【探偵は正解を教えない】15 子ザルパンチとぬいぐるみ
【世界で最近起こった出来事の中で一つをピックアップして紹介します。
その出来事について、AIと短い小説を書いています。
良かったら読んでみてください】
【昨年7月に生まれた雄のニホンザル「パンチ」は、母ザルの育児放棄が原因で人工哺育で育てられた。今年1月にサル山に戻った子ザルの心の支えは、オランウータンの大きなぬいぐるみだ。「母親」に寄り添うようにぬいぐるみに抱きつきながら、懸命に群れになじもうとする姿に注目が集まっている】
綾瀬は、子ザルがチンパンジーのぬいぐるみを胸に抱える姿を見て、ふっと微笑んだ。
「かわいらしいですね。
まるで大事な友達を離すまいとしているようで……愛おしさすら感じます」
亮介の表情は、真逆だった。
「痛ましい……」
「な、何をおっしゃるのですか、坊ちゃん」
亮介はメイリンに視線を送る。
次の映像が流れた。
そこには、同じ群れのサルに囲まれ、威嚇され、追われる子ザルの姿があった。
ぬいぐるみは、それでも胸に抱えられている。
「動物園のサル山で起きた出来事だ。
この子は母親に見捨てられ、人間に育てられた。
そして、人間が与えた“仲間の形”を、仲間だと信じた」
綾瀬は息を呑んだ。
「……しかし、人々は応援しています。
いずれ保護され、また――」
「そこが痛ましいと言っている」
亮介の声は低い。
「サル山は“社会の縮図”だと言われる。
序列、絆、政治、教育、感情――
人間社会とほとんど変わらない」
メイリンが静かに補足する。
《サル山は、人間が社会生活を営む上で必要な構造を可視化した場とも言えます》
亮介は続けた。
「だが、この子は人間社会の論理を持ち込んだ。
命のないものに安心を預けるという論理をな。
それが群れのルールから外れた」
綾瀬は首を傾げる。
「それのどこが痛ましいのですか?」
「良かれと思って与えたものが、
群れに戻ったとき“異質の証明”になる。
それが痛ましいんだ」
少し沈黙が落ちる。
亮介は視線を映像に戻した。
「想像してみろ。
もし未来で、育児放棄された子供をAIが育てるとしたら」
「そんな未来は――」
「ないと言い切れるか?」
亮介は遮る。
「すべての子供に人間の大人をあてがえると思うか?
技術が進み、AIが母親の代わりを果たす。
しかも持ち運べる存在になったとしたら?」
綾瀬は黙り込む。
メイリンが応じる。
《養育とは、愛情の供給だけではありません。
社会的文脈の翻訳装置です》
亮介が問う。
「つまり?」
《AIに育てられた子どもは、
高い安定性と合理性を獲得する可能性があります。
しかし“他者の曖昧さ”への耐性が弱くなる恐れがあります》
「優れているが、適応できないかもしれない……ということですね」
綾瀬が言う。
「そうだ。
この子ザルは“一対一の安定”で育った。
だが群れは“揺らぐ関係”で出来ている」
メイリンが最新映像を映す。
数匹のサルが、ゆっくりと子ザルに近づいていた。
敵意はない。ただ、距離を測っている。
「群れは変化する」
亮介は呟く。
「理解する個体が増えれば、構造も揺らぐ。
もしかしたら、この子は新しい関係を作るかもしれない」
綾瀬は安堵したように微笑む。
「では、いつかあのぬいぐるみともお別れ出来るのですね」
亮介の眉がわずかに動く。
そのとき、メイリンが静かに問いを投げた。
《もしAIに育てられた子供が人間社会に戻るとき、
その子がAIを手放すとしたら――
それは“成長”ですか、それとも“切断”ですか?》
長い沈黙のあと、
亮介はゆっくりと答えた。
「……成長だ。たぶん」
少しだけ、言い淀む。
「本来得るべきだった安心を内側に取り込むことができる。
だが――」
視線が揺れる。
「完全に切れるわけじゃない。
戻って来られる場所でいられるなら、
それは新たな関係性を生むんじゃないのかな…」
綾瀬が微笑む。
亮介の表情には、はじめて“曖昧さ”が滲んでいた。
