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¬ PERFECT World 5話

4話


5話

「ルー。ルー、起きて」
ハルの慌てた声に、ルーシアはまだ眠い目をこすって起きた。
「あの二人がいないの。入り口が開いていて・・・まさか、本当にこの村を出て行ったんじゃあ・・・」

懸念していた事態に眉をひそませている内に、何やら外が騒がしくなり始めた。

 やがて、一人の若者がルーシア達の部屋へと入ってくる。
「ルーシアさん、ハルさん。あの二人が・・・あの雑木林で遺体で発見されました。村長が、逃げられないと思って心中したんじゃないかって」
「なんだって!!」
二人が出ていく、よりも最悪な展開にルーシアは立ち上がり、若者に詰め寄った。

「雑木林だな。私も行く」
だが若者は勇んで出て行こうとするルーシアの腕を掴み、部屋へと押し戻そうとする。

「ルーシアさん達は、村長の家に行って下さい。村長が、ルーシアさん、ハルさんの嫌疑は晴れましたから、娘をみてて欲しいと・・・まだ、目を覚まさないそうです」

「・・・わかった」
「僕もお供します」

 神妙な面持ちで若者はルーシアとハルの後についてくる。

たかだか歩いて5分の距離。その間、すれ違う村人たちの視線が冷たい。

若者の話と、態度がかみあわない。

 村長宅に着くと、一礼して若者は雑木林の方へと走って行った。
玄関に入り、いるはずのケンを呼ぶ。

すると二階からケンの声が聞こえた。
ルーシアとハル、二人2階へ上がりその部屋へ入った。

 ベットでうなされているナユリの手を、ケンが握っている。
「ケン。ナユリは・・・」
「気を失ってからずっとこの調子なんだ。・・・シオンの姿を見て、十年前の記憶が蘇ったのかもしれない」

ハルは閉めたドアにもたれかかって立ち止まり、ルーシアはケンの隣に跪いてナユリの顔を伺った。
「父・・・さん、母・・・さん・・・助け・・・熱い・・・」
昔の記憶にうなされている?
ナユリは、犯人の顔を直接見たのだろうか?
「ナユリの・・・十年前の話を、詳しく聞かせてくれるか?」

 この一か月間、皆と仲良くすることを優先していたから聞けずにいた事。
「・・・俺も、親父から伝え聞いただけで、直接聞いた訳じゃないんだ。ナユリは・・・記憶がない、のもあるんだろうけど、話してくれなかったから」

ケンの、寂しそうな顔。

「ナユリは、犯人の顔どころか村を襲われた事、自分が何者だったのかも覚えてなかったみたいだ」

沈黙が続いた。ナユリのうなされている声だけが、時々響く。

「ここから西のそう遠くない所に廃村がある。そこに住んでいた人達が何者かに襲撃された。・・・手口から、うわさに聞く呪われた種族と研究施設を襲撃しているパーフェクトだと皆が言っている。・・・それくらいだよ」

「Atype24」
ハルが顔を上げる。ケンはルーシアを見た。
ルーシアから殺気が漂う。
「一体目のパーフェクトで、襲撃者。この村に、本当にいるのか」
口からこぼれ出る殺意。
それは尋常ではない迫力となってルーシアから発せられている。

 ケンは初めてパーフェクトの危険性を感じた様に思った。パーフェクトが恐れられる理由。それは、憎しみに駆り立てられた時の殺意、あるいは殺人を犯した時の残虐性。

「ルー、シア・・・」
ケンの声に我に返ったルーシアがケンを見る。ケンはホッとした表情でルーシアを見た。
「すまない。どうもあの時の事を思い出すと感情のコントロールが出来ない様だ。・・・ヴィリエを守る為にパーフェクトになったのに・・・守れなかったから。今だって・・・目の前にいたのに気付かず、シオンを、守れなかった・・・」

ベットに顔を伏せたルーシアから押し殺した泣き声が聞こえる。
ケンの手が、ルーシアの肩を抱いて引き寄せる。

「押し殺して泣くと余計心がつらいよ。・・・泣けよ。思いっきり声を上げて泣いたって、責めるヤツなんて誰もいないんだ」
悲鳴に近い泣き声と共に、ルーシアの目から涙が溢れ出る。


 ドアのノックする音が響く。
開いたドアの先にはタイチが立っていた。
「別に子供同士のラブシーンが見たいわけじゃねぇよ。さっきから電話が鳴りっぱなしだぞ。お前らアンドロイドなのに聞こえないのか?」

