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鎖上に芽吹く意識達 EOC : Evmos On Chain:1部:4章-3話

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=== STORY BEGIN ===
「メロンが1つ、メロンが2つ、メロンがいっぱいだぁ。ちがった、おっぱいだぁ」

うわごとのように同じ言葉を繰り返すクレセントは、すっかり戦闘不能といった様子でソファーに横たわっていた。額には氷嚢が乗せられ、さっきまでの騒がしさが嘘のように、その体はぐったりとしている。もっとも、口だけは元気そうだった。

「致命的な一撃を食らったばかりに」
「おかしい幼馴染を亡くしてしまったわ」

ネルがわざとらしく肩を落としてみせると、すぐ横にいたニトロが呆れたように声を上げた。

「まだ、亡くなっていないでしょ!」
「しかも、まだ、友人って言ってもらっていないなんてちょっとかわいそうよ」

その言葉に、ソラナはほんの少しだけ目を丸くする。だが、すぐにいつもの落ち着いた表情へ戻り、品よく首を傾げた。

「ソラナちゃん、あなたは寛大なのね」
「ありがとう」
「おかげで、私も救われるわ」

「?」
「この位どうってことないですわ」
「持つものの義務といいますか」
「それでも、むやみに誰にでも触らせるものではないですが、言われ慣れてはいます」

さらりと返すその声音には、怒りよりも諦めに近い慣れがあった。ソラナにとっては、こうした視線や言葉は珍しいものではないのだろう。だからこそ、過剰に反応することもない。ただ、線引きだけははっきりしていた。

「思ったより、ソラナちゃんが大人でよかったね。ネル姉ぇ」

「うん、助かったわ」

ニトロとネルが顔を見合わせて頷き合う。その様子を見て、ソラナは少しだけ眉を寄せた。

「ニトロもネルも大げさなのよ。この位、フォックスがこれまでにわたくしにかけてきた迷惑に比べたら大したことはないわ」

「あのー、フォックスって仮にもソラナちゃんがいた企業のトップだったんでしょ?」
「そんなに無茶苦茶だったの?」

ニトロの素朴な疑問に、ソラナは小さく息をついた。思い返すだけでも厄介な人物なのだろう。その顔には、諦めと疲労が入り混じった複雑な色が浮かぶ。

「話すと長くなるからかいつまんでいうわね」
「面白そうなスポーツを思いつくじゃない」

「うん」

「そうすると、直ぐにチームを結成してリーグ化して興行化するわ」
「マーケティングも整えた上でリリースしてくるわ」

「そこだけ聞くとすごく優秀な経営者の様な気もするんだけれど」

「えぇ、ただし、選手の都合はお構いなしでね」

「でも、そこは専業の方だから問題ないんじゃない?」

そこでソラナは、わざと間を置いた。聞き手が自分で気づくのを待つような、そんな沈黙だった。

「さっき言ったわよね。『新しいスポーツって』」

「あっ」

「そうよ」

そして、冷たくも鮮やかに真実を告げる。

「兼業の上で、やりなさい。業務命令だから」
「っていうわけよ」

「まさか、ソラナちゃんも」

「あたりよ」
「水中バレーの選手をやっていたわ。CTOをやりながらね」

「水中バレー!楽しそう!」
「でも、その兼業は微妙ね」

「微妙なものですか。わたくしの睡眠時間はその日から3時間を超えたことはなかったわ」
「彼の趣味が終わるまでね」

淡々と語られる内容の重さに、場の空気が一瞬だけ静まる。聞けば聞くほど、それは笑い話で済ませていいものではなかった。

「確かに、それは横暴ね」
「でも、それならば解任すればよかったんじゃない?」

「いえ、ところがそうもいかなかったのよ」
「わたくし以外の取締役たちからの受けがいいの」
「そして、仕事も先ほど言ったように全てそつなくこなすの」
「その上で、趣味に走るから質が悪いわ」

「なーるほど」
「ほぼ、クレセントさんと同じだね」

「クレセントも、そうなの?」

ソラナが視線を向けると、ニトロは「それなら」とでも言いたげにネルへ話を振った。こういう説明役は、どうやらネルの担当らしい。

「それについては、ネル姉ぇの方が詳しいでしょ、教えてあげて」

「うーん、クレセントはね。こと研究に関してはとてもまじめというか、凄いのよ」
「私のシールドあるでしょ」

「ええ、あのあらゆる方向にも即座に展開可能なラウンドシールドね」

「そう、それなんだけど。開発者は彼女なの」
「他にも、対ボット用戦術兵器や戦路兵器、果ては太陽まで彼女が関わっているわ」

「太陽!!?」
「そういえば、基地ではなしていましたわね」

「ええ、太陽は、このGNO-LANDでは意識体の手によって造られたものなのよ」
「それも、高度な科学技術を持ってして」
「それらの原理を全て構築したのが、彼女よ」

ソラナの目が、今度こそ本当に驚きで見開かれた。先ほどまでただの変人だと思っていた相手に、世界の根幹へ関わるような実績が積み上がっている。その落差が、余計に信じがたかった。

