見出し画像

私財1億円で始めて利益剰余金65億円『上場しない』BMSGにVCが出資。SKY-HIが挑む新しいエンタメ企業像

こんにちは!エン太郎です。

今回はBMSGがベンチャーキャピタル(VC)から出資を受けたニュースを取り上げます。

まず、ここでベンチャーキャピタルというビジネスについて簡単に紹介しましょう。まだ世に出ていない会社=ベンチャー・スタートアップの株を安く買い、その会社が上場したら高く売る。回収の出口(EXIT)は上場かM&A。

しかし、BMSGは「上場はしません。今後もその予定はありません」と公式に宣言しています。

しかも、資金に困っているどころか、直近期の純利益は約23億円、積み上がった利益剰余金は約65億円。設立5年でこの財務です。お金は十分にありますし、上場は目指していません。

普通に考えれば、この取引は成立しないはずです。VCは何を回収するつもりなのか。BMSGは、何が欲しくて株を渡したのか。

この記事では、まずBMSGという会社を決算公告の数字から立体的に捉え、SKY-HIさんが会社と音楽業界をどこへ持っていこうとしているのかを整理し、今回のリリースの中身と「引っかかるポイント」までを見ていきます。

そのうえで有料パートでは、VC側の回収の論理、2社の投資家の正体、このタイミングである理由、そしてA24・MrBeast・吉本興業という3つの先行例との比較から、BMSGの選択の正体を読み解きます。


BMSGは三位一体の会社

BMSGは、SKY-HIこと日髙光啓さんが2020年9月に設立したマネジメント/レーベルです。ミッションは「才能を殺さないために。」。

オーディション『THE FIRST』からBE:FIRST、『MISSION x2』からMAZZEL、『No No Girls』からHANAを送り出し、Novel Core、Aile The Shota、edhiii boi、STARGLOWらが所属しています。

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000157.000118793.html

私はBMSGのオーディション、アーティストの中でも特に『No No Girls』(通称:ノノガ)とHANAが大好きで、ノノガのファイナルには現地参戦し大号泣しながら感動しました。

BMSGのアーティストは好きなことはもちろん、経営者としてのSKY-HIさんも尊敬しており、もちろん書籍も全て購入しています。

そんな私が、BMSGをビジネスの構造から紹介すると、この会社の特徴の1つはマネジメント・レーベル・クリエイティブの三位一体を自前で持っていることです。

日本の音楽ビジネスでは、この3機能は別々の会社に分かれ、収益もそこで分配されるのが通例です。

アーティストを抱える事務所(プロダクション)、音楽コンテンツの企画、制作、宣伝、製造、販売を手掛けるレコード会社、そして番組や映像を作る制作会社。

それをBMSGは自前で持っています。

マネジメント:「発掘」の段階から自社IP化

従来の事務所のマネジメントは、既にいるタレントを売り込み、収益化を狙うことです。

BMSGはその手前である、発掘と育成のプロセス自体をコンテンツ化しました。

『THE FIRST』『MISSION x2』『No No Girls』『THE LAST PIECE』と続くオーディション番組は、単なるアーティストの採用活動ではなく、それ自体が視聴され、語られ、デビュー前からファンダムを形成する自社IPです。

タレントとしてのIP、コンテンツとしてのIP、楽曲としてのIPと様々な側面でのIPをオーディション番組の過程で作ってしまいます。

例えば『MISSION x2』はBMSG公式YouTubeチャンネルで自社配信されており、あえてテレビ局に依存しない形も作っています。

グループがデビューする瞬間には、すでに物語を共有したファンが付いている。実際、私はノノガという物語を見て、HANAのHONEYs(ファン名)として応援しています。

マネジメントの入口をオーディション番組にすることで、自社IPにすることができて、デビュー後のプロモーションコストを圧縮する手法です。

育成面でもTRAINEE(練習生)制度を持ち、デビュー前の段階から自社で抱えます。そして契約思想として、SKY-HIさんは設立時から「対等な契約」「食べていけるまでの道筋、売れた後の道筋」を掲げてきました。

