🚃 私のiPhoneは、電車で筋トレ器具になる〜171グラムが、1キロになるまで〜
電車に乗るとき、私は文庫本を持っていく。
電子書籍じゃない。
紙の文庫本。
最近はスマホひとつで何でもできる時代だから、
「わざわざ本を持ち歩くの?」
と思う人もいるかもしれない。
でも、私には理由がある。
10年前の脳出血で、左手に少し麻痺が残った。
普段はけっこう普通に生活している。
買い物も行くし、電車にも乗る。
パッと見ただけでは、たぶん分からない。
でも、左手だけは正直だ。
スマホを持ち続けていると、
だんだん重くなってくる。
気になって調べてみた。
私のiPhone。
171グラム。
数字だけ見たら軽い。
おにぎり1個より軽いくらいだ。
なのに。
私の左手の中では、まるで別の生き物になる。
乗った瞬間は171グラム。
まだ余裕。
ひと駅。
まあ大丈夫。
三駅。
なんだか重い。
乗り換えの頃には500グラム。
目的地に着く頃には1キロ。
いや、本当に1キロになったわけじゃない。
物理法則はちゃんと守られている。
スマホも反則していない。
でも、私の左手の中では確実に育っている。
iPhoneって成長するんだな。
知らなかった。
もしかしたら毎回、電車の中で筋トレしてるのかもしれない。
そんな私が電車のお供に選んだのが、文庫本だった。
ここで不思議な話になる。
文庫本だって軽くはない。
スマホとそれほど変わらない重さのものもある。
なのに、こっちは平気なのだ。
たぶん理由は、持ち方。
スマホは、左手で持って、右手で文字を打つ。
打てるのは右手だけだから、左手はずっと持ちっぱなし。
左手、完全にワンオペ。
文庫本は、両手で分担。
左手の仕事も、半分こ。
たったそれだけで、重さが全然違う。

しかも文庫本は優秀だ。
落としても携帯のようにひび割れしない。
充電がいらない。
盗まれて困る情報もない。
そして何より、
カラダに優しい。
完璧である。
そんなわけで、
文庫本は私の電車時間の相棒になった。
ところが今日。
事件が起きた。
家に忘れた。
改札を通り、
ホームに着き、
何気なくカバンを開いた。
いない。
あの子がいない。
文庫本がいない。
その瞬間、
私の頭の中に響いた言葉はこれだった。
「人生、詰んだーーー!」

スマホは、ある。
でも、違うんだ。
電車では、本が読みたい。
スマホじゃ、ダメなの。
たかが文庫本で、と思うでしょ。
うん、自分でもそう思う。
でも、もちろん詰んでいない。
文庫本を忘れただけだ。
命に別状はない。
電車もちゃんと来る。
だから私は2秒で立ち直った。
2秒で立ち直るあたり、
なかなかたくましい。
でもね。
文庫本を忘れただけで、
電車の重さが変わるんだ。
毎日スマホを片手で軽々使っている人には、
もしかしたら想像しにくいかもしれない。

ほぼ神業に近い〜
重さって、
グラムだけじゃ決まらない。
その人の体で、
その人の手で、
その人の毎日の中で決まる。
私にとって171グラムのiPhoneは、
時々1キロになる。
だから次に電車に乗るときは、
ちゃんと相棒を連れて行こうと思う。
たぶん、その方が電車は少し軽い。
📚🚃✨文庫本を忘れた日の小さな絶望と、毎日電車で一緒に過ごす『相棒』の歌です。
🎵「171グラムの相棒」
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