「人は、見かけによらないものね」

「それは言ってあげないでおいて」
「あれでも、傷つきやすい性格なのだから」

「ホント!?」

「ええ、私がバレンタインの贈り物を送るのが3日おくれただけで寝込んだ程よ」

「豆腐メンタルね」
「って、あなた達そういう関係だったのね」

「お恥ずかしながら」

「いいわよ。別に」

そんな話をしているうちに、ソファーに沈んでいたクレセントが、のっそりと身を起こした。寝起きの顔はぼんやりとしているが、どこか満ち足りてもいた。

「んーーー、よく寝たわ」

「やっと起きたわね」

「おはよう。ネル」

「おはよう、じゃないわよ。急に倒れるんだから」
「まぁ、あの一撃を受けたら、あなたならああなるのは必然だったわね」

「ふぅ、流石、私のパートナー、そして幼馴染。理解しているわね」

「ええ、ソラナちゃんが聞きたいことがあるみたいよ」

その言葉に、ソラナは姿勢を正した。ここから先が、自分にとって本題なのだと、その表情が語っている。

「ネル、ありがとう。わたくしが聞きたかったことがあるのを覚えておいてくれたのね」

「もちろんよ。それと、私のことネルって呼んでくれったのね。ありがとう。ソラナ」

「慣れただけよ」

つれない返事のはずなのに、どこか柔らかい。ネルもそれをわかっているのか、嬉しそうに笑った。

「クレセント、太陽を造ったってどういうこと?」
「それと、この世界について教えてほしいのだけれど」
「わたくし、ここの世界の住人ではないの」

クレセントは、その問いを受けてすぐには答えなかった。いつもの軽薄そうな笑みを引っ込め、少しだけ真面目な目になる。

「んー、それは話せないわね」

「何故なのですか?」

思わず一歩詰め寄るソラナ。その目には、知りたいという意志が真っ直ぐ宿っていた。

「物事には、話すべき場所というものがあるわ」
「説明をするのならば然るべき場所で説明する方がわかりやすいのよ」

「クレセントさんが、まともなことをいっている」

「あのね、私だって、きちんとまじめになるときはあるわよ。ニトロちゃん」
「なので、私のラボに来てくれるかしら」
「そこで説明するわ」

「いつならば、大丈夫かしら?」

「うん、丁度、明日なら空けることが出来るから、そこで説明しましょ」
「ネルも来るわよね?」

「私は、明日は難しいわ」
「明日は、ボット掃討の作戦があるわ」

「あなたが行く必要ある?」
「インジェ君たちに任せるわけにはいかないのかなぁ」

「難しいかな」
「巨大ボットを含んだ増殖したボットの掃討作戦だから」

「それは、あなたの力が必要ね」

ネルはあっさりと言うが、その表情には現場の緊張感が滲んでいた。どうやら軽い任務ではないらしい。

「代わり、ニトロをつけるわ」
「ニトロ、、行ってくれるわよね」

「ネル姉ぇ、わかったよ!」

「ありがとう」

「どうして、わたくし一人ではだめだったのかしら?」

ソラナが少しだけ不服そうに言うと、ネルは呆れ半分、心配半分といった顔をした。

「ソラナ、あなた、自分が戦闘能力が全くないことを自覚しているかしら」
「ここは、内縁部だけれど、ボットが出ないとは限らないわ」

「過去の事件では、急なボットの出現で被害を披った事があるわ」

「クレセントは?」
「戦えるのではなくて?」

「私は、近接戦闘が苦手なのよ」
「だから、ちゃんと任せられるボディーガードが欲しいのよ」
「きちんと信頼できる人でね」

「それにね。ソラナちゃんだって、一人で聞くのも心細いでしょ。誰かいた方がいいわよね」
「そういうことよ」

「クレセントさん、結構考えているんだね」

「みんな、私のことをなんだと思っていたのよ」

「「「研究のできる変態!!」」」

三人の声がきれいに重なった。

「ひどいわぁーー!!」

そのままクレセントは泣き真似をしながら走り去り、屋外へと飛び出していってしまった。背中だけ見れば、なかなかの悲壮感である。

「ねぇ、追わないでいいの?」

「大丈夫よ。そのうち立ち直って戻ってくるから」

「幼馴染の間柄ですなぁ」

「まぁね」
「そういうものなのかしらね」

誰も本気で心配していないあたり、このやり取りは日常茶飯事なのだろう。

「さて、お話しもひと段落したことだし、食後のデザートとしましょう」
「きっと、紅茶とデザートの香りがしたら、戻ってくるわよ」

そう言いながら、センチネルたちは手際よく用意に取り掛かる。焼き菓子の甘い香りと、茶葉のふくよかな匂いが部屋に満ちていく。その予言は見事に的中し、しばらくしてクレセントは何事もなかったかのように戻ってきた。

その夜、温かな布団にくるまって、ソラナは寝床についた。知らない天井、知らない空気、知らない世界。それなのに、妙に人の気配だけは温かい。

「まさか、本当に戻ってくるとは思いませんでしたわ」

「だから、言ったでしょ?いい香りがしたら戻ってくるって」

「人のことワンちゃんみたいに言わないでくれるかしら!」

「でも、美味しかったでしょ?」

「美味しかったです」

「うん、素直でよろしい」

「ニトロって時々、お姉さんみたいね」

「ソラナに言われるとくすぐったいよ」

「そうかしら」

「そうそう」

「ネルは?」

「ネル姉ぇなら、もう寝ているわよ、ほら」

視線の先では、ネルがすっかり夢の中だった。口元をゆるめ、あどけない寝言まで漏らしている。

「むにゅーーー」
「むにゃむにゃ。いい気持ち」
「おにゃかいっぱい」

「えっ!うそ。寝言!しかも、可愛い!」

「ネル姉ぇは、可愛いんだよ」
「ネル姉ぇも、眠ってしまった事だし、私達も寝ましょう。もう、遅いのだから」

しかし、ソラナだけは眠れなかった。

眠れないですわ。

心の中でそう呟き、そっと布団を抜け出す。足音を忍ばせて廊下へ出ると、そこには先に人影があった。

「眠れないんだね」

「えっ、ニトロ。なんでいるの?寝たんじゃないの?」

「寝ていたよ。でも、ソラナが布団から出た音で起きちゃった」
「ソラナ、眠れない?」

「眠れないわ」

「うんうん。わかるわ。いつもとは異なる場所での睡眠。なかなか寝付けないよね」
「こういうときは、少し外気に当たった方が眠れるの」
「私のとっておきの場所に案内してあげる!」

