現代のオリエント急行(イスタンブール発夜行列車)に乗る
はじめに
今回、小生はイスタンブールへの一人旅を敢行した。それまで海外旅行は台湾くらいしか行ったことはない海外旅行初心者が、初の海外一人旅としてトルコ・イスタンブールを拠点としてブルガリア、ギリシャを巡ってみた。その際、イスタンブールからブルガリアの首都ソフィアへの移動に現代のオリエント急行の異名を持つ「イスタンブールーソフィアエクスプレス」を利用してみたので2025年3月現在における乗り方などについて記載していこうと思う。「イスタンブールーソフィアエクスプレス」については日本語の情報が少なく、バックパッカーの必須携帯書籍「地球の歩き方」でも巻末に小さな字で数行記載がある程度なので今後イスタンブールへの旅行を企画する諸兄の旅程の選択肢を広げることができれば僥倖である。
「イスタンブールーソフィアエクスプレス」とは
そもそもイスタンブールーソフィアエクスプレスについてであるが、これはトルコ国鉄が運営するトルコ・イスタンブールから隣国ブルガリアの首都ソフィアを結ぶ国際夜行列車のことである。一日一本運行され、イスタンブールを夜に出発してソフィアには翌日の昼前10時くらいに到着する。かつてトルコからヨーロッパを結び、アガサクリスティーの名作「オリエント急行殺人事件」で有名な豪華寝台列車「オリエント急行」と路線が一部被っていることもあり「現代のオリエント急行」の異名を持っている。日本人でも「オリエント急行」の知名度はかなり高いが、日本語による情報が少ないこともあり、現在でも形を変えて乗車できることを知っている日本人はそこまで多くないのではないだろうか。

ここまでの情報でアガサクリスティーの名作内の記述やその映画に描写されたような煌びやかな寝台列車を想像する諸兄も多いかもしれないが、先に記述してしまうと食堂車やバーカウンターのある車両はなく、車内の調度品にも豪華さはないのでそのような列車を期待していると拍子抜けしてしまうであろう。設備としてはいわゆるコンパートメント、2人一室または4人一室の個室タイプで座席が倒れて二段ベッドになるタイプである。治安面においては海外の鉄道など不潔でスリや置き引きなどの犯罪にまみれて熟睡などしようものなら翌朝には命までもがなくなっていると心配してしまう方もいるかもしれないが車掌の巡回も多く、後述するが国境警察も車内を巡回するので海外における一般的な警戒心を持って乗車すれば過度に不安になる必要はないと個人的に感じた。また車内は禁煙なので煙草の臭いなどに敏感な諸兄も安心である。ちなみに車内が禁煙であることが小生の利用時にちょっとしたハプニングを引き起こしたので後述したい。
金額は1,725トルコリラ、小生の滞在当時は1リラ4.2円程度であったので日本円にして7,200円程度と驚くほど安いわけではないが飛行機などに比べるとだいぶリーズナブルである。コスパ的には横になって寝ている間に目的地に着くということで移動と宿泊がセットでこの値段と考えると破格とも取れるのではないだろうか。

