ジュピター王国の話を、熱心に聴き入っていた。 山羊座のツキちゃんは、トイレのスリッパを揃えないお友達を注意しながら、その後ガラスに飛び散った水を丁寧に拭いてくれている。 水瓶座のスイくんは、屋根の上のカラスに向かって「ここに蟻さんがいるよ」と教えてあげていた。彼らの特性は、星々が彼らに与えた「創造しながら共に生きる術」なんだと、ここにきて初めてそう感じることができた。
魚座のめぐるくんはというと…今日もこの保育園で先生をしながら、みんなを星読みに基づいて観察し、それぞれの子供の「いいところ」を見つけようと努力している。子供たちの方が明らかに、自分の本当の望みに忠実に行動しているなと思う。大人になった僕はまだ、自分が本当はどうしたいのか、きちんと理解できないまま、白でもなく、黒でもない、グレーの世界で生きている。こんな時、自分は極めて優柔不断だ。あっちでもない、こっちでもないと、揺れまくる。いったい自分は何を求めているのだろうなんて、未だに悩みあぐねている。
自分にしか辿り着けない場所。誰もが求めて止まない、自分という人間の本当の価値。広くて大きな、すべての生きとし生けるものを受け入れる「海」のような存在。そんなものになれたなら、どんなに幸せだろうか。
めぐるは寝転がりながら、幾千の星の彼方にある、海のような大きな惑星に思いを馳せていた。自分はこのまま眠ってしまい、目を覚まさないのかもしれない。そんな時空で暮らすのも、いいかもしれないなと思ってしまう。思って…しま……。
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「めぐる!起きろ!めぐる!」
奏斗の声がめぐるの耳に響き渡る。
「いつまで寝てるんだ。もう準備できたぞ。有紗が早く起きろってさ!」
「へ!有紗はもうこの世には…」
寝ぼけ眼でポカンとするめぐるに、奏斗はミネラルウォーターを手渡して言った。
「おまえの夢だったんだろう。この店をオープンさせること」
奏斗はめぐるの肩に右手を添え、左手でドアの方を指差した。そしてまだ片目を瞑ったままのめぐるの手を引いて、寝室の扉を開けた。あたたかな陽だまりに湯気の立つキッチンが見える。するとそこに、エプロン姿の有紗の姿があった。
「え!!なんで!!」
ようやく眠りから覚めためぐるは、驚きを隠せない。
「あら、何を寝ぼけてるの!早く手伝ってよ。保育園の子供たちも来るんでしょ!めぐる先生!!」
これが夢じゃなくて何だというんだ!何より、二人がいる。僕の大好きな奏斗と有紗がいる。いるんだよ、今、ここに…。
涙で前が見えなくなった。千鳥足でステップを踏みながら寝室を出ると、あたたかい糀味噌スープの薫りが、フワワっとめぐるを包んだ。すかさず腹の虫が鳴き始める。
「腹減った…」
「めぐるにはあげない。これはゲストの分よ」
くすくす笑う有紗にめぐるは思わず抱きついた。程なく奏斗も二人に覆いかぶさるように、その空間をまるごと抱きしめ、三人はひとつの光の環となって完全に繋がった。まるで解けたバターの、輪っかになって光る虎の如く。
「夢だけど、夢じゃなかったみたいだね。現実と夢の境界線がもうわかんないや!」
めぐるは感動の渦の中、演者のように名台詞を放つ。
「でもね、ひとつだけ言えることは、これが僕の「今」だってこと。この物語は最高に幸せな時間を繰り返しながら、星と共に巡っていくんだ」
寝ぐせの付いた前髪を左手でとかしながら、めぐるはその右手でサムアップして自慢気に微笑んだ。12カ月というサイクルを経て、螺旋のように続いていく道を。奏でる太陽とありのままの月に寄り添い、何度も何度も巡りながら…。
了
魚座の本当の望み。それは、魚座を象徴する二匹の魚(♓)《現実と空想の二極》を繋ぐ糸にも表されるように、あらゆる境界線や壁を超えて、優しい世界ですべてのものと「繋がる」ことだと思います。
私は実際に、父と母そして妹がすべて魚座、という家庭で育ちました。父はとても厳しい人ですが、幼い頃、養子に出されていて「家族」というものへの羨望がとても強くあったと思います。そんな父から、人や動物を思いやる心を教わりました。母は太陽のような人で、ガーデニングを趣味にたくさんの花を花壇で育てていました。妹はどこかへ出かけては、姉の私に、たくさんのお土産を買ってきては、まるで自分がもらったかのように満足げに喜んでいました。私の喜びも悲しみも、自分のことのように感じてくれる家族がいたからこそ、私の「今」があります。
そして、魚座の大切な仕事がもう一つ。牡羊座という始まりのサインへ、再び一歩踏み出すために、無償の愛を捧げる。『あなた(わたし)ならできる』という目に見えないエールを、誰かの背中にそっと送り、共に旅を続けることです。

本当にありがとうございました。
now🦌