「とっておきの場所?」

「そう!」
「ネル姉ぇでも招待したことないんだから!」

「いいの?」

「いいわよ。なぜか、ソラナには、そんな感覚を感じるの」

そう言って、ニトロは自然にソラナの手を引いた。その手は小さいのに、驚くほど迷いがない。

「ついて来て」

案内された先は、扉も窓もない行き止まりだった。こんなところに、とソラナが怪訝そうに眉を寄せた、その瞬間だった。ニトロがコントラクトを紡ぎ、トランザクションを放つ。すると、何もなかったはずの壁に、最初からそこに存在していたかのように扉が現れた。

「気配も何も感じなかったわ」

「それはそうよ。これ、私の得意技!」

「さあ、行きましょう、ソラナ」

扉の向こうには急な階段が続いていた。ほとんど垂直と言っていいほどの傾斜で、もはや梯子に近い。息を整えながら登っていくと、三階ほどの高さで行き止まりの天井板へ辿り着く。

「ニトロ、何もないんだけれど」
「ひょっとしてここも?」

「もちろん!」

ニトロが再びトランザクションを放つ。すると、天井に窓が浮かび上がり、静かに開いた。

「行こっ!」

先に窓を抜けたニトロが手を差し出す。ソラナはその手を握り、体を支えながら外へと身を出した。

次の瞬間、彼女の視界いっぱいに光が広がった。

「うそっ!」

満天の空に散りばめられた星、星、星。
その無数のきらめきが、一本の大きな流れとなって空を横切っている。まるで川だ。だが水ではない。太陽の光を受けた水面の反射のような輝きが、すべて星そのもので出来ている。

「綺麗、なんて言葉すらいらないわね」

「うん。そうだよ!」

二人は並んで腰を下ろし、ただ空を見上げる。風は冷たい。それでも、この景色の前では寒ささえ遠のいていくようだった。

「てっきり真っ暗な空だと思っていたわ」

「でしょ!でも、真っ暗な空が多いのは本当よ」
「ただね。方向によっては、こうやってよく見えるところもあるのよ」

ソラナはその言葉を聞きながらも、もう星から視線を外せなかった。胸の奥を何かが強く揺さぶっている。理由はわからない。ただ、見ているだけで涙が頬を伝っていた。

「どうしたの?悲しいの?」

「ううん。そうじゃないの」
「でも、言葉にできないの」

「いいんじゃない。そういうこともあるよ」

ニトロはそれ以上、何も聞かなかった。ただ、ぱたぱたと揺らしていた足を止め、そっとソラナの隣へ寄り添う。寒空の下、伝わってくる体温は小さいのに、驚くほど確かだった。