タイチがそのまま憎まれ口をたたく。・・・微かな、血の匂い。

「おい、ちょっと待て」
ハルが、そのまま下へ降りようとしたタイチの右腕を掴む。
その瞬間、鋭い目がハルを貫き手をふり払われた。
「ああ、失礼。俺は他人に触れられるのが嫌いでね」
わざとらしく左手で右肩を払い、ハルを一瞥する。

「何しに来たんだよ」
ケンの質問に、ルーシアは開こうとした口を閉ざす。

 いくらハルがこちらに気をとられたからといって、おそらく最初から話を聞いていたタイチの気配に気づかずにいられるだろうか。
階段を上る音も、しなかったという言葉の方が適切だろう。

「働いた者に対して冷たい言葉だな。あいつらの遺体を運んでたんだよ。気持ち悪いからシャワーを浴びに来たんだ。ついでに昼ごはんも食べてくか。たまには家族の親睦も深めないと、なぁ?」

わざとらしくケンへと笑いかける。
「ふざけるな!何が親睦だ!勝手に出てって、勝手に帰って来て。父さんが、どんなに辛い思いしてたか!」
「つらい思い?」

タイチの形相が変わった。

 部屋へと押し入り、ケンの胸ぐらを掴み上げる。
まっすぐ見上げたケンの目と、憎しみに満ちたタイチの目がぶつかる。
「あいつがつらい思いをしていた?俺を捨てたのはあいつだぞ。あいつがつらい思いをしていたはずないだろう!」

声を荒げ感情をむき出しにしてケンに当たる。
ケンにも初めて見せた、タイチの感情的な一面。

だがそれは一瞬の事。

次の瞬間静かな憎しみを瞳に宿らせ、ケンを放して部屋を出て行った。


 入れ替わるように、村長が家へ帰ってくる。
「ルーシアさん、ハルさん。少しお話しいいですか?」

 下まで降りてきたルーシア達を、村長は応接間へ招き入れた。
ケンも一緒についてきたことに何か言おうとしたが、口をつぐむ。

皆が座る間もないまま、話は始まった。
「まず・・・あの二人は自殺したのではありません。誰かに、殺された様です。ただ、今村人たちは心中説を受け入れています」
「犯人捜しを何故しないのです?旅人だけでなく、村の住人も殺されているでしょう」

短い沈黙。

 村長はため息をつき、ルーシアを見た。
「宿に缶詰めにされて苛立っている旅人達もいます。そろそろ、結論を出さなければいけません」
「村長、犯人をかばってるね。村の有力者なの?パーフェクトの力を畏れてなの?・・・村の為になる事なら、それもまた道だけど・・・」

ハルに睨まれ、村長が言葉を詰まらせる。
だが話し続ける。

「お二人に嫌疑はかけません。それはケンの父親としても誓いましょう。ただ・・・この村から、出て行ってもらえますか?それで村人たちの混乱は収まります」
「ちょっと待てよ!なんでルーシア達が出て行かなきゃいけないんだよ!ルーシアたちはやってない!俺を始めマコト達が証明する!」

村長はケンと目を合わせようとしない。
「ケン、お前はなにもするな。もし何かしようとすれば友達を含めて閉じ込めるからな」

目を合わせないまま家を出て行く村長。
ケンの呼び止める声も聞かず、誰とも目を合わせることもないまま、強張った顔。

「くそ!何でだよ!何でルーシア達がこんな目に遭わされなきゃいけないんだ。・・・父さんは何を隠しているんだ」

 ケンが苛立ちを募らせ、机を叩きつける。
ルーシアは昨夜ハルが言ったことの的確さに戸惑いながらも、考えをまとめようとしていた。

「彼をかばっているのか?・・・Atype24なのか?そうじゃないのか・・・」
「年齢的にはあってるんじゃない?私たちが研究所襲撃時あのとき見たのはほんの一瞬だったし、人相がどうとかは比較できないけどね」

「かばう事によるリスクが大きすぎる。Atype24は帝国からも狙われているんだ。いくら息子だからって」
「だから親父は誰をかばって・・・・息子?」

 失言に気づいたルーシアは、慌ててケンを見た。
顔を曇らせ、怪訝な表情でルーシアの言葉を待っている。

覚悟を決めて最終結論をだす。

あの血の匂い。

 パーフェクトの敏感な能力を発揮させないと分からないが、彼の証言とは少し食い違っていた。

まだ、新しい感じがしたのだ。

「ケン。村長がかばっているのは」
「ケン!!ケン!!いるの!?」

 居間へと飛び込んできたリナに、話が奪われる。
リナの髪は乱れ、服は汗で濡れている。
ここに来るまでに、あちこち駆けてきた様子が分かる。
「ケン・・・サニー、来てない?」
ケンは立ち上がり、よろめくリナを支えた。

