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ファームエイドのボブ・ディラン

 ディープパープルのステージにリッチー・ブラックモアが飛び入り出演したことが話題になっているが、私はそんなに思い入れも無いから感動も無い。イアン・ギランと仲が悪かったなどと言われてもそんなことは一般的なリスナーにしてみればどうって言う事では無い。音楽的な言い争いなんて日常茶飯事だし、ガマンがならないなら辞めればいいだけだから。
それよりも彼らの若い時の雄姿を知っている立場からすると「81歳かぁ。歳とったね。ギターソロも、ま、それなりに」なんてのが正直な私の感想だった。
 80歳を過ぎてもステージに立ち続けることは称賛に値する。その人の生き方だし、生涯の仕事として素晴らしいことだ。
その姿を許すのがファンである。
ファンでなければ「昔は良かったのにね」「なんであんな無様な格好で出てくるんだろうね」「下手になったな」「太っちゃって格好悪い」という意見が数を占めてくる。
そうなんだよ。
そのミュージシャンに対して自分の好きな時期や作品があって、それがベンチマークになる。だから、ファンでなければ辛辣な意見も平気で出てくるのは仕方ない事なのだよ。
ファンでさえも「昔は良かった」とか「昔は好きではなかったが、最近の作品はいい」なんて意見もある。
私も好きなミュージシャンにはそれぞれにベンチマークがあってその頃の映像を見ることは大好きである。
 例えば、ボブ・ディラン。私のリアル体験は80年代。ディランの初来日には間に合わず、キリスト教がらみのアルバムを経て『インフィデル』(1983)あたりからか。だから、60年代や70年代のディランについては本やビデオ、映画の中の人であった。
1985年9月22日ファームエイドでの演奏をテレビで見た時に心の底から本物が見たいと思った。そして、その思いは半年後に現実のものとなった。
1986年3月の来日公演。初めて生で見たディランは私の中で燦然と輝いていたのだ。

 ライブエイドはフジテレビが深夜枠で4時間以上を割いて放映した。
放映の事前紹介ではアメリカの農業に携わる人々への慈善コンサートという大まかなテーマが発せられたが、その2か月前に世界的に話題になったライブエイドと混同してしまいそうになるほどその違いは曖昧であった。
だから当時は普段見ることが出来ないアメリカのカントリー系のミュージシャンや日本では知名度の低いミュージシャンを観ることができて満足という感じで、アメリカの農業について緊迫感のない日本国民にとってはただの音楽祭のような扱いだったのでは。しかし、最近になってビデオをじっくり見直してみるとアメリカの地方の音楽事情やそこに根差す音楽という文化が彼らの生活にとってとても重要な役割を持っているという事を考えさせられる内容だったことに気づく。
誰もがギターやピアノを演奏し、普段着のままステージに立ち、音楽を楽しむ。農作業の疲れも吹き飛ばす勢いで。そんな農夫たちに捧げる音楽という文化のプレゼントはライブエイドを経験したディランからの提唱だったと後で知ることになる。
 ライブエイドでディランはJFKスタジアムのラストステージを任された。キース・リチャーズとロニー・ウッドを従えて3人でアコースティックセットを披露したが、それは誰が見ても不完全燃焼に見えた。
ざわつく本会場内にはライブエイドの大団円である「We are the world」の準備が行なわれ、幕の奥からは音が漏れる始末。その中をいつも以上に不服そうに歌うディランは苛立っていた。
自分の持ち時間も終了し、ディランは最後のシングアウトに向けて多くのミュージシャンの中に溶けていったが、「We are the world」をみんなが歌う中、彼だけがしかめっ面だった。そして、そのコンサートの帰りに盟友であるウィリー・ネルソンに連絡する。
「ここアメリカにいる農家の人たちに対しても(ライブエイド)と同じことができたら素晴らしいと思わないか?」
それはアメリカのドル高による農産物の輸出量が激減し大量の在庫が発生。農作物の価格が一気に下落したため農業従事者は疲弊していたのだ。
ディランの働きかけによりウィリー・ネルソンが陣頭指揮をとり2カ月で大規模な慈善コンサートは開催された。
日本では馴染みの薄いロレッタ・リンやボニー・レイット、ランディ・ニューマンからニール・ヤング、フォリナー、ザ・ビーチ・ボーイズ、ビリー・ジョエル、キャロル・キングやBBキング、エディー・ヴァン・ヘイレンといったビッグネームに至るまでバラエティに富んだ出演者だ。

第2期ヴァン・ヘイレン誕生の時

 10万人の大観衆の前にボブ・ディランが登場したのは日も暮れたナイトステージ。
トム・ペティを従え、黒人女性ヴォーカルとデュエットするディラン。
新作『エンパイア・バーレスク』(1985)から「アイル・リメンバー・ユー」を切なく寄り添いながら歌う2人に私は大感動をした。
そして何と言ってもディランがステージで笑っている!自身の30周年を祝うコンサートの時でさえ笑わないディランが笑っているなんて!これは事件だ。
ステージ上で笑顔のディランは相当珍しい。そしてMCも入れている。

 2か月前のライブエイドの時とは全く違うディラン。
演奏もヒートアップし、あっという間に4曲は終了した。
私のボブ・ディランのベンチマークはこのファームエイドかもしれないな。
そこから始まって気難しいディランや怒っているディラン、喋らないで睨んでいるディランなど・・・神格化というのか。
そして今でも83歳で喉を振り絞るように歌うディランも好きだよ。ファンだからね。

1985ファームエイド 主な出演者
ウィリー・ネルソン、ジョン・メレンキャンプ、ニール・ヤング、ジョン・ボン・ジョヴィ、ザ・ビーチ・ボーイズ、ジョニー・キャッシュ、ボブ・ディラン、サミー・ヘイガー、ドン・ヘンリー、ビリー・ジョエル、B.B.キング、キャロル・キング、ロイ・オービソン、トム・ペティ、ルー・リード、ブライアン・セッツァー、エディー・ヴァン・ヘイレン、ダリル・ホール、ロレッタ・リン、ボニー・レイット、ランディ・ニューマン、フォリナー、チャーリー・ダニエルズ、ジョン・フォガティ、ジョニ・ミッチェル、リッキー・リー・ジョーンズ、アラバマ、ジョン・アンダーソン、グレン・キャンベル、ライ・クーダー、ケニー・ロジャース、ジョン・デンバー、タニヤ・タッカー、ニッティー・グリッティ・ダート・バンド、ジミー・バフェット、デビッド・サンボーン…

2026年8月19日
花形

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