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キラキラと輝くYちゃんの目は 今、何をみているのだろう

怒鳴り声が苦手だ。

いや、平気な人はいないだろうけれど。

その怒鳴り声が、私に向いていなくても身がすくむ。

その原因の声の主は、子どもの頃、車1台分の幅の道路斜め向かいの一軒家に住んでいた友達の父親だった。

私の実家はいわゆる長屋ながやの端で、壁も薄いのでよく聞こえてきたのかもしれない。


友達、と書いたけれど。

私が彼女を「友達だ」と紹介するのはおこがましいと思っていた。

なぜなら、私は彼女を疎ましく思っていた時期があるからだ。

大学時代。
「引っ越すことになった」と、母親と共に言いに来た彼女の瞳は相変わらずキラキラと輝いていた。 


Yちゃんは、小学生の時の友達だった。

男兄弟のいるYちゃんの家に行って、セーラームーンのゲームで遊んでいたのを覚えている。

夜になると、怒鳴り声が聞こえてくる。

Yちゃんの泣き叫ぶ声と、Yちゃんのお父さんの怒鳴り声。

優しいYちゃんの顔からは想像できないほどの絶叫。

どちらがどうだったのかはわからない。

人によっては色々な所へ連絡する人もいるだろう。

私の記憶では、Yちゃんの家の前には赤色灯の付いた車は停まらなかった。


小学校の中学年から高学年の時、Yちゃんは不登校になった。

理由はわからない。

私は家が近所だから「声かけしてあげて」と「プリントを持っていってあげて」の係になった。

正直、めんどくさかった。

それでも

朝申し訳なさそうなYちゃんのお母さんの顔が

プリントを渡される時に嬉しそうなYちゃんの顔が

「なぜ、私が?」

という気持ちを抑え込む。


ある時、Yちゃんが学校に来たときのことだった。

クラスの男子が、Yちゃんをからかっていた。

それは、虐めだ。

ふと、湧いた正義感に突き動かされてYちゃんをかばった。



ここで少し現在の私の話、私の子供の次女の話をさせてもらう。

現在高校生の次女は、中学生の時同級生の男子にいじめられたことがきっかけでほぼ3年間、不登校になった。

次女がいじめられていると知った時。私はあの日の自分とYちゃんを思い出さずにはいられなかった。

学校からの働きかけは、次女の登校を促すような“朝のお誘い”はなかった。けれど「特別教室へ行った際に通常クラスからの“声かけ”などは行なっている」と、担任の先生から連絡を受けていた。

私の不安をよそに、その声かけをしてくれている子がたまたま見かけた私に話をしてくれたことがあった。
次女とは小学校からの同級生で、仲がいい子だ。
「あいつら(騒がしい男子)、どうしようもないから。他にもターゲット作って、皆から嫌われてる」

そんな言葉を彼女から聞けて、正直少しホッとした。彼女の口調と、私を見つけた時の表情で、本当に次女の事を思いやってくれている様子が分かったからだ。
『無理、しないでね』そんな言葉を彼女に直接かけなくて、本当に良かったと思った。

私は、彼女が次女をかばうことで、次女を思いやることで、彼女がいじめのターゲットにされる事を恐れていたのだ。




話を、私の小学生の時に戻す。

Yちゃんをかばったその日から、私がいじめられた。
男子からのからかいはすぐに終わったが、女子からの陰口とヒソヒソ笑いは残った。

学校からのプリントを持っていくと、Yちゃんはキラキラした瞳で私を見る。

やめてよ。

『あなたのせいで』

出かかった言葉を飲み込んで、急いで家に帰る。


徐々に、Yちゃんと遊ばなくなった。


中学生になったことが、決定的に二人の歩みを分けた。


叫び声が、いつから聞こえなくなったのか。

おそらくYちゃんの兄弟が大きくなるにつれて聞こえなくなっていた気がする。


そうして私が大学生になった頃。
引っ越しの報告を受けた私は、なんて言ったのだったか。

おそらくあたりさわりのない言葉を餞別に送ったのだろう。

私は薄情なやつだ。と、思っていた。


次女のことがあってから、私は度々あの瞳を思い出す。

不登校の子供の親の立場になって、思い知る親の気持ち。
そして、次女の友達の表情を見て思い出した、Yちゃんと楽しく遊んでいた記憶。

『めんどくさい』だけじゃなかった。

ちゃんと、Yちゃんの事を心配していた。

当時の私には何もできなくて、遠ざかる選択肢しかなかったのかもしれない。
離れないと、私がしんどかったのかもしれない。


今なら、Yちゃんのあの瞳をまっすぐに見ることができるかもしれない。

私はYちゃんの友達なのだと、まっすぐな気持ちで言葉を交わせるかもしれない。

20歳近くになっても、小学生の頃と変わらないキラキラとした純粋な目で、私を見て微笑んでいたYちゃんに、会いたい。


#創作大賞2026
#エッセイ部門





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