あたたかい。

その温もりを感じながらも、ソラナの目は空の光に釘付けのままだった。

翌朝。

「おっはよー!ソラナちゃん!」

朝から全力で飛び込んできた声に、ソラナは寝起きのまま半眼を向けた。

「朝から元気ね。クレセント」

「そりゃーもうね。 ソラナちゃんと同じ空気を吸いながら寝たのだから、体中の細胞が喜んでいるのよ」

「よかったわね」

「あれ!?ソラナちゃんは朝から元気がないわね」
「いえ、元気ではあるけれど。不思議な感じ」
「これは、そう!ロマンスの予感ね」

「頭沸いているのかしら」

「頭が沸いている!ふふふ、そうよ。私、今日は頭の回転が絶好調なの!」

「しかも人の話しを聞いていないと来たわ」

そのやり取りを遮るように、キッチンからニトロの声が飛んできた。

「二人ともー、話し込んでないでリビングに来てー」
「朝ごはんにするよー」

「今行くわ」

上着を羽織って部屋を出るソラナの後ろで、クレセントがまだ何かと身支度に手間取っている。

「ちょっと、まって!まだ準備が」

「手際が悪いのね」
「わたくしより早く起きていたのに」

「ソラナちゃんの寝顔を見ていたら、あっという間に時間がたっちゃってた」

屈託のない笑顔だけを見れば、たしかに絵になる美女だった。だが、発言内容がすべてを台無しにする。

「朝っぱらから、残念な発言していないの」
「あなた、ぴしっとしていれば、美しいのだから」
「勿体ないわ」

「美しいだなんて!ソラナちゃんに褒められた!」

ぱっと顔を輝かせて、クレセントは嬉しそうに天井を仰いだ。

「とんでないで、もう、行くわよ」

「ちょ、ちょっと髪の毛の癖をまだ直してない」

「後で直しなさいな」
「ニトロを待たせないの」

リビングへ入ると、ニトロが待ちくたびれたように頬を膨らませていた。

「二人ともおそーい!」

「ごめんなさいね。ニトロ」
「ところで、ネルは?見かけないけれども」

「ネル姉ぇなら、仕事で朝早くに出かけたわ」

「わかったわ」

「何か、用でもあったの?」

「いえ、大したことではないのだけれど気になったことがあったから確認したかっただけよ」

「私でも確認できることかな?」

「ううん、大丈夫。帰ってきたら聞くから。そんな急ぎの用事でもないのだから」

朝食を終えると、クレセントはすっかり本日の案内役の顔になっていた。

「さて、朝食も食べたし!元気いっぱいね」
「さぁ、今日は、私の家へご案内」
「楽しみにしていてね」

そう言って車の用意を始めるクレセント。だが、運転席へ座ったのはニトロだった。

「えっ!ニトロが運転するの?」

「そうだよー。って、ソラナちゃんは知らないっか」
「クレセントさんは運転しないんだよー」
「いつもは、私か、ネル姉ぇが運転しているんだ」

「それじゃあ、来るときはどうやって来たの?」

「それは、運転してきたわ」

「?」

確かにおかしい。運転できるのに運転しない。その矛盾を前に、ソラナは怪訝そうに目を細める。

「ほら、自分より運転がうまい人がいたら任せてしまった方がいいじゃない」
「だから、自分以外の人と車に乗るときって、人に任せてしまっているの」

どうやら、できることと得意なことは別らしい。実際、ニトロの運転は驚くほど滑らかだった。加減速にも無駄がなく、車体の揺れすら感じさせない。

「ニトロって、器用ね」
「色々出来て凄いわ」

そう言葉を添えると、ニトロは少し困ったように笑った。

「そんなこと無いよ」
「寧ろ、私、特化したことがなくてさ」
「幅広く出来るのはいいけど、これだって私がやらないでも出来ちゃうことだし」
「私もネル姉ぇやクレセントさんみたいに特化したことが出来たらいいのだけれど」

「そんなこというものではありませんわ」

ぴしゃり、とソラナの声が飛ぶ。その強さに、ニトロは思わず背筋を伸ばした。

「わたくしは、付き合った時間こそ短いですけれども」
「それでもあなたの細かな機敏、そして心遣いに救われましたわ」

「それに」

「あなたの作ってくれた食事、あれはあなたしか出来ないものでしたわ」

「そんなこと」

「ありますわ」

ソラナは真っ直ぐ前を見たまま、しかし一言一言を丁寧に重ねていく。

「わたくし達、それぞれの好みを知らなければあの配置で、あの品を揃えることはできなかったはずです」
「まだ、あっていないはずのわたくしの事をネルからの事前情報だけで推測して、用意する」
「それは、もはや職人芸です」

「ありがとう、ソラナちゃん」
「そういってもらえると自信が持てるよ」

「ニトロは、自己評価が低すぎますわ」
「あなたは、すごく出来る人だとわたくし、思っています」

その言葉に、ニトロの横顔が少しだけ明るくなった。

「ねぇねぇ、私のことは?どう?どう?」

後部座席から身を乗り出してきたクレセントに、ソラナはじろりと視線を向ける。

「そういうところで、乗り出してくるところが子供っぽいとか、言われたりしないかしら?」

「んー、そうね!少女の心を持っているっていつもネルには言われているわ」

「よかったわね」

ソラナちゃん、クレセントさんに塩対応すぎるわ。

そう思いつつも、ニトロは口には出さない。

「そんな塩対応なソラナちゃんも、いいわ!」
「くぅーーー!」

「そこの変態、少し黙りなさい」

「ふぁい!」

敬礼まがいの仕草をしてみせるクレセントは、どこまで本気でどこからふざけているのか、本当に判別がつかない。

「あっ!そろそろよ。そこ」

都市部のゲートが近づくと、空気が少し張り詰める。ここでは遺法な存在が紛れ込んでいないかを確認するため、入域のたびにスキャンが行われるのだという。都市部に出入りする意識体はすべて登録済みで、登録のない存在がいた場合は警報が鳴り、警備隊が即座に対応するらしい。昨夜、センチネルから聞かされていた仕組みだ。

「反応しないわね」

ぼそりとソラナが漏らす。

「そりゃそうよ、だってあなたの情報は登録してあるもの」

「登録した覚えなんてないのだけれど」

「昨日、やっておいたわ」

「やられた覚えがないのだけれど」

「当然よ!だってあなたは寝ていたのだから」
「大丈夫、ちゃんと全身をスキャンしてサクっと登録したから、ものの数秒もかからなかったわ」

「心配しているのは、そこじゃなくて無断でされたことなのですけれど」

「んー、細かいことは気にしちゃダメよ」
「それに、こういうことは慣れが重要なんだから!」

「そんなことに慣れたくはないわね」

ソラナが冷たく返すあいだにも、車はなめらかに都市部へと入っていく。

そして、視界が開けた瞬間だった。

「うそ!こんなになっているの!?」

ソラナが目にしたのは、想像を遥かに上回る都市の姿だった。アラメダリサーチ本社と同等クラスの建物が、そこら中に立ち並んでいる。そして中央には、それらすべてを従えるように、一つの巨大な塔がそびえ立っていた。

周囲の建造物の何十倍もの規模。
高さに至っては雲がかかり、最上階が見えないほどだ。

遠目に見ても異様だった存在は、近づくことでさらに圧倒的な質量と威圧感を伴って迫ってくる。

「すごい」

それだけだった。
それ以外の感想が、しばらくは本当に出てこなかった。

「でしょ?私も帰る度にこれはないなーって思うくらい」
「ニトロちゃんも、そう思うでしょ?」

「はい、これはちょっと。というか大きすぎて」
「何のために作ったのか全く分からないくらいで」
「ひょっとしたら、統括のジノさんの趣味なんじゃないかって思うくらいの」

