自分を見つける『ルーツの旅』札幌
2025年7月31日〜8月2日 北海道・札幌へ行ってきました。きっかけは、伯父・カツさんの何気ない一言。
「札幌にもおいでよ。案内したいところがあるんだ」
『ルーツの旅』の始まりです。
札幌へ行く理由
4月の下旬、横浜にある父のお墓を訪れてくれたのは、札幌に住む81歳の伯父・カツさんでした。
『他にも立ち寄りたいところがあるから』と、日帰りで3か所を回るというスケジュールを聞いて驚きます。
帰り道、にこやかにカツさんが告げました。
「札幌にもおいでよ。案内したいところがあるんだ」
その言葉を聞いたとき、生前に父が話していた「札幌駅のそばに住んでいたんだ」という言葉を思い出しました。
(カツさんは、きっとその場所を教えてくれる。)
そう思いながら眺めた飛行機の窓の外。パッチワークのように広がる北海道の大地は、どこか見慣れた風景のようで、不思議なあたたかさを感じたのです。

カツさんと辿る札幌の記憶
翌朝、JRタワーホテル日航札幌のロビーでカツさんと待ち合わせしました。
「おはよう!」
さっそうとロビーに現れた笑顔のカツさんが手にしていたのは、六花亭のお土産。白髪に日焼けした肌が健康的で背筋もまっすぐ。とても80代とは思えません。
すでに今日の予定が頭に入っている様子で、手際よく説明してくれます。
私のスーツケースを軽々と引きながら、「大丈夫、大丈夫」と笑うカツさんに続き、札幌駅の構内を歩いていきました。
2泊目のホテル「三井ガーデンホテル札幌」へ荷物を預け、街歩きのスタートです。

札幌駅近くの交差点で足を止めたカツさん。
「昔は国鉄の官舎があったんだ」
「このへんで魚を焼いてたんだよ。七輪でね」
コンビニが入るビルの前で、思い出を語りはじめました。
札幌駅で弁当を売っていた祖父母は、始発から終電まで働いていました。お昼は一度自宅に戻って食事を取り、また駅へ。小学生だったカツさんは、弟(=私の父)の面倒を見ていたそうです。「札幌駅のこんな近くに住んでいたんですね」とつぶやくと、
「そうでしょ? シティーボーイだったの」
と、おどけて笑うその表情が、父に重なりました。
北海道大学植物園で記憶と出会う
次に向かうのは、濃い緑に包まれた北海道大学植物園。入口をくぐると、きらきらした木漏れ日とざわーっと木々を抜ける風が心を包み込みます。

「これ何かわかる?」
博物館前の芝生で立ち止まり、地面のくぼみを指差すカツさん。
「原住民が住んでた跡なんだよ」
看板もなく、知らずに通り過ぎてしまいそうな場所です。
「くぼみに寝そべって観光客に笑われたんだ」

子どもの頃のエピソードを聞きながら訪れた『バラ園』では、バラの代わりに満開の紫陽花が迎えてくれました。


草本分科園でカツさんが『見せたい』と言っていた場所のひとつは、『トリカブトコーナー』
「いろんな種類があるでしょ?」
多様なトリカブトが並び、カツさんが目を輝かせて解説してくれます。
(人って、危ないものにこそ惹かれるのかも)
そんなことを思いながら後についていくと、

大きな水芭蕉の群生に目を奪われます。

建物から感じる古き良き札幌
植物園を出て少し歩くと令和の大改修を終えたばかりの『赤れんが庁舎』が見えてきました。
「反対側って、あまり見ないでしょ?」
東西南北、そして、春夏秋冬。それぞれの表情を見せる姿は、今やすっかりフォトスポットになっているようでした。

カツさんに続いて歩いていくと、新しいビルの合間にタイルが使われたレトロな建物がちらほらと現れます。無機質な現代建築の中に、ぽつりと残る趣ある外観が、なんとも印象的。カツさんは、以前建築資材の会社に勤めていたこともあって、建物にも詳しいのです。
「あれ、道警だよ。入口が奥まってるでしょ? デモ隊が入りにくいように設計されてるんだ」
指差した先にあったのは、札幌中央警察署。
丸い窓と、テラコッタタイルの外観がなんともおしゃれで、言われなければ警察署とは思えないほどデザイン性のある外観。
繰り返し手を入れながらも当時の意匠を守り続けるその姿に、「古いものを活かしながら残す」という札幌らしい価値観を見た気がします。

