フリーランス病理医日記〜5月編
娘が虫垂炎
緊急事態宣言が続くなか、娘が急性虫垂炎になって某病院に救急搬送。オペか、と思ったが、なんとか抗菌薬で回復。通常の救急を受け入れてくれて助かった。
医師であることは伏せておいた。患者家族が医療関係者というのは嫌というのはよく分かるから。
その病院の病理医の先生や臨床検査技師は知り合いなので、オペになったら検体よろしく、とお願いしておいた。とはいえ、虫垂ではルーチンで処理する以上のことはできず、お願いされても困っちゃうだろうなとは思ったけど。
高3の娘の世代は、本当に運が悪い。大学入試は変わる変わらないで揉めるし、新型コロナウイルスの影響で、最終学年として経験する様々な大会などもなくなっている。部活動などはしていない娘にはあまり関わりがないことは多いが。
娘たち若い人たちには、今のこの経験を生かして、強く生きていってほしいと願う。
黒字倒産
フリーランスとして働き始めて1ヶ月がすぎた。
緊急事態宣言の最中にもかかわらず、病理診断の需要は減りはしたけどなくなりはしなかった。それはありがたかったのだが、一つ問題があった。
4月の給料は5月に払われるのだ。しばらくは無収入で行かざるを得ない。
しかも給料日前に税金を払わなければならなかったりして、一時的に預金がマイナスになりそうになった。
だから一時的に別の口座に預けていたお金を移してなんとか対応した。
その後月末にかけて4月分の給料が振り込まれ、ホッと一息をついたが、いわば黒字倒産しかかったわけだ。
銀行口座開設
立ち上げた合同会社の銀行口座がようやくできた。
できたばかりの法人にとって、銀行口座開設はなかなかに難関。ようやくネット銀行であるGMOあおぞらネット銀行に口座ができたのは嬉しかった。資本金を入金して、早速買ったのが「外科病理学第5版」。日本語で読める病理学の基本書で、今年出たばかりだ。
名刺も作成。
その後別のネット銀行の口座も開設。ネット銀行は制約があって、保険料の自動引き落としは一部の銀行しかできない。ペイジーも限定的。メガバンクの一行にも申請中だが、音沙汰はない。
個人で契約している仕事のいくつかを法人で契約し直しているが、切り替えに数ヶ月かかる。それまでは資本金頼みだ。注意しなければ。
解剖
緊急事態宣言は解除になり、街にも賑わいが少しづつ戻りつつある。そんななか、ある病院から病理解剖の依頼を受けた。
日本病理学会は指針を出しており、「直近1週間の人口10万人当たりの新規感染数が0.5」を満たしている地域では
新型コロナウイルス感染が臨床的に疑われない患者さんに関しては、病理医と臨床担当医の合議の上、各施設の判断と責任に委ね、従来の標準感染予防策にて病理解剖を行うことを許容します。なお、念のためエアロゾールが大量に発生するストライカー使用時や、手指を介しての結膜、口元からの接触感染等には十分に留意したうえで病理解剖を実施することとします。
とされている。この基準に従い、PCR検査をせずに解剖を行った。
正直なところ、大学病院など一部の大きな病院を除けば、解剖室や設備はあまり整っているとは言えないのが現状だ。新型コロナウイルスではなくとも、結核などの感染の可能性はいつもあるわけで、これを機に解剖室の設備等の改善が進むことを願いたい。
しかし、ことは簡単ではない。
解剖は病院にとって保険点数をとることができない、言わば持ちだしの行為だ。1回25万円程度かかると言われており、正直「儲け」にはならない。
今回の新型コロナウイルスの感染拡大で、患者を受け入れた病院を中心に、患者減、収入源の影響を受けている病院が多い。開業医さんも受診控えの影響が直撃し、もう持たないという悲鳴も聞こえる。
そんななか、解剖室をお金をかけて改造しようと思う病院は多くない。
病院を市場原理に任せている限り、私たちは感染の危険に晒されながら解剖を行わざるを得ない。
日本の医療のあり方をどうするか、考えないといけない時期に来ているように思う。
海賊本のおっちゃんの思い出
Twitterにこんな投稿があった。
インパクトファクターとは、その雑誌でぶん殴ったときに脳細胞に与える衝撃の強さを示す指数。
— デムパ(Poisonous_Radio) (@Poison_R) May 29, 2020
一般的にはJBCが最強といわれる。教科書ならmoleculer biology of the cellが横綱。
地下格闘技の世界では、行商のおっちゃんのmoleculer cloning 海賊版などが覇権を競った。
これで思い出したのが、海賊版の洋書を売り歩くおっちゃんのこと。
東京にも神戸にも現れたおっちゃん。
いつ来るかわからない。何度も逮捕されているらしい。もう辞めるといつも言っていた。
遵法意識が乏しかった昔、大学院生などがこのおっちゃんから洋書の違法コピーを購入し、分子生物学などを学んでいた。
私?ええと…モゴモゴ…察してください。
10歳くらい年下の世代だと、もうおっちゃんとの接触はなかったらしい。ということは2000年代初頭に 本当に廃業したということか。その頃私自身もウェットな分子生物学、生化学から足を洗い、病理医になるべく修行を開始したので、おっちゃんのことなど忘れていた。
ググってみた。
もうご存命かどうかも分からない。友人はあのおっちゃんと接して、教授かと思ったけれど、話しているうち内容が薄っぺらいことが分かったとか言っていた。まあ、本を売っていただけだから。
どうしてそのような商売に手を染めたのか。もう知る術もない。
違法コピー、ダメですよ。絶対。