「ジノちゃんの趣味ね!いい感想してるね!」
「でも、半分はあたりかな」

「ねぇ、ジノってどなたのことをおっしゃっているのかしら?」

「そっか、ジノちゃんの事はまだ話していなかったね」
「ジノちゃんって子は、このGNO-LANDの代表みたいなものよ」
「GNO-LANDというブロックチェーンの意識体、それがジノちゃん」
「っていうと難しいように聞こえるけれど、やっていることは街の代表よ」

「でも、統括ってさっき言っていたような気がしますわ」

「そうそう、本人は代表って呼ばれるのは嫌うのよね」
「『代表じゃなくて、ボクの事は統括と呼んでくれ』ってね」
「だから、いつも、彼女の事は、統括と呼ぶのよ。みんなは」
「まぁ、私とかネル、ニトロは名前で呼んでしまうからあまり意味ないんだけれどね」

「と、話している間についたわね」
「ここの検問も抜けないといけないから、ニトロちゃん、そこで止めてもらえるかしら」

「はい」

車を停めた先には、透明なシールドが展開され、道を塞いでいた。物理的な壁ではないが、進入を拒む圧は十分にある。

「ここで、こうしてっと」

クレセントは近くの装置を起動し、自らをスキャンさせる。数十秒の処理を経て、シールドが静かに解除された。

「さぁ、いきましょ!」

再び車へ乗り込み、進むクレセントたち。ソラナは先ほどから気になっていたことを口にした。

「ねぇ、なんであの大通りから行かなかったの?」

クレセントがスキャンを受けて進んだのは、中央の正面ルートではなく、右手へ外れた細道の先だった。中央には大型車が何台も通れる広い通路があり、しかも検問らしいものも見当たらなかったのだ。

「それはね。ここからじゃないと中央にはいけないからよ」
「中央の大きい道、あったでしょ?」
「あそこは、第5階層までしかアクセスできないのよ」
「私のラボはその上、第六階層の一番上にあるの」

「いったい何階層あるのよ?」

「上が7層、下が7層の計14層構造よ」
「それぞれの層は、24の細かな階にわかれているわ」

「すごいわね」

「ええ、GINO-LANDが誇る英知が結集された場所、GNOタワーよ」

「ネーミングは、センスないわね。そのままね」

「そうね。そこは私も思うわ。もっと、バベルとか付ければよかったのにと思うわ」

「バベルじゃ、崩れちゃうでしょ」

「ソラナちゃん、するどーい!」

「まったく」
「で、この塔の内部、かなり広いけど、どうやってラボまで行くの?」
「このまま走っても地平線しか見えないんだけれど」

「そこは、これに乗ればいいのよ」
「ニトロちゃん、いつものルートでお願い」

「了解です」

ニトロがハンドルを切った瞬間、それまで透明だった空間に色が宿った。車一台分をすっぽり包み込む、奇妙な枠のような空間が現れる。クレセントがそこでトランザクションを放つと、車体はその内部へ固定された。

「何?これ」

「まぁまぁ、見てなさい」

次の瞬間、包み込んだ空間そのものが凄まじい速度で加速した。窓の外の景色は線のように引き伸ばされていく。にもかかわらず、体には一切の負荷がかからない。慣性が切り離されたような、不思議な移動だった。

数十秒。あるいは一分にも満たない時間。
景色が切り替わると、そこは先ほどまでの整然とした通路とは別世界だった。実験資材、測定装置、解析端末。至る所に研究の痕跡が並び、空気そのものにラボ特有の緊張感がある。

「着いたわ」

空間の包みがほどけ、三人は車を降りた。最寄りの扉を開けると、そこには意外にも大きなリビングのような空間が広がっていた。研究施設の無機質さと、生活空間の柔らかさが奇妙に同居している。

クレセントはソファーへ腰を下ろし、大きく息を吐いた。

「ふぅーー、やっと着いたわ」
「と、ちょっと待っててくれる?」
「ソラナちゃんは、コーヒーでいい?」

「ええ、それでいいわ。ブラックで問題ないから、ミルクと砂糖はいらないわ」

「ニトロちゃんは、いつものでいい?」

「はい」

「じゃあ、ちょっと淹れてくるから待っててね」

そう言って、クレセントは部屋の奥へ消えていった。

それにしても、広い部屋ね。
きっと応接室なのだろうけれど、無駄に広いわ。
それに。

ソラナは窓の方へ目を向ける。そこからは、GNO-LANDの景色が一望できた。高みから見下ろす都市の全景は、昨日まで外から見ていたものとはまったく違う表情を見せている。

やがてコーヒーの香りが漂い、クレセントが戻ってきた。カップを置くと、今度は真顔になる。

「さて、どこから話したものかしらね」

勿体をつけているのではなく、本気で整理している声だった。

「長い話しになる分には、構わないわ」
「その代わり、きっちりと聞きたいですわ」

「長い話しになる。か。そこはわかっているのね」

「ええ、だって、この世界の根幹に関わっているのでしょ?」

「なかなか鋭い感をしているわね」

「褒めても何も出ないわよ」
「で、まず、なぜ太陽を作ったのかしら?」
「いえ、そもそも太陽は作れるものだったの?」

「んー、それを説明するには、この世界の成り立ちについて先に話した方がよさそうね」
「ニトロちゃん、プロジェクターを起動してくれるかな」

「いいよ!」

ニトロは慣れた手つきで部屋の隅の装置を調整した。照明が落ち、部屋の中央に巨大な映像が展開される。浮かび上がったのは、一つの大陸だった。

「ありがとう、ニトロちゃん。ご褒美をあげるわ」

そう言って、クレセントがニトロをハグしようとする。だが、その腕は見事に回避された。

「むやみにやったら、セクハラですよ」

「ニトロちゃん、厳しい!」

「で、この大陸は何なの?」

ソラナが映像を見上げながら問う。

「これはね。GNO-LANDよ」

「見事なまでの平面ね。そして、大きな一つの大陸ね。GNO-LANDには、他の土地は無いのかしら?」
「これでは、まるで、球体の中に平面の大陸が1つ入っているみたいだわ」

