Patch Release: 「最強の武器」を民主化する。FactSort(Public Beta)公開。
FactSort Lab. | System Architect です。
これまでのnoteで、司法・行政というレガシーシステムの「仕様」を、入口から順に説明してきました。
note_1は「記録がないものは存在しない」。note_2 では「感情データは処理できない」。そして、note_3 は「点(証拠)があっても線(推論)がないと電流が流れない」ということを。
では、ユーザー(あなた)はどうすればいいのか。
本日、その解の一つとして 修正パッチ(FactSort v0.9 Beta) を公開します。
今回は、このパッチの 仕様(Specs) と、なぜこれがプロフェッショナルたち(レガシーシステムを運用する巨大な行政や判断機関である裁判所、これら機関の主たる利用者である弁護士など)にとっての 標準プロトコル なのかを説明します。
誤解のないように繰り返しますが、法的助言ではありません。
行うのは、彼らプロフェッショナルたちが違和感なく取り扱いやすくなるように、つまり「入口を通すための前処理」の話です。
1. プロトコル:勝つ/通す以前に、まず「時系列(クロノロジー)」が必要
米国のミシガン州弁護士会の実務記事に、身も蓋もない一文があります。英語のまま抜き出してみます。
“Chronologies help win cases.”
“Your mind should be reserved for thinking, not memorization. Memorization is a job for your software.”
訳すと、だいたいこういう意味です。
「時系列表(クロノジー)は、事件を勝たせるのに役立つ。」
「頭脳は考えるためのもので記憶のためのものではない。暗記はソフトウェアの仕事だ。」
重要なのは、勝敗の話以前に設計の順序なのです。
ビシッとスーツで決めたプロフェッショナルたちが最初にやるのは、感情を整えることでも、文章をうまく書くことでもなく、先例・裁判例調査や文献探索などということでもなく、ちっとも洗練されていない、泥臭い、次の作業です。
いつ、何が起きたかを並べる(Chronology)
その行ごとに、裏取りの手掛かりを付ける(Evidence / Record)
これがないと、次に何を確認すべきか(質問設計、追加資料、欠落情報)が決まりません。
人間の記憶は、検索もソートも苦手です。
しかも困ったことに自信だけは強い。
ですから、苦手な作業はソフトウェア(AI)に任せましょう。
2. 現実:その「前処理」が重い。重すぎて入口で倒れてしまう
問題は、このクロノロジー(時系列)作成が「分かっていてもできない」ことです。やることなんて単純だし、自分のことは自分が一番わかってるのだから簡単と思うでしょう?
でも、自分の権利や財産がかかっているという局面でも普通はできない。
なにかのトラブルの渦中にいると、だいたいこうなります。
スクショが大量(しかも同じ画面が何回も出てくる)
録音が複数(ファイル名が「新しい録音(3)」)
メモが断片(「たぶん金曜」「夕方」「駅」みたいな粒度)
重要な出来事ほど、後から思い出して追記(時系列がさらに崩れる)
ここで多くの人は、自分を責めてしまいます。
「整理できない」「説明が下手」などというように。
しかし、ここは能力の問題というより、入力が“未正規化データ”になっているだけです。
もちろんこれをプロフェッショナルたちは遂行できます。大きな法律事務所ならアソシエイト(頭脳優秀な下っ端)を使いながら、好意的な街の弁護士なら自分の身を削りながら。で、そんな整理してやる義理もない行政側(生活保護や在留の申請などを受けたとき、告訴や被害報告を受けた警察など)は「面倒だから対応する必要ないってことにしようっと」というアクロバティックな門前払いをおこなう。
つまり、プロ側がこれを前処理するとなると、時間が溶ける、という大前提があるのです。
そしてその結果、処理落ち(門前払い)か、長期化か、適当に取り扱われてしまうか、専門家のおそろしいタイムチャージを負担するか、のどれかになりやすい。
私ももちろん経験しています。
記録をスマホの写真に突っ込んで安心して、三週間後に自分が自分のログを読めなくなりました。
未来の自分は他人なんだな。
そして、ログ採取は、最初の一回がいちばん安くすむ。
3. そこでパッチ:Messy In, Structured Out(混乱したものを入れて、硬く出す)
開発思想は、よくある格言 “Garbage In, Garbage Out (ゴミを入れたらゴミしか出てこない)” の反転です。
ただ、トラブルの渦中の人に「綺麗な入力をよこせ」は酷です。
そこで、FactSort はこう設計しました。
Input:箇条書きだろうが、音声入力のちっとも整理されていない文字起こしだろうが、時系列バラバラのメモでよい。なるべくたくさん入力してもらう。証拠になりそうなものも適当に箇条書きで書いてもらうだけにして、証拠そのものは読み込まない。
Process:正規化/ソート/インデックス付与(ここを機械がやる)
Output:司法・行政の入口が“読みやすい形”の構造化ドキュメント
このパッチは「作文ツール」ではありませんし、法律概念や条文操作をすると行ったプロフェッショナルっぽいこともしません。
むしろ逆で、生成AIが得意なはずの創造性(=都合のよい補完)を、意図的に削っています。
ソースコードの中心思想はこれです。
“Generates a narrative document strictly from JSON with zero creativity.”
