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細野晴臣『チャタヌガ・チュー・チュー』――開店前のジャズバーで

昔、小さなジャズバーで、ほんの短い間だけ働いていたことがある。

店は夜になる前から静かな音で満ちていた。
週に一度、花屋がやって来て、大きなフラワーアレンジメントを作る。
真っ赤な薔薇の茎のところをチョキチョキと切る音。床に散らばる葉っぱ。

カウンターでは女の子たちが、ロック用の大きな氷を丸く削っている。

しばらくすると専属ピアニストがやって来て、軽く鍵盤を鳴らしながら、
その夜の音を整えはじめる。

店が賑わう前の、あの準備の時間が私は好きだった。

お店では時々、女の子たちがジャズをコーラスで歌った。私も歌ったけど、もちろん余興みたいなもので、特に上手かったわけでもない。
それでもなぜか、当時歌っていた曲だけは今でも身体のどこかに残っている。

よく覚えているのが、
『Chattanooga Choo Choo (チャタヌガ・チュー・チュー)』。

Pardon me boys, is that the Chattanooga Choo Choo?
(Yes Yes) Track 29!

ねえ あれがチャタヌガ行きの列車?
(そうだよ)29番線さ!

少し前、細野晴臣 がこの曲をカバーしていることを知って驚いた。

『Chattanooga Choo Choo』と並んで、もうひとつよく覚えているのが『Bei Mir Bist Du Schön』だった。
邦題では『素敵なあなた』で知られる曲である。

こちらについては、また別の機会に書きたいと思う。


細野版『Chattanooga Choo Choo』の面白さは、
何といっても途中で突然入り込む日本語詞だと思う。
古いスウィング・ジャズが、エキゾチックな、何とも不思議に軽やかな音へ変わっていて、とても面白かった。

こりゃまた速いね
ペンシルバニア駅を四時に出て

裏拍から転がるように歌詞が入ってくる。
「こりゃまた速いね」の部分、忠実に翻訳したというより、

「スタコラサッサ」

みたいな、日本語の軽い擬音感覚でスウィングを捉え直している感じがして、とても細野らしい。

ちなみに、この「スタコラサッサ」的『チャタヌガ・チュー・チュー』は、桐島かれん版でも楽しむことができる。


懐かしい曲を聴くたびに思い出すのは、華やかな夜そのものではない。

開店前の静かな店内や、
氷を削る音や、床に散った薔薇の葉のことである。

そしてその音たちは、軽やかな足どりで現在へとつながっていく。

音楽の記憶というのは、案外そんなものなのかもしれない。


*『Chattanooga Choo Choo』を初めて聴く人は、
映画『 Sun Valley Serenade 』(邦題『銀嶺セレナーデ』)の演奏と歌唱、それから圧巻のダンスシーンをぜひ見てほしい。
列車のリズムそのものがスウィングになっていて、本当に楽しい。


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