投影された像は、まさにその通りだった。透明な球体の内部に、一枚の巨大な大地が収められている。天動説の地球図を思わせる、奇妙な構図だった。

「まるでも何も、その通りなんだけれど」

「えっ、ちょっと待ってくれる?」
「あなた達の宙域は全て、こういった星が存在しているのかしら?」

「宙域という言葉は、正しくはないわね。ここには、GNO-LANDしかないわ」

「???」

ソラナの表情に、明確な混乱が浮かぶ。だがクレセントは落ち着いて説明を続けた。

「異世界から来たというあなたの言葉を借りるのならば、あなたの世界とはそもそも作りが異なっているの」
「私達の世界は、これが全てなの」

「う、うん。わからないけれど、わかりましたわ。けど、納得していないところもあるから、聞いてもよろしいかしら」
「何故、あなた達は、平面の大陸以外にも星の在り方があるということを知っているのかしら?」
「普通、自分が立っている場所が全てだと思うわ」
「だから、自分たちの世界が、多様性の中の一つであることを自覚なんてできないわ」

その問いに、クレセントは少し満足そうに目を細めた。そこを聞くのか、という顔だった。

「そうね。かつてはそうだったわ。でも、それは昔の話し」
「今は科学が進歩したのよ。考え方もね」
「常にアップデートされ続けているわ」
「そして、科学は、客観的な観察をよしとするの」
「だから、そうじゃない可能性。それが否定しきれないものも『あったであろう可能性』として仮設に取り上げるの」
「私達の世界以外があり、その形が異なることもその一つ」
「これは、私達の世界の教育課程を修了していれば、誰でも習う内容なの」

「自らが存在する世界も、いくつかある仮設の内の一つに過ぎない」
「それを基礎教育に入れるなんて、かなり進んだ教育をしているのね」

「ええ、これは、GNO-LAND 統括のジノちゃんの意思でもあるの」

「ちゃんって」

「ああ、彼女はね。私とセンチネルの幼馴染なの。あっ、もちろん、公の場では、きちんと呼んでいるわよ」

そこは流石に空気読むわ、とクレセントは付け足した。

「ふーん」
「まぁ、いいわ」
「で、世界の成り立ちについて、教えてくれるかしら」

「あらかた昨日、センチネルから聞いた通りよ」
「折角だから、グラフィカルに表現して見せるわね」

そう言ってトランザクションを放つと、映像は滑らかに変化していく。

「まず、GNO-LANDは、リソースが無限にとれるジャングルがあったの」
「外縁部から、ここまで」

レーザーポインターが示した範囲は、驚くほど広い。

「大きいわね」

「ええ、GNO-LANDの70%の面積がジャングルだったの」

「ほぼじゃない!」

「そうよ」
「それで、残された土地に人々は住んでいたわ」

「ジャングルには、住まなかったのかしら?」

「ジャングルは、リソースの宝庫でもあったのよ」
「それが沼地の様に泥状で地表にあふれていたのよ」
「だから、とてもじゃないけれど住むことなんて出来なかったの」

「なるほどね」
「それで、食べ物はどうやっていたのかしら?」

「直接取り込んでいたわ」
「そもそも、既に生成された取り込めるリソースという形であったから、食べ物を採る必要がなかったというのが正確なところね」

「随分、効率的な生活様式だったのね」

「ええ」
「でも、私は今の生活の方が好きだわ」

「それは、なんでかしら?」

「食べ物がなかったら、ニトロちゃんの美味しい料理も食べることが出来なかったからよ!」
「そんなの味気ないわ」
「それと愛がないわ」
「ここ、大切よ」

「大切なのね。で、何故、今の様な生活様式になったのかしら?」
「いえ、なんで、このような生活様式にしたのか。かしら」

「理由は、簡単よ」
「ジノが創造主のいる空間を模して作ってみたいと言ったのが理由よ」

「何のためにそんな大掛かりなことをしたのかしら?」

「完全であることを知りたかった。そう、彼女は言ったわ」

「完全であること?」

「ジノは、意識体として自身の完全性を求めているのよ」
「それが、自分たちの存在するチェーンの安定性につながると信じているの」
「だから、『ブロックチェーン』を創り出した何者かがいる世界」
「それを模すことから始めたの」

「模すって、それを知る方法なんてあるの?」

「オラクルって聞いたことがあるかしら?」

「ええ、概要だけは」
「確か、外宇宙と通信する手段よね」
「でも、それで創造主の世界があったとして知ることなんて出来るのかしら?」

「出来るわ」
「ものすごく限定的だけれど、ノイズを消し去ることで重要な情報を拾うことが出来たのよ」

「その結果、彼らが存在する空間の概要を知ることが出来たわ」
「まず、太陽系」
「太陽という存在を中心として、その周辺を星々が周期的に回っている」
「その星の内の一つに、私達の創造主が住んでいる世界があることがわかったわ」