全員に嫌な予感が這い巡る。

「来てない。サニーがどうしたんだ?」
「ナユリの様子を見に行くって、30分前に家を出たっきり・・・ケンの家に着いたら電話してって、言ったのに・・・電話しても、誰も出ないから・・・ケン・・・まさかとは思うんだけど・・・」

そこから先は言葉にならなかった。誰もが考える最悪の可能性。

「ケン、リナを家まで送って。私がサニーを捜す。ハル、頼みたいことがあるの」
ルーシアが慌ててハルに耳打ちする。
それを聞いた後ハルは深く頷き、ルーシアの背中をポンと叩いた。


 ルーシアは急ぎ雑木林へ向かった。
ケンから丘を登らず、雑木林へ直接行ける道を教わったのだ。
その道中、タイチが一人で暮らしているという雑木林の管理事務所をのぞいた。

瞬間、のぞくんじゃなかったと思った。
隠すつもりもない明らかな血の匂い。

遺体はない。

シオンが打ち捨てられていた  あの二人組も同じ場所だったらしい  場所にはいなかった。辺りを見回す。

・・・もっと目立つ場所は?

 雑木林は諦め、池へ向かうことにした。
雑木林を抜けると、池につかっている村長の後姿が見えた。
訝しげに見ると、村長の足元の水が、赤い―
「村長!!・・っ!!サニー!!」

村長の足元に、変わり果てたサニーの姿があった。
「どうしてあなたがここに?サニーが誰に殺されたか、わかってるんですよね」
最後の言葉は疑問ではなく、落胆の言葉。

「ルーシアさん・・・やはり、そっとしておいてはくれなかったんですね」
「何を言ってるんだ!ナユリの命も危ないんだぞ!果ては村全体が!!村長は、あなたは!いったい何を守りたいんだ!!」
「サニー!!!」
ルーシアとリナの叫びが重なった。

 ケンとリナが丘の上にいた。
家には行かず、こっちへ来てしまったらしい。
池に入り、サニーを抱き上げるリナ。

小さな顔が人間の限界を超えて真横を向いていた。

「サニー、サニー。あぁ・・・・・・あんた達は!あんた達はどうして意味もなく人を殺せるの!?平気で・・・こんな、惨い」
「リナ!」
サニーを抱えたままルーシアに向き直ったリナの肩を、ケンがつかんだ。

「ルーシア達はこんな事する人じゃない!犯人に傷つけられてる方なんだ。一緒にいてそれが分からないリナじゃないだろう?」

「わからないよ!!ケンみたいにいつもルーシアを見てるわけじゃない!!」

リナがサニーを抱きしめたまま叫ぶ。

ケンはリナの肩から手を離して下を向いてしまった。

沈黙が続こうとした時だった。ルーシアがリナの名前を呼ぶ。
「私は・・・私たちは人間よ」
雑木林へ消える直前、ルーシアは村長の祈りを耳にした。
「すまない・・・すまない。あの子を、助けてくれ・・・」



 ケン達が去ってしばらく経ったナユリの部屋。
そのドアが音もなく開いた。
薄暗い中穏やかな寝息を確かめると、侵入者はその首に手をかける。
その時だった。

掛布団から出てきた手が侵入者の右腕を掴み、窓へと投げ飛ばした。

 窓ガラスの割れる音と共に、侵入者が外へ投げ出される。
侵入者は不意を突かれたのにもかかわらず見事に地上へと着地する。
「あんたがタイチ?・・・いや、Atype24か」

ベットで寝ていたハルが侵入者  タイチの目の前に軽やかに着地する。

 タイチの後ろには村長の家。ハルの後ろは住宅街へ続く大通り。
先ほどの窓ガラスの割れる音で、村人が辺りに集まって来ていた。
タイチは袖の破れた右腕を押えて、ハルを真っ直ぐ見下ろしている。

「犯人?何の事だ。俺はただ、ナユリの具合をみようと―」
「普通の人間が、不意をつかれて二階から投げられて、無事でいられると思う?見事に着地したものね。右腕を押えてどうしたの?」

 核心に迫っても、タイチは動揺を見せない。
むしろ動揺したのは、様子を見ていた村人たちの方だった。
「予定変更だ」
言葉を言い終わらない内に、タイチはハルに襲い掛かる。
同じ速さでそれを受け止めるハル。

