【掌編小説】10年後の約束
「おれたちでさ、新しい都市伝説作ろうぜ」
「……なんのはなしですか?」
また突拍子もない事を思いついたもんだと、僕は笹原の人懐っこい笑みを見て感心していた。
「ほら今、都市伝説を解明していくゲーム実況が流行ってんじゃん。でもおれは、都市伝説をつくる方がカッケーと思うんだよ」
笹原が数日前から話している、ゲーム『都市伝説解明所』の話だろう。
どうやら笹原の琴線に触れたようだった。
「僕、前から思っていたんだけど、都市伝説と怪談ってどう違うの?」
笹原からゲームの話を聞くと、怪談話に相当する部分も大きい。陰謀論みたいなものもあるけれども、子供が考えようとするには陰謀論は荷が重いだろう。
「うーーーん……怪談はお化けだろ。都市伝説は妖怪とか、そうじゃなくてもなんか変なヤツ」
「ざっくりしてるなぁ」
笹原の結局何も考えてない思いつきに、ぼくは脱力しながら彼の輝く笑顔を見ている。
楽しい事を次々と思いつく彼の、笑顔を独り占めしている僕は幸せ者だと思っている。
彼の正式な所在はこの教室ではない。
この教室は通常の教室にいられない子達が来るところ。
彼が何故ここにいるのかは僕も知らない。彼も話そうとしないし、僕も聞かない。僕だって、笹原に聞かれたくない事があるからだ。
「そうだなぁ・・・この山ノ上中学校の南校舎1階にいる幽霊に、2xxx年に落花生をあげれば幸せになれる。ってのは?」
「南校舎1階ってここじゃねぇかよ!しかもなんだよらっかせいって」
「ピーナッツだよ。未来で答え合わせできるんだぜ?いいじゃん、楽しそう」
僕が幽霊の話をしたとたん、右、左、後ろと笹原の視線が忙しくなる。
かわいいなぁ。。。
本当に、独り占めしてしまいたい。
そんな僕の思考を打ち消すように、急に笹原は立ち上がった。
「都市伝説だったら、“幸せになれる”じゃなくて“ピーナッツをあげないと呪われる”だろ!いや、なんかこえぇよ!話をここにすんなよ!」
「幸せを願う都市伝説もアリだと思うけどね」
ぼくはうそぶいて笹原の反応を見る。
今、いっぱい考えているんだろうなぁという風に表情がコロコロ変わって楽しい。
「そもそも、2xxx年って今から10年後じゃん。俺は俺で中学校の中に入れないし、万が一広まったら変な奴に不法しんにゅうされて迷惑かかるし」
変な所真面目なんだよなぁと、彼の素直さが心配にもなる。
心配だから、背中を押してあげたいんだよな。
「学校の先生になれば?まぁ、この学校になるかは賭けだけどさ」
なんせ、勉強がんばれや。
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「そんな言葉で、俺、結局先生になったんだぜ」
笹原直人は2xxx年の4月に、はれて山ノ上中学校の新任教師となった。
あの時二人で話をしていた教室の、男子生徒がいた机の上にピーナッツの袋を置いて、前の席に対面になるように座っている。
「“都市伝説になれたかどうかの正解は10年後な”って話した次の日から、学校にいなくてさびしかったんだからな」
ピーナッツを食べながら、まるで会話の様にひとり言を話している。
「もう、どっかのタイミングで成仏したか?それとも俺がもう見えないだけで、ここにいるのか?……俺、ちゃんと覚えてるよ。覚えてるけど、お前の名前、どうしても思い出せないんだ」
窓際のカーテンが揺れている。
「お前のおかげで、俺は自分の道が見えたんだ。これから、もっともっと幸せになるよ。まだここにいるなら、俺をみててくれ」
ありがとうな
笹原の言葉と共に、カーテンが一層大きく揺れた。
《今週の三題噺》
1.ピーナッツ
2.都市伝説
3.正解は10年後
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