四次元ポケットから『労働基準法』を出してくれよ、ドラえもん
小学校でモトイ先生に教わったんだ。
「いけないと分かっていることはあとから後悔しますよ。だから悪いことに手を出しては行けないんです」
小学一年生だったわたしは、その言葉の重みも知らずに、「はーい」と元気よく手を挙げた。
いいことだけしていれば、人生は順風満帆になるんだろうと思っていたあのとき。
大人になって、嘘やごまかしが、日常的になる絶望を知った。
でもそれは、必ずしも悪い意味じゃなく、他人を気遣ったり、傷付けないように配慮するって色もあるんだって気づくようになる。
介護の仕事をしていると、認知症や統合失調症、高次脳機能障害で、わたしたちとは違うものが見えていたり、聞こえている人が多い。
よく言われる妄想とかせん妄とか幻覚とかそういうやつ。
でも、「本当じゃない」と否定するのは簡単だけれど、否定された側は「本当のこと」と信じているのに否定されて絶望する。
自分自身を否定されたような、自分のいる現実が全部信じられないものになるような。
そんな気持ちになるんだと思う。
「息子が迎えに来てくれているから早く帰んなきゃ」
「今車を用意しているみたいだから、ここで一緒に待っていようね」
(息子はもう2年面会に来ていない……)
「もう3日もご飯もらっていないからお腹が空いて倒れそう」
「昼食を作っているから、おやつを口に入れて待っていてね」
(今ご飯食べ終わったばかりだよ)
「うちの子を家に置いてきちゃった。まだ赤ちゃんなのに無事かしら」
「お子さんはばあちゃんが預かってくれるから大丈夫だよ」
(その息子、去年50歳で亡くなったんだよ)
嘘って言われたら確かにそう。
ごまかしてるし、その場しのぎって、声掛けしながらわたしも思う。
でもわたしがついた嘘で、安心して暮らせる人がいる。
ここは怖いところじゃないんだって、自分の味方だって思って生活できる人がいる。
できる限りでいいけど、どうせ嘘をつくなら他人に優しい嘘でありたいと思った。
でも、じゃあ、会社とか事業所が守らなきゃいけないルールから外れているのに、ルール守ってますよって嘘つくのはどうなの?
誰か、それで救われる?
誰か、その嘘で優しくされたって思うかな?
とういうのもね。
わたしが働いているのは、疑う余地もないほど、純黒の介護施設だ。
なにひとつ白い要素がない。
年度末なのに、職員にたった5日の有給を使わせることもできずにいるんだぜ。
真っ黒だろ。
このままだと公休を買い上げて、その休みに有給をはめ込むという古典的な手法で乗り越えることになるのだろう。
経営サイドのことは正直知ったこっちゃないが、法律違反スレスレのグレーゾーンなんてよくやるよね。
自分が悪いことしてるって自覚あるってことやん?
だからこっそりやる。
何もしてませんよ。
ちゃんと従業員を守ってますよ。
人権も倫理も法律も違反してませんよ。
こんな顔して、裏側はどろっどろ。
きっとうちの施設だけじゃない
(もちろん被害は少ないほうがいいんだけど)
全国にはたくさんの純黒の介護施設があるはずだ。
法律よりも、
人道上の選択よりも、
職員のQOL向上よりも、
目先の利益と慣例(独自の謎ルール)を、大切にして、従業員や行政にバレそうでバレない嘘をついている施設(事業所・法人)なんて、厚労省が把握しているよりももっとたくさんあるはずだ。
かなしい。
せつない。
むなしい。
介護職員のやる気や知識や経験が、純黒の介護施設のために使われてしまう。
これは搾取だ。
気づかないうちに寄生して、体力と精神力を奪っていく。
介護職員を搾取する純黒の介護施設なんて、まとめて燃やして終わりにしてしまいたい。
なんてことを休憩室でサブスクで配信されているドラえもんの映画を観ながら考えていた。
ドラえもんが純黒の介護施設に冒されたわたしに、一筋の光をくれた、のかもしれない(そんなわけないんだけど)
出してくれよドラえもん。
絶望から介護士を救う道具たちをよォ!
介護士が社会的地位を向上させられて、全官公庁に崇め奉られる絶対正義の神様製造機的なやつ。逆らったら霞ヶ関の歪んだ次元に消されるらしいよ……
労働基準法を無視する施設に問答無用で、証拠書類を全部吸い取ってAIが精査する、労基の抜き打ち四次元コンプライアンス・チェッカー。
忖度も遠慮もなくすべての行状を挙げ連ねて即時処分してくれる。
ふわふわの泡みたいな服を着ながら介護するだけで、どんどん体が回復して元気になるゆるふわ介護スーツ。
しかも無重力仕様で最大200kgまで重さを感じないで運べる。
ユニフォームとベッドは疲労回復素材で、寝ながらマッサージや治療をして朝にはばっちり元気にしてくれるメディカルヒーリングセット。
夜勤明けの疲れが2時間で吹っ飛んで、病気のリスクも限りなくゼロにしてくれる。
最新の介護・医療情報・コンプラを分かりやすく、実技とスライドで教えてくれる、自動学習装置。
しかもその事業所に即した形で提案してくれるから、常に業務内容を改善できる。睡眠学習装置搭載。
ないんだ……
わかってるんだ。
ドラえもんを観たから、美しい夢を信じたくなっただけさ。
夢くらい、見たっていいだろう?
信じるのは無駄かもしれないけど、自由だろ?
二十二世紀の介護施設は真っ白のホワイト介護施設で、ハイテクが当たり前で、人間が大切にされている世界なんだろ?
なぁ、そうだって言ってくれよ、どらえもぉぉぉぉんんんん!!
愛さればあちゃん、介護施設でバクモテになれるかも
もうすぐ3.11。
今年も防災用品の見直し、しましょ。
いいなと思ったら応援しよう!
いただいたチップは賢くなるために使わせていただきます!