デパートの食堂で味わう“昭和”の時間
ランチは、カツさんもよく利用するというデパートの食堂へ。
私は冷たいそばを、カツさんは欧風カレーを注文。
食後にカツさんがブリーフケースから取り出したのは、何枚かの古い写真でした。そのうちの一枚には、祖父と若き日の父が並んで写っており、背景には訪れた植物園の博物館が映っています。
同じ場所で時を超えてつながる記憶に、胸の奥がじんわりと熱くなりました。

もう一枚は、北海道新幹線の延伸にともない、いずれ取り壊される駅舎の写真。札幌に出てくる前に一家が暮らしていた地域です。

「新幹線はあと10年後、ぜひ見たいものだ」
すこし寂しさがにじむカツさんの声に、励ましの言葉をかけました。
写真を一通り見せてもらったあと、「私も渡したいものがあるんです」と、今年出版したKindleのペーパーバックを差し出しました。
すると、カツさんはすぐにページをパラパラとめくりながら、
「こういうの、簡単に作れるんだね」と目を輝かせています。
文章を書くのが好きで、PC スキルもあるカツさんに『note』を紹介すると、「やってみようかな」と軽やかに返ってきたそのひと言に、思わず感心してしまいました。
中島公園と「残す文化」
ランチの後は、地下鉄で中島公園へ。この日は吹奏楽の発表会が行われていたようで、ほどよい賑わいが心地よく感じられました。非常に管理が行き届いた公園で、植栽の手入れをする人を見かけます。
豊平館の水色が空と調和して美しく、シャッターを何度も切りました。

カツさんのおすすめエリアは『日本庭園』
訪れた日も人がまばらで、ゆっくりと散策できました。

「カモが逆立ちしているよ」
その声で池を見ると、カモたちが一斉に池に頭をもぐらせてお尻だけがヒョコッと池の上に出ていました。

つづいて、向かうのは『ボート乗り場』。
古びた青いボートハウスを指差し『実は、あれが一番古い建物なんだよ』と教えてくれるカツさん。そんな風景に、またひとつ札幌のやさしさを見た気がします。

記憶とルーツが交わる北海道大学
地下鉄で移動し、北海道大学へ。「サステイナブルキャンパス」を理念に掲げており、昔からある樹木や登録有形文化財などの建物が保全されています。歴史的資産に囲まれながら学べる環境は、知的好奇心をくすぐる、なんとも魅力的な空間です。

日差しを避けてるために木陰を選んで進んでいくと、目をひく薄緑色のトタン屋根が見えてきました。明治時代に建てられた旧農学校の養蚕学教室です。
「窓から捨てられた蚕を持ち帰ったけれど、うまく育てられなかったなぁ」カツさんは懐かしそうに語りました。現在は「北大ワインテイスティング・ラボ」として活用されています。

広々とした構内を歩いていくと、フォトスポット「クラーク像」に到着。『少年よ、大志を抱け』の言葉が、中年の私にも不思議と響きました。

旅の終わりに
「今日はかなり歩いたね。今、何歩?」
夏らしい空の下、この日だけで2万歩以上歩いたことをスマホで確認し、カフェでひと息。
「また来てね」
疲れた様子ひとつ見せずに、歩いて帰っていくカツさんを見送りながら、
(私も、まだまだ頑張ろう)と、心の中でつぶやきました。
翌朝、大通公園へ向かい札幌の象徴のひとつ『テレビ塔』を撮影。
旅の終わりが近づくにつれ、名残惜しさを感じます。

北海道神宮の遥拝所である頓宮にも立ち寄り、静かに手を合わせたあと駅へと向かいました。

お土産を手に、空港行きの電車に乗ろうと改札へ向かう途中、ふと目に入ってきたのはお弁当のワゴン。販売していた高齢の女性の姿に祖母を重ね、思わずひとつ手に取りました。


自分の“原点”にふれる旅が、心を動かす
自分の「ルーツ」に向き合う旅。
祖父母の仕事、父の記憶、戦後の暮らし。その“物語”をたどることで、自分のルーツと今が、確かにつながっていくのを感じました。
静けさと温もりに満ちた札幌の風景は、今も心の中に残っています。この旅で、大切なものを再確認すると同時に、“これからの生き方”を見つけるヒントをもらいました。

帰宅後、カツさんから届いたショートメッセージは……
「note、書いてみたよ」
フットワークの軽さに、思わず笑みがこぼれました。
人は、いくつになっても、始められるんですね。

この旅でたくさんの話を聞かせてくれた伯父・カツさん。
noteでは、また少し違う角度からルーツを語ってくれています。
▼ カツさんのnoteはこちら