その目に入ってきたのは“Atype24”の文字。

「何故、家にいる。子供を捜しに行ったんじゃなかったのか」
「ルーの案でね。ナユリを移動させ、侵入者をあぶりだす。・・・ナユリの部屋での血の匂い。あれは、あれは・・・サニーのなのね」
タイチの攻撃を避けながら、ハルが解説していく。
時々隙を見て突き出す拳も、タイチは鮮やかに避けていく。

「やっぱり、あなたがこの事件の犯人で、Atype24なのね」
 普通の人が見れば、ルーシアが突然現れた様に見えただろう。
ルーシアがパーフェクトの能力を生かした速度でタイチの前に現れた。

 タイチを、ルーシアとハルで家に押しやる形に囲い込む。
「ナユリの村を襲ったのもお前だろう。部屋の前でケンと私との会話を聞いていたのなら、記憶が戻るかもしれないと考えて、ナユリを襲うのは目に見えていたからな・・・どうして、シオン達を殺したんだ。何の罪もない人たちを」

今にも攻撃をしかけてくる気配。
しかしそれに隙を与えず、ルーシアは会話に持ち込もうとする。


 タイチから攻撃の気配が消えた。殺気だけはまだまだ漂っている。
それがそれぞれ誰のものか、3人の気が混じってよく分からなくなってきた頃、タイチが蔑みの色をたっぷりと含ませた言葉を放つ。

「何の罪もない?パーフェクトになりたいと思ってる奴らはその時点で罪だ。パーフェクトとしていきている奴も、パーフェクトを作り出した奴らにも制裁を加えなければならない」
「どうして・・・どうしてお前がAtype24なんだ!」

 タイチとルーシア、二人弾かれたように動き出した。
村人が再び二人の姿を確認した時には、タイチは腹を抱えて膝をつき、ルーシアは息を荒くして立っていた。タイチが構える。

「ルーシア!」

人垣の中からケンの声が聞こえた。
ルーシアとタイチの間に割って入る。
ケンはタイチを見たまま、話を続ける。
「ルーシアが体を張る必要なんてない。…ルーシアが戦ってる所なんて、見たくない」

 ケンの言葉に先に反応したのはタイチだった。突然笑いだし、空を仰ぎ見る。
「お前は本当に甘いなぁ、ケン。これが話し合いで解決する問題か?お前の大事な妹が殺される所だったんだぞ。これだから、ヌクヌクと育ったヤツは…観客も大分集まったようだしな。いいだろう、お前らに教えてやる!」

タイチは周囲を見渡し、大声で叫ぶ。
「俺は12年前、家出したんじゃない!こいつに売られたんだ!・・・水源の枯渇という問題と引き換えにな。めでたくパーフェクトになれた俺は、復讐を思い立った」

タイチが指差す方には村長がいる。

ハルはタイチの後ろから横へとジワジワと移動し、村長を庇う形で間に入った。

「研究員にうつつをぬかしていたお前らには分からない。俺達がどれだけ酷い扱いをされてきたか。突然親に捨てられ、道具として扱われる。・・・道具扱いの時に一番冷たかった奴が、呪われた種族だった。俺がパーフェクトになった途端、気持ち悪い位に崇拝しだしたのもそいつらだった。一番目は開発者のくそじじい、二番目はパーフェクトの下僕を殺してやったよ。…感謝してもらってもいいくらいだがな。俺が元凶を抹殺してやったんだ」

「だからって、何もかもを破壊していいわけじゃない!…私達は、結局あそこでしか生きられない育ち方をしてしまったんだ。突然自由になったって、あんたに殺される恐怖と戦い、世間にさらされる恐怖と戦い・・・死を選んだ者も多いんだ!」
ハルがたまらず叫んだ。

「選べばいい。それは俺の本望だ。選ばなかった奴が何を言う」
笑った顔、冷たい瞳。

ドスッ

突然の鈍い音。それと共に、タイチの表情が固まった。
「み・・・んな・・・の、敵」

 振り返ったタイチの陰からナユリの姿が見えた。熱がまだひいていないのか、ナユリはフラフラして危なっかしい。
よろめいたタイチの背中  腰に、包丁が刺さっていた。
「貴様・・・」
口から出る迫力とは違い、タイチはその場に崩れ倒れた。

 パーフェクトでも突然腹部を刺されては平気でいられない。しかしタイチは立ち上がり、刺さっている包丁を抜いた。
そのまま腕を振り上げ、ナユリの胸めがけて振り下ろす。

ガッ・・・!

