バイオプロセス論文を読む CHO細胞株開発の進化 その4
みなさま、こんにちは。The new frontier in CHO cell line development: From random to targetedtransgene integration technologiesという論文を読み始めて今日が4回目になります。少しずつしか進んでいないので、この論文を全部読み終えるのにどのくらいの時間がかかるのか?と心配になりますが、とはいえ、長い文章の記事を最後まで目を通すのはなかなかしんどいと思うので、1つ1つの記事は短め目にしようと思っています。この論文のリンクを以下に記しますので、特に図などを参照していただくと良いかと思います。フリーアクセスの論文ですので、無料で誰でも読むことができます。
https://doi.org/10.1016/j.biotechadv.2024.108402
それでは、今日はIntroductionの後半部分を読み進めていきます。
過去40年間にわたり、安定細胞株の開発は、発現カセットを宿主細胞ゲノムにランダムに導入する方法に主に依存して行われてきました。このプロセスは偶然性に大きく左右されるため、安定性が高く生産性に優れた細胞株を選抜するには、手間と時間のかかるクローンスクリーニングおよび特性評価のワークフローが必要とされます(Yang et al., 2022)。
しかし近年、トランスポザーゼを用いた半標的型の導入法や、リコンビナーゼあるいはCRISPRヌクレアーゼを用いた標的型遺伝子導入法など、新たな外来遺伝子導入技術が大きく進展しています(Rajendranet al., 2021a;Srirangan et al., 2020)。これらの新技術は、CHO生産細胞株の構築手法に大きな変革をもたらし、業界全体を前進させる原動力となっています(Fig. 1参照)。
本レビューでは、CHO細胞における外来遺伝子導入技術の進展を包括的に概説し、これらの新しい細胞株構築法に伴う可能性と課題について論じます。また、CHO細胞における外来遺伝子導入に関する最新の文献を整理することを目的としています。ただし、これらの基礎的な知見や技術開発の多くは、CHO以外の分野で最初に報告されたものであることにも留意が必要です。
以上で、Introductionは完了です。
Introductionの最後は、比較的わかりやすくまとめられていて、あえて解説が必要なことはないのかな、と思います。要は、CHO細胞株開発はこれまでランダムなゲノムへの挿入という偶然に頼っていましたが、今後は、設計を意図してCHO細胞を開発する、という方向性に向かっていくのだ、と書かれています。ですので、Semi-targeted IntegrationaやTargeted Integrationを理解することがこの論文を読むことの目標となります。
それでは、次の項目は2. Random Integrationです。まずは、従来の方法を理解しましょう、という意図だと思われます。
2. ランダムな外来遺伝子導入(RTI)
ランダムな外来遺伝子導入(RTI:Random transgene integration)は、組換えタンパク質生産用の工業的細胞株を構築するためのゴールドスタンダードとして長らく用いられてきました(Fig. 2)。RTI のワークフローは通常、発現プラスミドを制限酵素で直鎖化することから始まり、目的遺伝子(GoI)および選択マーカー遺伝子を宿主細胞ゲノムにより効率的に導入するための処理が施されます(Stuchbury and Münch, 2010)。環状プラスミドであっても、哺乳類細胞内で組換えタンパク質の安定発現を達成するためにトランスフェクション可能ですが、プラスミドを直鎖化することでその効率は向上します。細胞内でプラスミドが非制御的に直鎖化されると、目的遺伝子や選択マーカーの断片化がさらに進行し、制限酵素による制御された直鎖化処理に比べ、望ましくない統合構造が生じる可能性があります(Stuchbury and Münch, 2010)。
直鎖化の手法にかかわらず、トランスフェクション後には、共導入された選択マーカーを用いて安定細胞プールの選抜が行われます。選択マーカーとしては、ネオマイシン、ヒグロマイシン、ゼオシンといった抗生物質耐性遺伝子や、より一般的にはグルタミン合成酵素(GS)、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)、ピロリジン-5-カルボン酸合成酵素(P5CS)、アルギナーゼなどの必須代謝酵素の遺伝子が用いられます。これらは、該当する栄養要求性を持つCHO宿主細胞株と併用されます(Budge et al., 2021;Huhn et al., 2021;Lanza et al., 2013;Nakamura and Omasa, 2015;Roca et al., 2019)。
筆者にとって馴染みが深いのはグルタミン合成酵素(GS)を欠損したCHO-GSとジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)を欠損したCHO-DG44です。特にCHO-GSを使って抗体医薬候補を発現させたときの、そのタイターの高さに驚いたものです。なお、Fig. 2は目的遺伝子をRandom Transgene IntegrationでCHO細胞ゲノムに組み込んだ後の遺伝子増幅を模式図で表しています。遺伝子増幅については、前回の投稿(その3)で説明していますので、そちらを参照していただければと思います。
それでは、今日はここまで。お付き合いありがとうございました。
