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カフェ月殿亭の風景⑤

 高校の書道部室・中・放課後
 

書道部の部室

   木暮日奈子(こぐれ・ひなこ・17歳)の所属する高校の書道部は、毎
   週、水・木・金の16時から18時までが、練習日になっている。
   部員は1年生が男子4、女子4の8名、2年生が男子3、女子4の7
   名、3年生が男子4、女子3の7名。
   書道顧問は、国語教師の秋甫(あきほ・35歳)。

   その日、日奈子が、部室で後片付けをしていると、顧問から、

秋 甫「木暮さん、こんどの展覧会のことで、ちょっと相談があるんだけ
   ど、残ってくれる?」
日奈子「はい、大丈夫です。部長も一緒ですか。部長は、今日はお休みです
   が」
秋 甫「それで、あなたに(相談を)」

   と、返事をしてから、日奈子は、すぐに廊下へ出て、IT倶楽部の部室
   にいる唐崎新吾(からさき・しんご・17歳)にメールした。


IT倶楽部の部室

日奈子「秋甫先生と、展覧会のことで話があるから、一緒に帰れないかも」
新 吾「日奈子さんの用事が終わるまで、部室にいるから、帰りに寄って」

   日奈子が部室に戻ると、秋甫だけしかいなかった。

秋 甫「木暮さんは、1年生の友久優里亜(ともひさ・ゆりあ・16歳)さん
   とは、親しいの?」
日奈子「学年が違うので、親しくはありませんが、展覧会の準備について
   は、いろいろと相談しています。彼女は、書道部のエースですから
   (と笑う)」
秋 甫「最近の彼女の作品……ちょっと気になっているの」
日奈子「はい(どういうことですか)?」
秋 甫「書写された文字が、以前より、少し変わったように見えるの。たと
   えば、文字と文字の間隔とか、全体のバランスとか」
日奈子「……」
秋 甫「文字には環境や心の変化が、如実に表れるから、彼女、なにか悩み
   事でもあるんじゃないかと思って」
日奈子「展覧会が近いので、みんなぴりぴりしているみたいですね。そうい
   うプレッシャーも、展覧会が終われば、もとに戻るんじゃないでしょ
   うか」
秋 甫「そうだね、それが原因かもしれないね(安心したように)」

 浅草・カフェ月殿亭・中・夕方

カフェ月殿亭・オーバルテーブル

   店の奥のオーバルテーブルで、


新吾と日奈子 


新 吾「日奈子さん、なにか考え事?」
日奈子「少し気になることが(ある)……」
新 吾「秋甫先生の相談事? 展覧会のことじゃなかったの?」
日奈子「1年生の女子部員が、なにか悩んでいるみたいで、困っていること
   があるんじゃないかって、先生が心配してるの」
新 吾「その根拠は?」
日奈子「彼女の作品に、微妙な変化が出ているのを、先生が見つけたらしい
   の」
新 吾「その変化は、悪いこと?」
日奈子「うん。生活環境とか心に、変化があると、文字にあらわれるの。展
   覧会が近いから、部員たちも神経質になっているし、先生も、落ち着
   かないのかもね」
新 吾「そうなの」

   と、そこへ、百花(ももか)が、フルーツパフェをひとつ持ってき
   て、

百花


百 花「日奈子ちゃん、展覧会の出品で、がんばっているんでしょ。わたし
   と龍之介さんからの差し入れ」
日奈子「わぁ、うれしい。ありがとうございます」 


フルーツパフェ

新 吾「百花さん、僕の分は?」
百 花「新吾の分はありません」
新 吾「そんな……日奈子さんにだけって」
日奈子「新吾君、半分こしようか(にこり)」
新 吾「ありがとう(にこり)」
百 花「好きにしなさい(とあきれたように)」 

 翌日・浅草・カフェ月殿亭・夕方

   日奈子、書道部の後輩である友久優里亜をつれて、カフェにくる。
   新吾はいない。
   百花には、前もって、二人で来ることを伝えてあったので、百花が、
   店の奥にあるオーバルテーブルを、予約席にしてくれていた。

