ティン・パン・アレー版『ポケットいっぱいの秘密』に驚いた話——「ないしょ、ないしょ」の後に何が起きるのか
ひみつ ないしょにしてね
指きりしましょ
誰にもいわないでね
アグネス・チャンの『ポケットいっぱいの秘密』は、もちろん知っていた。
子どもの頃から何度も耳にしてきた曲だ。
可愛らしくて、少し切なくて。
1970年代のアイドル歌謡の記憶として、ずっと頭のどこかにあった。
でも、ティン・パン・アレー版の存在は知らなかった。
ある日、Spotifyで音楽をランダムに流していた時、そのバージョンが突然流れてきた。
イントロでは、まだ気づかなかった。
普通に流し聴きしていた。
でも歌が始まった瞬間、「あれ?」と思った。
この曲、知ってる。
そしてほとんど間を置かず、「えっ、これアグネスの『ポケットいっぱいの秘密』?」となった。
あの可愛らしい歌が、妙に跳ねている。
妙に都会的だ。
ティン・パン・アレー――あるいはアグネス版の編曲に参加した時の名義であるキャラメル・ママ――について、私はそこまで詳しいわけではない。
名前はもちろん知っていた。
でも、「細野晴臣のベースがどうで」「林立夫のドラムがどうで」と語れるほど聴き込んできたわけではない。
だからこそ、今回の違和感は面白かった。
知識より先に、耳が反応してしまったのだ。
特に驚いたのが、リズムだった。
アグネス版は、「ひみつ」と歌が始まった後、
「ないしょ」が拍の表へ綺麗に落ちる。
だから曲が前へ前へ進む。
どこか縦ノリで、初々しい勢いがある。
けれどティン・パン・アレー版は違う。
「ひみつー」と、わざと少し引っぱる。
「ないしょ」まで裏拍へ滑り込ませる。
すると、曲が急に“歩き出す”。
行進ではなく、漂う感じ。
後から調べると、ティン・パン・アレー周辺の音楽には、ニューオリンズやラグタイム、R&B、ラテンなどの感覚がかなり入っているらしい。
なるほど、と思った。
あの少し転がるようなリズム。
軽いのに妙に身体が揺れる感じ。
それが『ポケットいっぱいの秘密』の中へ入り込むことで、この曲はただのアイドル歌謡ではなくなっている。
ここで一度、聴いてみてほしい。
そして、間奏で完全に足を止められた。
この間奏が、本当に不思議なのだ。
普通の歌謡曲の間奏じゃない。
いったん歌が消え、リズムだけになる。
そこへ「ないしょ、ないしょ」という男声コーラスが入る。
しかもメロディーはなく、一音だけの。まるで合いの手みたいに。
正直、最初は「ふざけてるの?」と思った。
そして、そのあとだ。
どこか懐かしいメロディが漂い込んでくる。
ここでまた耳が止まる。
これ、知ってる!
ああ、でも思い出せない。
記憶の中の歌詞も曖昧だ。
たしか「……tic love」だったか。
そんな感じの古いスタンダード・ナンバー。
数日後、やっと名前が浮かんだ。
それはドリス・デイで有名な『Secret Love』だった。
ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。
この先は少しだけ、“放課後”みたいな話です。
なぜ『Secret Love』が、こんなにも気になってしまったのか。
そして、松本隆の歌詞に隠された“秘密”について。
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