【掌編小説】ウィークエンドの後悔
閉じた目を開けると、金曜日の午後2時17分。
もうすぐ彼があのドアを開けて入ってくる。
「素敵なコレクションですね」
町の片隅で雑貨屋を営んでいる私の店に何度目かの来店の末、彼が私に話しかけてきたのはその言葉だった。
雑貨屋を営む、といっても現在二足のわらじ生活である私は、雑貨屋への来店が少ない平日は営業しておらず、飲食店のアルバイトをしている。
自分の雑貨屋は、金・土・日オープンに落ち着いた。それでも、毎週開けているのだから、それなりに安定した来客を保てている。
金曜日は昼間こそ来店がないが、夕方以降は週末の疲れを癒しに来る人達が常連になってくれている。
夕方には早い時間、午後2時頃に彼が顔を出し始めたのは、もう数か月前になる。
初来店から1ヶ月ほど経った頃、先程の言葉を皮切りに、彼が初めて話しかけてきた。話をする内に、彼の誠実そうな話し方や少し高めの良く通る声に惹かれている自分を自覚していた。
「みかさん、僕の家に来ませんか?」
店のドアからは見えない、レジカウンターの奥で彼との長い口づけを終えた後、切り出された。
次の週の金曜日。
店のドアに「今週は臨時休業と致します」と案内を貼って、彼との待ち合わせ場所へと向かった。
後ろめたい気持ちと、高揚感。
街ナカデートなんて久々で、無邪気にはしゃいでいた。
彼とだと、雑貨屋のセレクト目線を外してウインドウショッピングが出来る。
学生の頃に戻った様な楽しさに、夜までがあっという間だった。
「生活感、ないよね。やっぱり週末に住むだけだと何も増えなくて」
バツの悪そうな困った様な顔で笑う彼に案内された、マンションの1室。
「普段はタワーマンションに住んでるんでしょ?庶民的なマンションに合うようなインテリアが見つからないんじゃない?」
「みかさんに見繕ってもらおうかな。あ、みかさんの感覚が庶民的って言ってる訳じゃなくてね」
私達、付き合うの?
鍵を貰えるって事?
……今から私達は、そういう関係になるの?
全ての疑問を払う、困り顔の笑顔に吸い寄せられて私は彼の腕の中にいた。
店での口づけとは違い、探るような目線から始まるキス
ふと、自分が裸のまま寝ている事を思い出して目が覚めた。
そっとベッドから抜け出す。
寒くない季節だからといって、そのまま寝てしまったのはあまりにもはしたない。
自分の鞄から持って来ていたパジャマを着て、水を飲もうと台所へと向かう。
ほぼ何もないのでコップは簡単に探し出せた。彼は良く眠っているように見えたので、多少の水音は届かないだろう。
流しに、無造作に置かれている四角い容器を見つけた。
洗ってあるお弁当箱
今日のお昼も、晩御飯も、彼は私と食べていたのに。
そっとごみ箱を覗いた後、私は彼の隣に潜り込んで目を閉じた。
土曜日の夕方には帰るからと、彼とは駅で別れた。
金・土の出張。
今週は出張ではないのは私が一番わかっている。
時々誰に向かっての言い訳なのか口を滑らせる彼に、ハッキリ聞くことも出来ずに別れた後、私は駅の商業施設をあてもなく歩いていた。
ふと、彼の家で見たお弁当用の保冷剤ベルトを見つけた。
動物の部分に保冷剤を、ぎゅっと抱きしめている腕の部分にお箸を入れる保冷剤ベルト。
ペンギンの保冷剤ベルト。
あのお弁当の中身を作ったのは誰?
バカじゃん、私。
唐突に泣き出した私を、慰める人は誰もいなくていい。
また金曜日に来るのだろう。
困り顔の笑顔で私を吸い寄せるのだろう。
ずっと、どうやって別れを切り出そうか考えている。
だから私は、今日も目を閉じて彼を待っている。
《今週の三題噺》
1.タワーマンション
2.保冷剤
3.毎週金・土・日オープン
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