日奈子「最近、なにかあった?」
優里亜「え?」
日奈子「どことなく元気がないみたいだから、展覧会の準備で疲れているの
   かなって。1年生で書道部のエースだから、プレッシャーが大きいの
   はわかるよ(と笑う)」
優里亜「書道部のエースは、木暮さんです(にこり)」
日奈子「わたしに、できることはない?」 
優里亜「……木暮先輩(なにか話したそう)」
日奈子「うん、なに? 話してみて。困ったことでもあるの?」

   と、そこへ、百花が、日奈子と優里亜に、差し入れを持ってくる。

セット 

   キッチンにもどった百花に、

龍之介

龍之介「むつかしそうな話し?」
百 花「書道のイベントが近いから、日奈子ちゃんも落ち着かないみたいだ
   ね。新吾も気にしてた」
   
   オーバルテーブルで、百花の差し入れを食べていた優里亜が、突然、
   思いつめたように、

優里亜「木暮先輩」
日奈子「うん(おどろいて)」
優里亜「だれかが、シューズロッカーのわたしの上履きに(声をつまらせ
   る)」
日奈子「上履きに、なにかされた?」
優里亜「押しピンが、入れられて(泣き出す)」
日奈子「だれがやったのか、わかってるの?」
優里亜「いいえ」
日奈子「担任に、話した?」
優里亜「いえ、まだ」
日奈子「そうだよね。担任も、だれの仕業かわからないと、手の打ちようが
   ないからね(どうしよう)」

   日奈子が、優里亜を浅草寺の雷門まで送って、カフェ月殿亭にもどる
   と、新吾がオーバルテーブルに座っていた。
   日奈子から、優里亜の話を聞いて、

新吾

新 吾「まず、犯人をみつけないとね。友久さんに、犯人の心当たりは?」
日奈子「心当たりはないって」
新 吾「だれかが、友久さんのシューズロッカーを開けて、中にある上履き
   に押しピンをいれているところを、押さえればいいんだよね」

龍之介N「一番簡単なのは、小型の監視カメラを仕掛けて、犯人が、優里
   亜のシューズボックスを空けているところを、撮影する方法だが、ま
   ず学校の許可はでない。許可なしで写った犯人を、担任にみせても、
   学校は、写真が捏造された可能性があるとして、受け付けないだろ
   う。そして最悪の場合、日奈子が新吾に撮影させたとして、二人が処
   分される可能性もある。そうなると、日奈子の展覧会出品も危うくな
   りかねない」

日奈子

日奈子「方法はないの?」
新 吾「僕の一存でやるから、日奈子さんは、知らないことに」
日奈子「一存って?」
新 吾「シューズロッカーには扉が付いているよね」


昇降口のシューズロッカー

龍之介N「上履きに押しピンを入れるとしたら、放課後、友久優里亜が帰宅
   したあとだろう。犯人が押しピンを上履きに入れるために、ロッカー
   の扉を開けると、なかにセットされたカメラが起動して、動画を撮り
   はじめる。その動画は、IT倶楽部の新吾のパソコンに、送信されると
   いう仕掛けである」

新 吾「犯人の顔写真を、担任にみせてもいいけど、犯人が動機を話さなけ
   れば、この問題は解決しないと思う。なぜ、犯人は友久さんの上履き
   に、押しピンを入れたのかを、ね」

龍之介N「翌日、新吾は、友久優里亜が下校したあと、日奈子に見張りをさ
   せて、昇降口にある優里亜のシューズロッカーにカメラをセットし
   た。もし、優里亜以外のだれかが、ロッカーの扉を開ければ、カメラ
   が起動して、動画を撮影し始める」


IT倶楽部

   新吾が、カメラをセットした翌日の朝、日奈子と新吾は、優里亜のシ
   ューズロッカーを、優里亜の立ち合いで開けると、上履きには、押し
   ピンが5個入っていた。
   新吾はカメラを取り外し、3人でIT倶楽部へ向かった。
   IT倶楽部に置かれた新吾のパソコンには、はっきりと、女子生徒の顔
   が写っていた。

