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ブルーノート1500番台収集日記 第1回

なぜブルーノート1500番台を順番に集めるのか

ジャズは遠い音楽

初めてジャズを聴こうと思ったのは、90年代半ば、大学生の頃だ。当時はBeatles直系のUKロック、いわゆるブリットポップばかり聴いていた。
好きなバンドの音楽的ルーツを辿っていくうちに、自然とジャズにも行き着いた。ただ、その頃の僕は、ジャズに時代ごとのスタイルがあり、歴史の中で変化してきた音楽だとは知らなかった。
ジャズといえば、カフェやバーで流れている、お洒落だけど少し近寄りがたい音楽。僕の中ではそんな存在だった。

そんな僕が最初に買ったジャズのCDは、ルイ・アームストロングの「What a Wonderful World」が入ったコンピレーション盤だった。
「What a Wonderful World」は、ジャズだと知る前から耳にしていた。テレビだったのか、洋楽ベスト盤だったのかは覚えていない。ただ、どこかで聴いて、いい曲だなと思っていた。
けれど、そこから急にジャズに夢中になることもなく、僕のジャズ遍歴はしばらく何も変わらないまま過ぎていった。

先に文学とレコードジャケットから

大学卒業後、就職をせず、一年ほどブラブラしていた時期があった。その頃に村上春樹を読むようになった。
村上作品には、よくジャズが出てくる。その流れで読んだのが、村上春樹と和田誠による「ポートレート・イン・ジャズ」だった。さらに、村上春樹が翻訳し、和田誠が装丁を手掛けた「さよならバードランド」。
文学を通して見るジャズは、難解な音楽というより、もっと楽しげで、少し背伸びした大人の世界に見えた。

ポートレイト・イン・ジャズ 和田誠 村上春樹

その後、フリーター生活を経て、デザインの道に進むことを決め、専門学校へ通い始めた。そこで出会ったのが、学生時代にジャズバンドでベースを弾いていたF君だった。
F君のスケッチブックには、ジャズミュージシャンの姿が何ページにもわたって鉛筆で描かれていた。決して写実的ではない。でも、とても雰囲気のある絵だった。
その時、初めて「ジャズのビジュアルっていいな」と思った。
僕もイラストの授業でジャズミュージシャンを描いてみたくなった。モデルになる写真が欲しくて、レコードショップへ行った。

そこで、よく分からないまま手に取ったのが、バド・パウエルの「the scene changes」だった。なぜそのレコードを選んだのかは覚えていない。ただ、ジャケットに写るバド・パウエルの、どこか憂いを帯びた表情に惹かれたのだと思う。

the scene changes  BUD POWELL

最初のマイルスとリード・マイルス

それから少しずつ、ジャズの“音”にも興味が出てきた。
ただ、レコードを買ったはいいものの、当時の僕はプレイヤーを持っていなかった。「The Scene Changes」を聴くことはできなかった。
それならCDを買ってみようと思い、高田馬場駅前ビルにあったCDショップで、マイルス・デイビスの「WALKIN'」を手に取った。信号機のジャケットが妙に印象に残っている。
音も強烈だった。1曲目が始まった瞬間、「これがマイルスか」と思った。音
に迷いがなかった。

WALKIN'  MILES DAVIS ALL STARS


もっとも、その頃の僕は、マイルス・デイビスがジャズ史の中でどれほど大きな存在なのか、まだ何も分かっていなかった。
同じ頃、雑誌Penでジャズデザインの特集が組まれていた。その特集で大きく扱われていたのが、リード・マイルスだった。
彼こそ、僕をジャズのデザインへ導いた人物だ。
今でもそのページは切り抜いて残してある。ジャズのデザインというより、自分にとってはグラフィックデザインそのものの道標のような存在だった。写真とタイポグラフィだけで、こんなにも音の気配を感じさせることができるのかと思った。

リード・マイルスのジャケットは、レコードを聴く前から“ジャズの匂い”がした。何度見ても飽きない。むしろ、見るたびに新しい発見があった。その特集記事のおかげで、僕はBlue Noteというレーベルや、ジャズミュージシャンの名前を少しずつ覚えていった。

Blue Note Records

リード・マイルスを語る時、必ず一緒に名前が挙がる人物がいる。Blue Note創設者のアルフレッド・ライオンと、写真家のフランシス・ウルフだ。
この三人が作り上げたBlue Note Recordsは、1950年代から60年代にかけて、数え切れないほどの名盤を残した。
ジャズを聴き始めたばかりの僕でさえ、Blue Noteには特別な匂いを感じた。当時のミュージシャンにとって、それはどんなレーベルだったのだろう。
そんなことを考えるようになった。

僕が「Blue Note 1500番台」という言葉を意識し始めたのは、本屋だった。ジャズの本を立ち読みしていると、「1500番台は名盤が多い」という言葉を何度も見かけた。最初は、その程度だった。けれど、その言葉は不思議と頭の片隅に残り続けた。
だから僕は、ジャズを音楽だけではなく、ジャケットのデザインや、ミュージシャンたちが生きた時代の空気も含めて見てみたいと思っている。

特にBlue Note 1500番台には、モダンジャズの名盤が数多く並んでいる。
1501から1599まで。
番号順に聴いていけば、少しは当時の空気に近づけるのではないかと思っている。
もちろん、そんな簡単な話ではない。
けれど、ジャケットを眺めながら針を落としていると、ときどき1950年代のニューヨークが、ほんの少しだけ近くなる瞬間がある。


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