今回発表された資産形成サポート制度『Unseen Life Plan』は、この延長線上にあります。

レーベル:企画の主導権は自社で、流通はメジャーの力を借りる

BMSGのレーベルは実は3つあります。avexと共同設立したB-ME(SKY-HI、Novel Core、BE:FIRSTらが所属)、ユニバーサル ミュージックと共同設立したBE-U(MAZZEL、REIKO)、そして完全自社のインディーズレーベルBullmoose Recordsです。

HANAはソニー・ミュージックレコーズからメジャーデビューしており、avex・ユニバーサル・ソニーという大手3社と、グループごとに組む相手を替えています。

つまりBMSGは、流通・販促というメジャーの音楽産業の流通機能は借りつつ、レーベルの企画・制作の主導権は共同レーベルという形で自社側に置く建て付けを取っています。

従来の「事務所がタレントをレコード会社に預ける」関係ではなく、レーベル運営の当事者としても関わる手法です。

どの機能をどこまで自社に取り込んでいるかの詳細な契約条件は非公開ですが、設立時から「マネジメント&レーベルの会社」を名乗っている以上、原盤側の収益に事務所として関与する設計であることは明らかです。

そしてBullmoose Recordsは2025年4月に体制を刷新し、SALUさん、BANVOXさんといった外部アーティストと契約。

マネジメントから原盤制作、配信までをオーダーメイドで支援する「FlexDeal(フレックスディール)」を導入し、自社アーティストの受け皿を超えて、レーベル機能そのものを外部に提供するインフラになりつつあります。

また、作家・音楽プロデューサーとして、BTSやBLACKPINKの楽曲を手掛けてきた作家・SunnyさんがGeneral Producerに就いています。

クリエイティブ:制作費を「外注コスト」ではなく「自社資産」に変える

3つ目が制作機能の内製です。BMSGは制作組織『BMSG Creative Lab』を立ち上げ、楽曲・映像・番組といったクリエイティブを社内で生み出す体制を整えています。

世界最大の広告祭「カンヌライオンズ」で米国バンドOK Go「Obsession」MVで金賞、ヨーロッパ随一の音楽テクノロジーインキュベーションプログラムである「アビー・ロード・レッド」に「Lyric Speaker」で選出されるなど、数々の国際賞の受賞歴を持つJIN (SIX)さんがExecutive Creative Directorに就任しています。

このような制作組織もあるのですが、SKY-HIさん自身が経営者であると同時にプロデューサーであり、クリエイターであることも大きいでしょう。

たとえばMAZZELのプレデビュー曲「MISSION」はSKY-HIさんからの楽曲提供です。

オーディション番組の企画・制作も、フェス『BMSG FES』も自社主催です。

外部の制作会社に発注すれば費用として消えていくものが、内製すれば制作ノウハウ・映像アーカイブ・楽曲カタログという自社に積み上がる資産に変わります。

クリエイティブの意思決定が社内で完結するので、「クリエイティブファースト」という理念を、外部の都合に妥協せず実行できる体制でもあります。

まとめると、BMSGの三位一体は「何でも自前主義」ではありません。

利益の源泉とIPが生まれる場所(企画・制作・マネジメント・レーベル主導権)は自社に置き、装置産業的な機能(流通・販促)は大手の力を借りるという、取捨選択の効いた垂直統合です。