乗車券の購入方法
さてこの「イスタンブールーソフィアエクスプレス」に乗車するために必要な乗車券の買い方についてであるが、まず2025年3月現在、公式サイトや乗車券購入サイトなどで購入することはできない。これが一番重要な情報である。航空券購入サイトとして有名なSky scannerのように鉄道乗車券を専門に扱うサイトもあるが「イスタンブールーソフィアエクスプレス」は扱っていない。トルコ国鉄の公式サイトでは国内の鉄道、例えばイスタンブールからトルコの首都アンカラまでの高速鉄道やトルコ国内を結ぶ夜行列車の乗車券は予約できるようであるが、「イスタンブールーソフィアエクスプレス」と「イスタンブールーブカレストエクスプレス」(同じくイスタンブール発のルーマニアの首都ブカレスト行きの国際夜行列車)に限りネット予約ができない。
ではどうやって購入するか。ズバリ現地の駅窓口で購入する、これ一択である。そして購入できる駅もひとつだけ、Sirkeci(シルケジ)駅のみで最寄り駅の窓口に行けばどの駅でも購入できる日本とはかなり異なる。そしてこのSirkeci駅の国際夜行列車用窓口の営業時間は10時~17時まで、12時から13時はお昼休みであるので注意である。このnoteで全日本語話者に発信したい最も重要な情報は実質この情報とあと後述するあともう一つである。
海外旅行においては実質事前予約ができないので当日窓口に行って「No vacancy(満席だよ)」と言われたら終了である。そのため、旅程が大混乱に陥らないように余裕を持たせる(例:今夜の便がだめなら明日で)とか別の手段(例:夜行列車がだめなら高速バスや飛行機で)など事前に次善の策を準備する工夫が必要である。
窓口にて購入する際は国際列車専用窓口にて「何日発車の便か」「行先はブルガリアか、それともルーマニアか」「人数」を伝えると駅員が席の空きを確認してくれる。空きがあればパスポートの提示を求められてコピーを取って代金を支払う。支払いはクレジットカードも可である。乗車券は電子ではなく、コンビニなどで発行されるコンサートチケットのような紙のチケットなので記載事項(日付や行先など)をよく確認して失くさないように乗車まで保管する。
乗車までの流れ
異国の地での旅程に組み込むにはいささかリスキーかつ面倒な手順を経て無事チケットを購入できたらいよいよ乗車である。ここで重要な情報としてイスタンブールーソフィアエクスプレスのトルコ側の発駅はHalkali(ハルカリ)駅であり、乗車券を購入できる唯一の駅であるSirkeci駅ではないということである。つまり乗車券を購入したSirkeci駅でいくら待っても該当の列車が入線してくることはない。ではHalkali駅で購入すれば良いのでは?と当然の疑問が浮上するが2025年3月現在で購入することはできないとのことである。Halkali駅は無人駅ではなく、高速鉄道などを購入する窓口は存在しているのに謎である。
ちなみにSirkeci駅とHalkali駅は近郊在来線マルマライで一本でつながっており、所要時間は40分ほど、金額は日本円で250円ほどかかる。下に地図を添付したが「イスタンブール」の「タ」と「ン」の間あたりの緑の旗がある位置がSirkeci駅でそこから水色の路線に乗って地図左側のピンで示したHalkali駅へ向かう。

上の地図の通りでSirkeci駅は観光客が多いイスタンブールの旧市街にあるのでアクセスも良いのだが、Halkali駅はかなり郊外にあるので注意である。
Halkali駅を出発する時間は20時であったので余裕をもって19時過ぎごろには駅に着いてお手洗い等済ませておきたいところである。女性であれば特に車内のトイレは多くの令和キッズは見たことすらないであろう和式便所をさらにレベルアップさせたようなトルコ式トイレしかないのでできれば事前に駅のトイレに寄っておくことをオススメしたい。ちなみに駅には大きめの待合室があり、マルマライ(在来線)からの乗り換えについてもホームを跨ぐだけで簡便なのでそこは安心である。なお、駅の周囲は特に何もないので夕食は済ませたうえ、必要なものがあればSirkeci駅周辺で揃えたほうが良い。※トルコ式トイレがどのようなものであるかについて気になる方は「トルコ式トイレ」と検索すれば写真やイラストで詳しい解説があるので各自調べて頂きたい。
19時40分頃になると放送と駅員が待合室に来てソフィア行の列車の準備ができた旨連絡されるので専用の改札で乗車券の確認と荷物のX線検査、金属探知機検査が行われる。それが済むとホームに降りるよう指示され、ホームでは声の大きな車掌さん(モーリー・ロバートソン似)に各人の号車とベッドを案内される。