新吾

新 吾「優里亜さん、この女子、知ってる?」
優里亜(パソコンの画面をみて)あっ」
日奈子「だれなの?」
優里亜「でも、どうして、宗田(そうだ)さんが?」
日奈子「宗田さん?」
優里亜「クラスは違うけど、1年生の宗田美里(みさと)さんです」 
日奈子「宗田さんと、なにかトラブルがあった?」
優里亜「一度も話したことはありません(と困惑した様子)」

   日奈子は、学校で、優里亜と仲のいい書道部の女子部員に、宗田美里
   のことを聞いた。その女子部員は、宗田美里と同じクラスだった。


日奈子

部員A子「宗田さんですか? 彼女、好きな男子がいるんです」
日奈子「あなた、知ってるの?」
A 子 「テニス部の明石君です。彼女、明石君に告白して振られたんで
   す」
日奈子「3年生の明石君? 全国大会にも出場しているよね」
A 子「明石君には、好きな女子がいて、告白したんですが、振られたんで
   す。明石君、ずいぶん落ち込んでいたみたいですよ」
日奈子「明石君が告白した女子って?」
 A 「優里亜です」

 カフェ月殿亭・中・夕方

   日奈子が、学校からの帰り、カフェ月殿亭に立ち寄ったら、オーバル
   テーブルで、翔子(しょうこ)が小説の執筆中だった。

翔子

日奈子「翔子さん、ちょっといいですか?」

   日奈子が声をかけると、翔子は、パソコンの画面から顔をあげて、

翔 子「大丈夫だよ、いま帰り? 新吾君と一緒じゃなかったの?」
日奈子「ここで、待ち合わせているんです(にこり)」

   日奈子は、翔子に、友久優里亜と宗田美里の一件を、話した。

日奈子「翔子さん、宗田さんは、どうして、何の関係もない友久さんに、あ
   んな嫌がらせをしたんでしょうか? 振られて恨むのなら、明石君の
   ほうじゃありませんか?」
翔 子「宗田さんは、明石君が好きだった。その明石君が、友久さんから
   振られたことを知ったとき、明石君への同情心が生まれたんじゃない
   かしら。その想いが強くなると、明石君への同情心が、友久さんへの
   恨みに形を変えて、友久さんへの嫌がらせになったと、考えられない
   かしら?」
日奈子「それって……おかしくありませんか?」
翔 子「そうよね。でも、宗田さんは、自分の告白した明石君が、落ち込ん
   でいるのをみて、それが友久さんのせいだと思ったでしょうね。本来
   なら、宗田さんは、明石君を慰めることに、心を向けるべきだったか
   もしれない」
日奈子「そういうことって、あるんですね(しみじみ)」
翔 子「日奈子さん、聞いたところでは、友久さんの上履きに、いつも押し
   ピンが5個入っていたそうだけど、なぜ、宗田さんは、いつも5個入
   れたの? なにか意味があったのかしら」
日奈子「はい、それですけど、明石君の出席番号が、⑤番だったんです」

龍之介N「友久優里亜は、宗田美里の謝罪を受け入れて、押しピンの件を許
   した。この件は、秋甫と日奈子の胸に、納められたのである」

                           つづく  

龍之介

                                                        


※作品をお読みいただき、ありがとうございました。
※この物語はフィクションです。人名、団体などすべて架空のものです。
 月殿亭は、これからも<花も実もある絵空事>を書いてゆきますので、よ
 ろしくお願いします。
※作中の画像については、すべて、映像関係の仕事をしている友人にお願い
 して制作してもらったものです。
 画像のおかげで、僕のつたない作品が、部分的にではありますが、可視化
 され、みなさんの気に入ってもらえる作品になったのではないかと、喜ん
 でおります。
※次回作でお逢いできることを、楽しみにしています。月殿亭。