再びの鈍い音と共に、ナユリをかばったハルの腕から血が吹いた。
ナユリはもう気を失っている。ハルがまだ使える左腕でナユリを自分の後ろへと隠した。
「どけ。どかないとお前から殺す」

脚を伝って血だまりが出来つつある。

「やめるんだ。無理して動くとただでは済まない」
ルーシアがタイチを呼び止める。
瞳の鋭さは変わらないタイチは、ルーシアを睨んだ。

「お前は・・・俺を殺そうとしてるんだろう?お前の望み通り死んでやるよ。でも、ただじゃ死なねぇ」

そのタイチの言葉に、ずっと固まっていた村長が掠れた声を懸命に絞り出し叫ぶ。
「やめろ、タイチ。やめてくれ・・・最初から、私を殺せば良かったんだ。他の者を傷つけるなんて・・・ナユリだけは、お願いだ。その子は、その子は私の」

「懺悔の対象」

タイチは冷ややかな目で村長を見つめる。

 村長は怯えた目でタイチを見ていた。
「パーフェクトに村を襲われた哀れな子供を、パーフェクトの研究材料として売った俺達と重ねたんだろう。子供を救えば、村に道徳的教育をすれば、少しでも罪を償えるんじゃないかと思ったんだろう。俺が生きてるとも考えないで」

憎しみが、そこにあった。

しかし微妙なバランスでそこに何かが絡みついている。

「俺がどんなに辛い思いをして生きていたか、あんたは考えもしなかったんだ。“息子を売ってしまった”、“けれどもう過去の事だ”、“過去にしなければならない”そう思ったあんた達は、村の人たちに俺たちの事を伝えもしないで“いい村”に仕立て上げた」

ひきつった笑顔。

それは多分、タイチが初めて見せた気弱な表情。

「生きてるなんて考えてなかった俺が、帰ってきたときのあんたの顔。重役たちの困った顔。挙句の果てに、俺は村を出た放蕩息子ってことになってる。・・・俺が今まで黙ってたのは何でだと思う?黙ってれば、あんたは12年前の罪を暴かれる事はない。だが、いつ俺の正体がバレるかビクビクしていただろう。・・・時々俺が血に飢えて人を殺してしまったとしても、他の奴らを犯人に仕立て上げるだろう。そうする事であんたは、どんどん罪悪感を募らせていくんだ」

薄ら笑いを浮かべ、村長を見続けている。

村長は意を決して、タイチへと一歩進み出た。
「最初から・・・私を殺せば良かったんだ。この村の子供達を売ることを決定したのは私だ。私だけを憎んで、私だけを殺そうとしてくれればよかったんだ。・・・殺してくれ。もう、何を大切にするべきなのか・・・疲れてしまった。タイチ、私を」
「ふざけんじゃねぇ!!!辛くなったから殺してくれ?あんた何様のつもりだよ!子供を捨てた責任をちゃんと取れよ!どうしたら俺が救われるのか、俺の親ならもっと考えろよ!!」

悲痛な叫び。

「・・・それでも死にてぇってんなら、自分で死ねよ」
タイチが包丁を村長に向かって投げだした。

直線を描いた包丁の刃先が、村長の足元にささる。

 その包丁をゆっくりとした動作で引き抜いた村長はそのまま、刃先を自分の首へとあてる・・・

「だめだ!!」

叫ぶと同時に駆けだしたルーシアが、村長の手から包丁を奪い取った。
「ルーシアさん・・・」
「簡単に、死ぬなんて言わないで。もう、誰も目の前で死なないで。・・・生きて。自分が、他人(ひと)が、生きていける方法を考えて」

「邪魔すんじゃ、ねーよ!」

タイチがルーシアから包丁を奪おうと全速力で向かってきた。
「タイチ。あなた本当はお父さんを殺せなかったんでしょ?お父さんに、自分が辛かった事、分かって欲しかったんでしょ?」

深手を負った分、タイチのスピードが緩い。
ルーシアはタイチを軽くかわし続けている。
「うるせぇ!知ったかぶるな!」
「知ったかぶりじゃないよ!人は、他人(ひと)を知ろうとする所から始まるんだ!私はそれを!ケンから教えてもらったんだ!!」

 タイチがついに倒れた。無理もない。
腹部を刺されてなお、パーフェクトの能力で動いていたのだから。
かなり出血もするし、普通なら気絶してもおかしくないのだ。

 村長が何かに弾かれたようにタイチへと走り出した。
担架を呼び、医者へ運ぼうとする。
「すまない・・・タイチ、すまない・・・生きてくれ。頼む・・・生きてくれ・・・」
薄れゆく意識の中、タイチはすっかり年老いてしまった自分の父親の声を聞いていた。



6話へつづく

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