「すごいじゃない!」

「ええ、これはとても褒めていいことよ」
「もっと、褒めなさい」

「そういわれると褒めたくないわね」

「えーー、ほめてーーー」

「いやよ」

「けちぃー」

隅に腰掛けていじけるクレセントを見て、ソラナは深くため息をついた。本当に面倒くさい。しかし、話を先へ進めるために折れるしかない。

「はぁ、わかったわよ。偉いわよ。あなたは」
「世界の成り立ちの一端を解明してしまったのだから、間違いなく天才よ!」

「でっしょーー!!」

「クレセントさん、ものすごくうざいです」

「ひどいわ!ニトロちゃん」

ニトロの一言に、ソラナは思わず笑いそうになる。そしてその勢いのまま、パシンとニトロにハイタッチした。

「そこ、ちょっとうるさい!」

「大本が良く言うわね」

「ソラナちゃん、厳しい」

「当然のことをいったまでよ」
「それに、もう立ち直ったでしょ?あまり落ち込んでいると今度は、蹴りを入れるわ」
「それで、創造主が住んでいる世界を模すことまではわかったわ。ただ、今までの情報をもとに考えたら、どう見たって模せていないわよ」
「だって、GNO-LANDはそもそも、彼らの住む世界とは形が違うでしょ?」

「ええ、確かに違うわ」
「彼らの住む世界は、太陽を中心とした世界」
「私達が再現したのは、地上を中心とした世界」
「だから、創造主の住む世界のある地点の宇宙に対する認識モデルを起用することで、模したことにしたの」

「ある地点?」

「そう」
「ある地点よ」

「彼らの世界では、昔、太陽が地球を回っていたと考えられていたの」
「天動説」
「そう、彼らの呼び方では言われているの」

「その『天動説』を模したとこで、彼らの世界を模したことにはならないんじゃなくて?」

「いえ、そんなことはないわ」
「本来あるべき姿を模すことはできなかったかもしれない」
「でもね、彼らの思考がこの世界の元であるブロックチェーンを創造する源になったのよ」
「ならば、彼らの思考が辿ってきた歴史にも意味はあるわ」
「思考の中のある地点、ある仮説を模倣すればいいのよ」
「彼らの思考した世界を模倣することで、私たちの世界は彼らが認識していた世界に近付き、完全性が高まる」
「そう、私とジノは考えているの」

「実際に、以前は、一部の意識体以外には感情の起伏が存在しなかったのよ」
「そこに、多様な感情が芽生え始めたのは太陽の創出があってからなの」
「だから、その点からも十分に成果はあったと言えるわ」

「彼らの認識した世界を模したから、GNO-LANDの住人の精神性も向上して、結果、完璧に近付いたという理解でいいのかしら?」

「その認識で、間違いないわ」

「じゃあ、完全性を獲得したってことなの?」

「いえ、それは現状を見て分かる通り、まだよ」

「じゃあ、模すというのは、よい試みではなかったということなの?」

「いえ、模すというのは、良い試みよ」
「少なくとも、精神的な成長をもたらすという実績を上げたわ」
「ただ、そこから進展がないのも事実なの」
「だから、彼らの文化、そして、その遷移を真似る事にしたのよ」
「いえ、真似なければ成り立たなくなっていたわ」

「それは、何かしら?」

「農業よ」

「リソースのほとんどを使用し、太陽を創出したのはいいのだけれど、今度は、リソースを得る手段が無くなってしまったわ」

「リソースは尽きないんじゃなかったの?」

「尽きないわ」

「だからこそ、太陽のもとにしたのよ」

「??」

「尽きないリソースごと、太陽にしたってわけ」

「??」

「わからないかもしれないけれど、事実よ」

ソラナはこめかみを押さえた。理屈が飛躍しているようにしか聞こえない。だが、ここで引っかかっていても先へ進めないこともわかっていた。

「いいわ、今はそれで理解するしかないのでしょ?」
「その上で進めるわよ」
「農業が成立し、そこからリソースを摂取するようになった」
「そして、都市部が出来き、工業、その上で情報産業が発達するようになった」

「これらは、創造主の世界の模倣なのよね」

「ええ、そうよ」

「そこまでして、どうやって完全性を導こうとしているのかしら」

その問いを待っていたと言わんばかりに、クレセントの目が輝いた。

「よくぞ!」
「よくぞ、それを聞いてくれました!」

「なっ、何よ。その大声は!」

「これを話したかったのよ」

指を鳴らすと、画面はいったん暗転し、次の瞬間には新たな図が展開される。無数の点と線がGNO-LAND全域に張り巡らされ、最後には中心部のGNOタワーへ集約していた。

「これは?」

「人工知能よ」

「人工知能!?」

「そう、人工知能。我々意識体は、それぞれが精神を持っている」
「その活動を人工的に幅広い範囲で行えるのが、この人工知能の特徴なのよ」

「まるで、GNO-LANDの脳のようね」

「ソラナちゃん!すごくいいわ!そうなのよ。GNO-LANDの全ての情報を統合して、考える様に出来ているの」
「すごいでしょ!」

だが、その興奮に対してソラナは沈黙した。しばらくしてから、ゆっくりと息を吸い込む。

「どうしたの?」

「ほんっとーーーに、これは凄いわ!」
「あなた、やるわね!!」
「本物の天才よ」

「」
「はい」

勢いよく賞賛され、今度はクレセントの方が押されていた。

「なるほどね」
「再現した情報を人工知能に投げかけて答えはそこから得ると」
「つまりはそういうことでしょ?」
「そうしたら、彼らの世界から得られる完全性の共通点、解決方法にたどり着けるというわけね」