要するに、与えられたデータからしか書かない。同じ入力なら可能な限り同じ出力。ここを崩すと、入口で信頼を失ってしまうからです。
4. 仕様(Specs):FactSort v0.9 が出すもの(そして落とさないもの)
今回の出力は、プロフェッショナルたちが本当に欲しい「前処理の成果物」に寄せています。大きく二つとなります。
A. Deterministic Narrative(決定論的ナラティブ)
入力されたテキストから、章立ての文書を機械的に組み立てます。中心は第2章で、ここを「柱(Pillar)」単位に分解して並べます。Pillarは、法律判断を入れるためのラベルではなく(法律的な重み付けは全く行っていません。)、単に、検討単位を揃えるためのタグです(関連する事実を束ねる)。
B. Evidence-Linked Timeline(資料紐付けタイムライン)
「いつ・どこで」を主キーにし、各行に Evidence ID(例:[E01], [E02]) を刻印します。点(証拠)を“行”に固定し、後で線(推論)を引けるようにするためです。
さらに、地味ですが重要な仕様を二つ入れています。
ここが少し「実務っぽい」部分です。
孤児イベント(orphan)の救済:どのPillarにも属さない事実が出ても、必ず「その他(未分類)」として出力します。人間(プロフェッショナルたち)がやると、実は、ここが一番落ちてしまいます(これは、事件や相談の解決に不要・関連性がないから、というドライな理由なのですが、当事者の感情的には大切だったりするため、後で一番揉めます)。
整合性ゲート(validate):参照しているイベントIDが存在するか、証拠ID形式が崩れていないか等を、生成前にチェックします。壊れた入力で“それっぽい出力”を出すのが一番危ないので、その場合には、入口で止めてしまいます。
5. 実は、昔から「書いたものだけが残る」仕様
ここは、古典が一番端的です。
“Verba volant, scripta manent.”(言葉は飛び去るが、書かれたものは残る)
そして、もう一つ。これはAPI仕様の宣言みたい。
“Da mihi factum, dabo tibi ius.”(事実を与えよ、しからば法を与えん)
口頭の熱量(音声・感情)は揮発してしまいますが、記録(ログ)は残ります。
ブラックユーモア寄りの例も述べておくと、中世の神明裁判(Trial by Ordeal)では、赤く焼けた鉄を持たせて、傷の治り方で有罪無罪を決める運用がありました。 (オックスフォードリファレンス)
今のシステムは、さすがに鉄は持たせませんが、「ログがなければ処理しない」という別の冷たさで動いています。
その現代の冷たさ(常識はずれさ、ヤバさ)を一行で言い当てた有名な言葉が、これです(ニューヨーク州の著名裁判官)。
“any prosecutor who wanted to could get a Grand Jury to indict a ham sandwich.” (大陪審は、検察官が望めばハムサンドでも起訴するだろう)
ハムサンドでも、ストーリーが先に走れば処理される。つまり、相手(検察や敵対者)が一方的にストーリーを構築し、こちらに反証する「事実(Fact)」がなければ、無実のハムサンドですら犯人に仕立て上げられる。それがシステムの仕様なのです。
だからこそ、こちらは「事実のログ」を先に出して、ストーリーを固定しに行く必要があります。ここは感情論ではなく、プロトコルです。
本パッチは Public Beta ですが、利用料は 3,000円(税込3,300円) です(サブスクとか面倒なものじゃなく、利用の都度、としています。)。
理由はシンプルで、裏側でモデルのAPI利用料等の変動費がそのまま発生し、無料配布にするとサービス側が先に落ちてしまいます。ベータとは品質の話であって、コストがゼロになる話ではありません。
「時間を買う」か「自力で前処理をやる」かは、各自の判断に委ねます。
6. Release Note:本日公開しました(Public Beta v0.9)
このツールは、あなたの感情を否定するためのものではありません。
あなたの感情が生まれた現実を、システムが読める形にするためのインターフェースです。
アクセスはこちらです。
https://factsort.app
入力はぐちゃぐちゃで構いません。
ただし、出力は硬くします。創造性は入れませんし、孤児(取りこぼし)も作りません。
この一連の「当たり前」を、ユーザー側に降ろしていくのが、今回のパッチの目的です。
FactSort Lab. | System Architect
