【三題噺】或る文房具売場店員の日常
「あの、ABCって書かれているポスターありますか?」
年配の女性の方に商品を聞かれる。おそらくお孫さんへの勉強道具としてアルファベットのポスターを探しているのだろう。
ここの土地のお客様は控えめな方が多い。
「すみません、下敷きならあるのですが……」
アルファベットや50音のポスターは、私の店では文房具売り場にはない。
あるのはおもちゃ売り場だ。
公文式が出している太い三角えんぴつも文具ではない。知育玩具としておもちゃ売り場にある。
かるたや百人一首、ジグソーパズルもおもちゃ売り場。
意外とこの辺り、文具売り場にあると思って聞きに来るお客様が多い。
いや、他の店では文具売り場にあるのかもしれない。
あと、書店に置いてあるもの=文具売り場というイメージがあるのかもしれない。
「あのー、時計ってどこにありますか?」
小さなお子様連れの女性の方が周りの売り場を見渡した後、聞きに来られた。
「置時計ですか?腕時計ですか?」
「目覚まし時計です。子供用の」
「キャラクターものは少ないですが、こちらの売り場にあります。この先真っすぐ行かれた突き当り、左手にありますよ」
「ありがとうございます」
子供用の買い物カートを押して歩いていくお母さん。おそらく、上の子がいるんだろうな。
と思いながら自分の売り場の商品整理を始めた。
「姉ちゃん、ちょっといいか?」
この辺りではあまり掛けられない言葉に、身構える。
独身時代も接客業をしていた勘が、コイツはめんどくさい客だと直感する。
「この見本のボールペン、これワシに売ってくれんか?見本やから、ちょっと値段下げてもらって」
通常の値切り交渉が可愛く思えるほどの図々しい客だった。
私はこういう時、思いっきり笑顔を作る。
「申し訳ないのですが、こちらは商品として店に入ってきた物ではないので、お客様にお売りする事は出来ないんです」
「ちょっとでも儲けになったら姉ちゃんも良いやろ?」
しかし、まぁ、まだ私を「姉ちゃん」扱いしてくれるだけちょっとマシかもしれない。
「限定品なのでお客様が欲しい気持ちも分かるのですが、他のお客様にもご理解して頂いている事ですので、商品が入って来ないようなら、このままこちらで処分させていただきますね」
残念そうな顔を出しつつ、笑顔で、見本品を預かり頭を下げてその場を去る。
男性客は買い物カゴに大量に入った値下げ品を買って立ち去った。
…転売屋だろう。
「儲けがある」と判断した値下げ品を処分してもらう分には役に立つ存在だけれど、希少価値が高いものに群がるのは許せない。
「店在庫がなくなる」のを役立つと考えている時点で、その後定価以上の値段で買ってしまう人の事は考えていない辺り、私も転売屋と同じ業を背負っているのかもしれない。
なんて、商売人の端くれがエセ哲学めいた事を考えつつ。
今日も時間ぴったりに仕事を終える。
たまたま文房具が好きだった。
たまたまこの場所に潜り込めたけど、パートタイム以上の事はしたくない。
そんな、他の担当者よりも少しだけ文房具に詳しい私の話。
全部、お客様から聞かれた本当の話です。
「見本品を売ってくれ」はまじで #なんのはなしですか だった😅
《今週の三題噺》
1.ABC
2.値切り交渉
3.目覚まし時計
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