ヒットが出たとき、従来なら分業構造の中で外へ流れていた利益が、この会社では自社へ積み上がる。次に見る決算の数字は、この構造の帰結です。

もうひとつ重要なことに、SKY-HIさんは『THE FIRST』の開催に私財1億円超を投じたことを公言しています。

つまりこの会社は、創業時から外部投資家に頼らず、創業者であるSKY-HIさん個人がリスクを取って立ち上げた会社だということです。このことは後ほど関わってきます。

ちなみに、自社ビルもSKY-HIさん個人で購入されています。

https://www.youtube.com/watch?v=hLRmbTOFp3Y&t=1s

決算公告が示す「資金調達しなくていい」儲かり具合

非上場でも、株式会社には決算公告の義務があります。BMSGの官報決算公告から、利益の推移を追えます(いずれも官報ベースの概数)。

  • 第3期:純利益 約12.5億円/利益剰余金 約22.8億円/総資産 約33.9億円

  • 第4期:純利益 約19.9億円/利益剰余金 約42.6億円/総資産 約68.7億円

  • 第5期(2025年6月期):純利益 約23.5億円/利益剰余金 約65.9億円/総資産 約108.9億円

3年連続で純利益が2桁億円、しかも毎年増えています。利益剰余金は65億円を超え、総資産は100億円台に乗りました。

第4期の純利益約20億円については、SKY-HIさん本人が公表して話題になったので、記憶にある方も多いはずです。

https://www.youtube.com/watch?v=hLRmbTOFp3Y&t=1s

この数字が意味することはひとつです。今回の資本提携の目的は、資金調達ではあり得ない。 毎年20億円超のキャッシュを自力で生み、内部留保も潤沢な会社が、お金のために株式を渡す理由がないのです。

銀行借入だって好条件で引けるはずです。それでもあえてエクイティ、つまり会社の一部を外部に渡したわけです。

私財1億円を投じ、自社ビルまで個人で購入したSKY-HIさんが株を外部に渡してまで手に入れたかったものは何なのでしょうか。

SKY-HIは、会社と業界をどこへ持っていきたいのか

今回の提携は、SKY-HIさんがこれまで積み上げてきたビジョンの文脈を理解しないといけません。

SKY-HIさんの発言を追うと、「会社の話」「業界の話」「世界に出る話」がほとんど区別なく語られていることに気づくはずです。

会社:BMSGを制度で回る組織にしようとしている

SKY-HIさんは自らを明確に「経営者」と位置づけ、メディアはBMSGを「芸能事務所スタートアップ」と呼んできました。

社員は80人規模に達し、2024年4月には各組織に最高責任者を置くCxO体制を導入。

当社は従業員数100名が目前に迫っている状況です。従業員数の増加に伴い、社会からの期待も比例して大きくなってきたと感じています。

株式会社BMSG

同年11月には、IPO準備の経験を持つ石塚秀彦さんを執行役員CMOに招いています。

「他人に任せ、違いを楽しむ」という経営スタンスも本人がたびたび語るところで、要するに、カリスマのワンマン経営ではなく制度で回る組織にする、という方向へ着実に歩んできました。

業界:一貫して「日本の音楽業界を変えたい」

SKY-HIさんは日本の音楽業界を「今変えないと間に合わない」と語ってきました。

https://www.youtube.com/watch?v=i_Xj8MgEAgM&t=701s
https://www.youtube.com/watch?v=i_Xj8MgEAgM&t=701s
https://www.youtube.com/watch?v=i_Xj8MgEAgM&t=701s

2024年には「音楽業界を持続不可能にしないための提言」を発表し、CDの売上見込みから逆算してプロモーション予算を組む業界構造への違和感を表明しています。

提言だけではなく体現として、BE:FIRSTの作品では紙ジャケットに変更し、プラスチック使用量を約10トン削減。

CDの出荷枚数自体は約7万枚減少した一方で、特典に代えて販売したグッズが伸び、CDとグッズを含む作品全体の総売上は前作比で約2倍に拡大したと報告しています。

特典で同じCDを何枚も買わせるモデルから降りても、ビジネスは成立するということを実証してみせる、というやり方です。

ファンの財布への依存度を上げて短期の売上を最大化するのではなく、ファンが無理なく長く応援し続けられる構造をつくるほうが、結局は事業として強い。

SKY-HIさんの言う「サステナブル」は環境の話だけではなく、ファンビジネスの持続可能性の話でもあります。

世界:「世界にJ-POPの棚をつくる」

そして、SKY-HIさんは「世界にJ-POPの棚をつくる」という構想があります。

自社アーティストの海外公演を積み重ねる段階から、日本のエンタメ業界ごと世界市場に持っていく段階へ行こうとしています。

創業10周年の2030年までに『BMSG FES』を初めて海外で開催することを「公約」に掲げました。

グローバル水準のクリエイティブを含め、海外進出するための投資を強化し、創業10周年を迎える2030年までには、挑戦の集大成として、所属アーティストが一堂に会する『BMSG FES』の初の海外開催に挑戦いたします。これは決して日本を置き去りにするものではなく、日本のエンターテインメントの素晴らしさを世界に証明するための歩みです。自社単独での海外進出に留まることなく、日本のエンターテインメント業界の皆様と手を取り合い、「世界にJ-POPの棚をつくること」を共に目指してまいります。