「ソラナちゃん、それ、正解」
「その通りよ」

ぽけーっとしながらも、クレセントは頷く。

「何、ぽけーっとしているの?」

「あなたがすぐに答えにたどり着いてしまったことに正直驚きを隠せないわ」

「驚き?当然よ。そのくらい、順番を追えばわかるわ」
「そうでなきゃアラメダリサーチのCEOなんてできないわよ」

自慢するでもなく、ただ当然の事実として言い切るソラナ。その自負には確かな実力が裏打ちされていた。

「でも、そうするとわからないのよね」

「何か、不明点があるのかしら?」

「ええ、わたくしがこの世界に飛ばされたとき遭遇した存在」
「ボットというのは、なぜ、いるのかしら?」

その問いに対してだけは、クレセントの表情がはっきり曇った。

「それは、わからないわ」
「いつからか現れ、私たちに敵対するものとしてあり続けているわ」
「その発生原因や、詳細は不明」
「ただ、霧の中から現れ、斃されれば、塵と化してしまうものなの」
「言葉だって、通じない」
「だから、詳しいことは、わからないのよ」

「ボットについて、対策できるなんて、昨日は言っていたけれど、あれは?」

「彼らがどこから来て何の目的で襲ってくるかはわからないわ」
「だけど、体の構造を知る事で、何が弱点かはわかるのよ」
「だから、暫定的ではあるけれど対策できるって意味よ」

「それでも、十分凄い気がするわ」

「そう言ってもらえると有難いんだけれど、彼らに関しては未知の部分が多すぎるのよ」
「主に動機」
「そこがわかれば根本的な解決が出来るのにね」
「惜しいわ」

「そこは、まだ、満足していないわけね」

「満足しないわ。だって、明確にわかる敵性体がいるなんて、完全な世界を目指しているのにおかし過ぎるもの」

「あなた、それ、とらわれすぎていないかしら」

「何を?」

「完全である世界に」

「それは、そうよ」
「だって、私たちがいる世界は、ほんの僅かな偶然で生まれた世界かもしれないのよ」
「偶然で生まれたものが、偶然で滅びるのは、自然でしょ」
「そうならないように、完全性を高める」
「その為に研究しているのだから」

その声はいつになく真剣だった。ふざける余地のない、剥き出しの信念。

「それって、大切なことなの?」

「大切よ!」
「ネル、ニトロちゃん、ジノ、そしてソラナちゃん。私は、私が好きな人に会えたことに感謝しているわ」
「だからこそ、今ある世界が偶然に滅びて欲しくないの」
「だから、完全を求めるのよ」
「理解するしないは、別として、これは、私の信条よ」

その言葉を聞いて、ソラナは一瞬だけ黙った。そこには理屈を超えた重みがある。

「信条と言われてしまったら、言い返せないわね」

「でしょ?」
「だから、私にとって、あのボット達が何の為に現れたのか確かめること。彼らが何をしようとしているのかを知る事は重要な事なのよ」

「戦場にネルと一緒に出るときがあるのはそういう理由なのね」

「なぜ、それを!」

「昨日、風呂上りにネルに聞かされたわ」
「あなたが戦場に出てくれるのは助かるけれど、心配だから体術の一つや二つ練習してって愚痴っていたわよ」

「それはーー」

「うん、いいの。わかっているわ」
「あなたが運動神経が悪いことは知っているから」

「なんで、そんなこと知っているのよー!!」

「ネルが言っていたわ」

「ネルー!!」

騒ぐクレセントを横目に、ソラナは冷静に続けた。

「で、これは、わたくしからのアドバイス」
「戦場に出るならば、防御方法くらい確立しておきなさい」
「遠距離が無双出来るからといって、至近距離で不意打ちされたら何も出来ないで死にました。じゃ、話にならないわ」

「手厳しい」

「当然よ」
「だからといって、あなたに体術は求めないわ」
「シールドを貼ればいい話しでしょ?」

「シールドのトランザクションは、無効化されてしまうわ」
「だから、実シールドじゃないといけないのよ」

「ならば、現物を持てばいいじゃない」

「体術はできないって」

「こんな感じに使えばいいのよ」

そう言って、ソラナはNFTに素早く図案を書き込み、クレセントへ渡した。そこには、トランザクションで複数の力場を発生させ、その場にシールドを設置する案が描かれていた。しかも固定ではなく、可動式。相手の攻撃軌道に合わせて配置を変え、防御面そのものを運用する設計だ。

クレセントは図を見つめ、次第に目を見開いていく。

「なるほど!これならやれそう」

「でしょ?感謝しなさい」
「わたくしがアイデア元よ」

「ありがとう、ソラナ」

「どういたしまして」

ソラナは小さく顎を上げ、いつものように少しだけ得意そうに言った。だがその横顔は、先ほどまでよりもどこか柔らかく見えた。ここが異世界であろうと、この人たちが奇妙であろうと、少しずつ、確かに関係が出来始めている。そんな空気が、ラボの静かな応接室に満ちていた。


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#人工知能
#太陽を作った女

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"title": "鎖上に芽吹く意識達 EOC : Evmos On Chain",
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"異世界SF",
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"core_themes": [
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"setting_summary": "ソラナは異世界GNO-LANDに滞在している。GNO-LANDは透明な球状空間の内部に平面大陸が存在する特異な世界であり、過去には無限リソースのジャングルに覆われていた。現在は人工太陽・農業・都市・工業・情報産業を備えた文明圏へ変化している。世界の完全性を高めるため、創造主の世界の歴史や認識モデルを模倣している。",
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