短編小説|ウーロンとムギ
いつか猫を飼うのなら、2匹欲しい。名前はもう決めてあります。ウーロンとムギ。理由はかんたん、私が烏龍茶と麦茶が好きだから。ウーちゃん、ムーちゃんと呼びましょう。二匹は白黒の模様をした兄弟で、何をするにもべったり。夜になると私のベッドに入ってきて、2匹は身を寄せ合って眠るのです。
そんな妄想をよくするのですが、たぶん現実に猫を飼う日は来ません。あまり経済的な余裕はありませんし、それに昔実家で飼っていた猫の死が、私の中でいつまでも尾を引いています。悲しいばっかりの最期をもう一度看取る気にはなれないから、頭の中でウーちゃんとムーちゃんがいつまでも元気で仲良くしてくれれば、それで満足。
ある日の夜のこと。私はふと、彼氏にそんな2匹の話をしました。日課だった眠る前の電話の最中です。私の話を聞いて電話の向こうで泣いてしまった、感受性の豊かな彼。
「わかった、俺がめっちゃ長生きの猫を連れて来てやる。兄弟のな」
突然そう言って電話を切ると、それっきりまったく連絡が取れなくなってしまいました。まだ短い付き合いですが、深く考えずに行動してしまうタイプの人だな、というのが彼の印象です。そんな彼のことが心配でしたし、日課だった電話の無い日々はとても寂しかったけれど、本当に猫を連れて来てくれるんじゃないか、なんてどこか期待しながら連絡を待つ日々。
結局、彼の行動力は常人のそれではありませんでした。連絡が取れなくなって一か月ほど経った日のこと。私は彼の姿をネットニュースで見つけました。ナンバープレートのようなものを手に持ち、カメラを睨め付けるように見る彼の写真。これはいわゆるマグショットというやつでしょうか。
大陸に渡っていた彼は、二匹の赤ちゃんパンダを密輸しようとしてあちらの税関で取り押さえられてしまいました。たしかに白黒ですし、大熊猫と書いてパンダではありますが、長寿でしたっけ。それにどうやら一緒に密輸しようとした覚醒剤を売って、飼うためのお金を工面するつもりだったようです。もう何から何までどうしようもありません。
パンダに薬物の密輸とあっては、あちらの国ですから、おそらく極刑は免れないでしょう。ニュースサイトには、密輸されそうになった赤ちゃんパンダの写真も載せられています。まだ毛も生えそろわないピンク色のその子たちは、ぜんぜんパンダに見えません。私は手にしていたスマホを置くと、深いため息をしながらベッドに沈んでしまいます。
そのまま眠ってしまった私は夢を見ました。夢の中で目を醒ますと、ベッドの隣で寝ているのは彼。そのお腹の上で、ウーちゃんとムーちゃん、二匹の赤ちゃんパンダが身を寄せ合って寝ています。二匹の重さのせいで時折苦しそうな寝息を立てる彼を見て、私は幸せな気持ちになりながら、再び目を閉じるのでした。