小生は二人部屋で相部屋だったので乗車して荷物を整理しているとひょろっとした白人男性が今晩の同居人として入室してきた。挨拶ともいえないたどたどしい英語で二言三言交わすと落ち着かない様子で乗車券だけを部屋に置いてさっさと煙草を吸いにホームに行ってしまった。しかし彼が小生の個室に戻ってくることは二度となかった。そう、彼が煙草を吸いに出た数分の間に列車は出発したため、乗り逃したのである。荷物は持って出て行ったのが唯一の救いであるがしばらくして車内検札に巡回に来た車掌に同居人が戻ってきていないことを伝えるとモーリー・ロバートソン似の車掌は驚いたように呆れたように肩をすくめていた。
乗車後
ハプニング発生により、思いがけず個室を独り占めできることとなったので小生の一晩は他の乗客に比べて非常に快適なものとなった。さっさと座席を倒してベッドにし、その上で胡坐をかいて事前に購入していたお菓子で一人パーティーを敢行するなど盛大に寛いでいた。


シーツや枕カバーは都度洗われているようで自分で敷くスタイルなので清潔感はあったほか、ベッドの硬さはフカフカとまではいかないが簡易ベッドにしては作りがしっかりしていて硬いとか痛いとかは感じなかった。揺れについてもスピードを出す区間ではかなり振動を感じるが徐行区間や停車時間も長いのでそこまで気にならなかった。事前にネットで調べた情報だと空調が壊れているという情報があったが小生の場合は特にそんなこともなかったので一安心である。
こう書くと何事もなく終着駅ソフィアまで快眠が約束されていそうであるがしかし不可避かつ致命的な問題がある。それは出国審査と入国審査である。最初のほうのイスタンブールーソフィアエクスプレスのおおよその経路を見るとわかる通りちょうど行程の中盤付近に国境があることが見て取れると思う。つまり深夜草木も眠る丑三つ時にモーリー・ロバートソン車掌の”Passport Control!!”の大声で起こされ、牧羊犬に連れられていく羊たちのようにごとく国境近くの駅の雑居房のごとく簡素なコンクリート打ちっぱなしの小部屋で国境検問が行われるのである。Kapikule(カプクレ駅)がパスポートコントロール会場なのだが、広いのに殺風景で周囲が貨物列車で囲まれているのでなんだか密入国でもしているかのような感覚に陥ってしまう。


ちょっとドキドキする出国審査が終わり、列車に戻ると例のモーリー・ロバートソンからしばらく寝るのを我慢するように言われたのでゴロゴロしつつ待っているとしばらく走ったところで再度停車し、誰かが入ってくる気配があった。直後に”Police‼ Police!!”との大声と共にドアが叩かれ、そろりと開けるとそこには寒いからか覆面のブルガリア国境警察が懐中電灯を手に複数人待機しており、ビビり散らかした。さらに今回は国境検査場に行く必要はなかったが、乗客全員がパスポートを回収されてどこかに持っていかれ、スタンプを押したものが後で帰ってくるというスタイルだったので一時的とはいえ旅券不携帯状態となるのでなんとも落ち着かない気分になった。「日本国旅券」の安心感が身に染みる瞬間である。
スタンプを押されて戻ってきたパスポートが他人のと間違えられていることもなく(さすがに間違えられることはなかなか無いとは思うが眠気を押してよく確認するべきである。)、その後はソフィア到着までのどかな田園風景を背に眠りに入ることができた。

日が昇りきると例のモーリーが部屋に入ってきてベッドを仕舞うように言われるので従って椅子に直すと30分もしないうちにソフィア到着である。
ソフィア到着
綺麗で広いが人が全く歩いていない、駅舎は綺麗なのにブルガリア国内で追加で連結された車両は落書きだらけなどちぐはぐさを感じつつ列車はソフィア駅に到着した。改札もないので当然であるが降車したらそのまま街に放り出されるので呆気ないものである。ちなみにイスタンブール出発時は客車は3両であったが、ブルガリアに入った際に客車が追加されており、国内移動用も兼ねているらしい。そのため停車駅も多く設定されている。
ブルガリアの首都ソフィアの観光についてはまた別のnoteで叙述しようと思う。

