カナダ在住のわたしが日本の会社に雇われた経験
ある時、日本の会社(仮に「おおやしま社」とします)から、一月いくらという一律料金の給料で長期の仕事をして欲しいという打診があり、正式な契約書をお互いに作り仕事を始めました。
契約書には、業務の量が増えたら料金は上げるという項目もあり、日本にある企業なので、わたしはカナダの業務時間内で仕事をすることで合意しました。おおやしま社の目指すところはわたしもとても共感ができて、日本の将来のためにも良いと思ったので、ぜひカナダの地からお手伝いしたいと心から思っていました。
初めの一年位の仕事量は、一月の給料でわたしが得したと感じられる量でした。ネット環境が整っていれば仕事ができたので、休暇中でも働きました。
二年目の夏に業務の量も増えてきたので、担当者が出張でカナダに来た際に給料をあげてくれないかとお願いしました。そこで言われた言葉は、「上と相談して検討する」でした。検討するという言葉は、本当に上司と話して賃上げを考えるという意味だと思っていました。ところが何ヶ月経ってもなんの連絡もなし。メールでその件について聞いても、繁忙期でどうのこうのという返答があるばかり。何度もメールで聞いたのですが、のらりくらりと答えは濁されました。
そうこうしているうちに、さらに仕事の量は増えます。
三年目の夏に担当者がカナダへ来た時に、面と向かってしっかりと目を見てこの件について聞いてみました。そうすると、わたしの視線が怖いのか目を逸らしながら、「いや、仕事は増えてはいるけれど従業員の昇給はなかなか難しくて。上司とも話しているのだけど」と一応上司と話していると言います。それから、「日本ではあなたほどこちらの事情に詳しく、そしてきちんと仕事をしてくれる方が見つからないし、カナダ人は日本語が拙すぎるし、ユーカリさんには本当に助けられているのです」とわたしの業績をほめる。さらに、「あと二年したら、東京の〇〇ホテルでカナダ大使を招待してこのプロジェクトの披露宴を行います。その際には、取引先の社長さんとユーカリさんも本社持ちで招待いたしますから」などと、ご褒美を目の前にちらつかせてきます。日本にタダで行けたらいいなとは思いましたが、とにかく昇給がないままこの量の仕事を続けていくのは無理だと伝えると、「分かった、必ず2ヶ月後には上げられるように努力してみよう」とやっと言ったので、それを信じました。
ですが、出張後にはこの会話はなかったことになっているらしく、わたしがメールで昇給について聞いても完全にスルーするようになりました。これが日本の会社だからなのか、単にその人が狡猾なだけだったのか、わかりません。
結局、このまま搾取され続けることに嫌気がさしたので、三年目が終わろうとしている2020年3月の中頃、それまで何度も業務増加に伴う昇給について相談したのにスルーされたことを理由にあげ、「このような不当な扱いを受けながら、この仕事を続けることはできません」とメールを書きました。日本では真夜中の時間帯だったのに即返信があり、わたしを引き止めようとしていましたが、そのメールの返信は待たせてから返信すればいいだろうとしばらく放っておきました。契約書には、辞める場合には書面あるいはメールで知らせるとだけあり、辞める予定の何週間前に知らせねばならないなどとは記されていなかったので、メールで連絡するだけで問題はなかったのです。
すると次の日に、カナダにあるおおやしま社の取引先が別の企業に買収された、との連絡が取引先から来ました。これは、もうさっさとトンズラしたほうがいいという天からのお告げだなと思い、おおやしま社にわたしの心変わりの可能性はゼロであることと取引先から来た連絡内容を伝え、わたしは金輪際いっさい関わらないともメールに書きました。「せいぜい頑張って」と思いながら。
そして、そのすぐ後にコロナでさまざまな規制が始まりました。
その後、おおやしま社がどうなったかは、知ったこっちゃありません。契約書に書かれた約束を無視され安い料金でこき使われたので、契約違反として訴えてやろうかとも思ったのですが、きっと弁護士料のほうが高くつくだろうと思いやめておきました。そのような扱いを受けても3年も続けたのだから、感謝して欲しいものです。おそらく、日本へ招待するということもでまかせだったものと思います。たとえ本気であったとしても、コロナが始まっていたので、きっとキャンセルになったでしょう。
このような日本企業が、日本の労働者を30年間もなかなか上がらない賃金で飼い慣らして使ってきたのだろうな、と実感した出来事でした。
