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【掌編小説】世界崩壊の日、私は困難への道を選んだ

私のアイドルは死んだ


日付が変わったタイミングで
アイドルグループ『Asterism(アステリズム )』のリーダー、ケイくんが、女優と連名で結婚を報告した。

今、私の目の前にはビリビリに破かれた彼のポスターがある。

彼が私の唯一の救いだったのに。




小学校の頃同じクラスだった雅也との再開が、私の運命だと思ったのは数年前。

雅也はライブハウスのスタッフをしながらデビューの機会を狙っているバンドマンになっていた。

頼まれればチケットを売りさばき、お金がないと私の家へ泊まるのもしょっちゅうで、その割に私の愛の注ぎ方とは違うインスタントな愛を求めてくるだけだった。

私は本当に雅也の彼女なのかと疑問に思うこともしょっちゅうで、よく喧嘩をしていた。

「私はこんなに雅也の事が好きなのに!」

そう叫ぶ私の口を塞ぐ時の雅也の顔だけは、私をしっかりと見ていてくれているようで嬉しかった。


雅也の夢を叶えるために私はいるの。雅也をトップスターにしなきゃ。


そんな夢も、見事に打ち砕かれる。

バイト先から私のアパートへ帰ったら、雅也が知らない女と寝ていた。

いや、むしろ2人の情事の最中に帰ってきたから丸聞こえの女の喘ぎ声をわかっていてドアを開けた。

………別に、構わない。

我慢するものでしょ?普通。

思っていたのだけど

女が慌てて去り

雅也が私に向かって何か猫なで声で色々言ってくるのは感じていた。

なんのはなしをしているのだろう。

晩御飯の用意をしながら聞き流していると

「今日、俺が好きな料理にしてくれたんだね。やさしーさっちゃん俺大好き」

言いながら抱きついてくる雅也に

何かがプツンと切れた


「嘘つき!いつまでも夢ばっかりみて!いらない!嘘ばっかりつく雅也なんていらない!」



巾着袋
堪忍袋
胃袋

人生における3つの袋は、結婚して男性を支えるために大事なんだよと母親が言っていた。

今から思い返すと、それを言っている母親は自虐的に笑っているように見えた。

母親が自虐的になっている意味も考えずに、雅也が好きだからキチンと頑張っていたのに。

夢を追いかけている雅也が好きだった。

だけど、私は雅也と結婚もしたかったのだ。

雅也を追い出したあと、食べることも眠ることもせずにずっとTikTokやYouTubeショートをなぞっていた。


そんな時にケイくんを見たのだ。

「いつだってここが未来への通過点」と、笑顔で言い切るケイくん。

今度はケイくんに傾倒した。


必死で握手会の券を手に入れるためにCDを購入して、手に入れた1分間で瞬く間に彼の眩しい笑顔の虜になった。

「いつだってここは未来への通過点」


そう笑顔で言い切る姿が眩しくて、ケイくんが言っている事ならなんでも信じられた。





そして

ビリビリのポスターの前で1時間以上も突っ立っている今の私に戻る。



わたしには何が足りないのだろう。


自分の足で立っているのに立っていない感覚。

自分の人生じゃないみたい。

この、傷ついている心は間違いなく私のものなのに。

誰かのためにしか生きる道を見いだせない。

私自身を大切にするって、どういう事?

誰かのために何かしている私しか、好きじゃない。

もしも今、ここに私を慰める人が現れたら。

私はまた、その人のために人生を捧げようとするだろう。

そんな自分がとてつもなく嫌で

呆れて

醜くて





でも






愛おしい


泣きながらポスターをゴミ袋に入れる。

涙や鼻水が付かないように、CDやグッズは売るために丁寧に片付ける。

これを売ったら私は私を変えるために動き出そう。

例えミッションインポッシブルな事だったとしても、あの映画は困難の連続をくぐり抜けて続編が出続けているのだから。

たとえ失敗したって

生きていれば

ここを未来への通過点にも出来るのだろう



《今週の三題噺》
1.通過点
2.ミッションインポッシブル
3.人生における3つの袋

#木曜日は3ースデイ


ちなみに、私が遭遇したら蹴倒すと思う。
#なんのはなしですか

読んで頂いてありがとうございます✨


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