『BEYOND THE FIRST FIVE YEARS. BMSGは、第二創業期へ。』 BMSG、ビジネスカンファレンス「Greeting & Gathering '26」を開催 | 株式会社BMSGのプレスリリース

SKY-HIさんはこれまで上場の是非を正面から語ってきませんでしたが、今回のカンファレンスで初めて公式に今後も上場は予定しないと明言しました。

組織を制度化する、業界を変える、世界に出る。ここまでくると上場を目指しそうなものですが、はっきり否定しました。この非対称性が、今回の提携を読み解く入口になるのです。

ビジネスカンファレンスで発表されたことを整理

既にビジネスカンファレンスの内容は少し紹介してきたのですが、ここで改めて事実関係を整理します。

2026年6月29日、BMSGはステークホルダー向けカンファレンス「Greeting & Gathering '26」を開き、翌30日のリリースで以下を発表しました。

第一に、第二創業期の宣言。「BEYOND THE FIRST FIVE YEARS. BMSGは、第二創業期へ。」をスローガンに、2030年へ向けて「音楽ファースト」「サステナブルなエンタメ構造」「グローバル展開」の3領域へ投資を加速するとしています。

第二に、新経営体制。2026年3月11日付で取締役COOに清水裕さん、社外取締役に北川廣一さん、監査役に大和加代子さんが就任し、COO直属の「リスクコンプライアンス室」を新設したことが改めて示されました。

第三に、本題の資本提携。グローバル拡大とデジタル基盤強化のパートナーとして、インキュベイトファンド株式会社および株式会社Akatsuki Venturesとの資本提携を発表。

第四に、所属アーティストの積立に会社が同額(最大100%、上限あり)を上乗せする資産形成サポート制度『Unseen Life Plan』の新設。アーティストの「引退後」まで含めた生活設計を会社が支える制度です。

なお、出資側のAkatsuki Venturesも同日の自社リリースで「本資本提携は将来的な株式上場を前提としたものではありません」と明言しています。受け手と出し手の双方が、揃って「上場はしない」と言っています。

引っかかるポイントが4つある

ここまでの事実を並べると、きれいに説明がつかない点が4つ残ります。

1. 目的がお金でないなら、何なのか。 決算公告が示すとおり、資金調達という説明は成立しません。では株式と引き換えに得たものは何なのでしょうか。

2. なぜこの2社なのか。 インキュベイトファンドとAkatsuki Ventures。実はこの2社、投資家としての性質がまったく違います。片方は独立系ファンド、もう片方はエンタメ事業会社の傘下。この組み合わせは偶然でしょうか?

3. なぜ双方が「上場しない」と書いたのか。 資本提携のリリースで、わざわざ上場を否定する必要は本来ありません。出資する側のVCまでもが同じ一文を書いた。VCが自ら「出口はIPOではない」と宣言していますが、彼らはどこで回収するのでしょうか?

4. なぜこのタイミングなのか。 2025年12月の報道と内部調査、2026年3月の経営体制刷新(社外取締役・監査役・リスクコンプライアンス室)、そして6月の外部資本導入。この半年の動きは、一本の線でつながっているようにも見えないでしょうか?

ここから先の有料パートでは、次の点を深掘りしています。

・BMSGが株式を手放して手に入れた4つのモノ
・なぜ、Akatsuki Venturesとインキュベイトファンドなのか?
・「上場しない」会社に対して、VCはどこで回収するのか
・A24、MrBeast、吉本の「上場しない×外部資本」の事例比較
・BMSGが証明した新しいエンタメ企業像

▼単品で購読も出来ますが、過去のニュース記事を全て読めるメンバーシップの方が圧倒的にお得です!
エンタメ横断ニュース|エン太郎(エンタメ横断ニュース)

ここから先は

11,870字 / 6画像
この記事のみ ¥ 500
Amazon Payで支払うと最大2%還元のチャンス! 9/30まで

現役のマンガIPライセンス担当者が、毎週の絶対に押さえておきたいエンタメビジネスのニュースを深ぼり解…

スタンダードプラン

¥500 / 月

毎週エンタメに関するニュースを発信しています!もし良ければ、スキ・シェア等して頂けると嬉しいです!