価値創造のイネーブルメントとは
「イノベーション・イネーブルメント」という言葉があります。イノベーションを可能にする機会を探索し、戦略やシナリオを開発し、実現に導けるよう支援していくことを意味します。
私たちは、新規事業の創造も変革の推進も含め、広く「価値」を生み出すことを「価値創造」と位置づけ、価値創造の取り組みを実現に導く行動をとり、価値創造が起こるような環境や仕組みをつくる人のことを「価値創造イネーブラー」と呼びます。
企業において、中長期の経営視点においての新規事業の重要性は言うまでもありませんが、ここ数十年の日本企業はイノベーションを生み出せず、組織の文化や体質の変革が進まないという閉塞感に苛まれていると言われます。
なぜ新規事業や新しい取り組みがうまくいかないのか?
なぜ変革は思うように進まないのか?
どうすれば人や組織は新しい価値を生み出していけるのか?
社員の自発的、主体的な挑戦はどのようにしたら生まれるのか?
『価値創造イネーブルメント ラボ』では、組織の中で新しい価値を生み出す挑戦を自ら実践し、また挑戦する人を支援し、挑戦が生まれる環境や仕組みづくりを仕掛けている人たちが、いったい何をしているのか、なぜそれをしているのか、どのようにしているのかについての実践研究から、その秘訣を抽出し、パターン・ランゲージという方法をつかって整理しました。
このnoteでは、今まさに組織の中で、この状況を何とかしたいと日々悩み、挑戦を続ける想いある人たちのお役に立てることを願い、『価値創造イネーブルメント・パターン』をご紹介していきます。
なぜ価値創造にイネーブルメントが必要なのか
組織の中で、危機感や問題意識を持って自らの想いで動き出す挑戦者は孤立しがちで、様々な障害に一人で立ち向かっていかなくてはならないということが起こります。その結果、成果を出しにくい、育たない、続かない、場合によっては離職するというケースもあります。いくら挑戦者の発掘や育成に力を入れても、それだけでは価値創造の挑戦が生まれ続けるような組織の文化を醸成することは困難です。
挑戦を支える「イネーブラー」の存在と、挑戦者とイネーブラーの関係性によって、組織内での価値創造の実現可能性を高め、フォロアーを生み、組織の行動様式に影響を与えていくことで、文化を育んでいくことができます。

組織の成長フェーズとその特徴
組織(企業)の状態を、成長の段階から3つのフェーズに分けて整理することができます。

フェーズ1形成期は、企業の創業期、成功パターンを発見する段階です。
フェーズ2定常期は、成功パターンを繰り返し、安定的に成長する段階です。
フェーズ3統合期は、社会や顧客の変化により既存事業の成長が頭打ちになり、新たな成成功パターンを発見していく段階です。
現在、日本の多くの企業がフェーズ2から3に差し掛かり、ビジネストランスフォーメーションが不可欠となっています。ポイントは既存事業の余力があるうちに、変革・価値創造を実現することです。しかし、フェーズ3の初期段階では、既存事業の減少や衰退に対して抱く危機感は人によって差があります。そして、全員が危機感を感じるフェーズ3後期では、成長へ投資リソースが減少し、選択肢が限られ、手遅れになってしまいます。
Q. みなさんの所属組織は、今どのフェーズに位置しているでしょうか。
変革を妨げる組織文化
手遅れになる前に、新たな価値創造や変革を推進できればよいのですが、それを阻害してしまう要因は、組織の文化にあります。組織の文化とは、その組織に所属する人たちの行動特性であり、それは企業の成長フェーズによって異なる特徴があります。ここで注目すべきは、フェーズ2とフェーズ3の間の特徴の違いです。

経営層や組織に所属する多くの人のマインドセットや行動様式がフェーズ2のままでは、新たな価値創造や変革への挑戦を意図せず妨げてしまうような弊害が起こります。
たとえば…
短期的な成果が重視されるため問題提起やアイデアを言い出しにくい
生産性や効率を重視する優秀なマネジャーがメンバーの自由な発想に制限をかけてしまう
所属部門や自分の仕事の枠組みにとらわれた発想から抜け出せない
リスク回避のため、新たな取り組みを初期の段階で評価し、止めてしまう
マネジメントからイネーブルメントへ
既存事業は、ある程度予測可能なため、リスクを最小化し、計画的、効率的に目標を達成できるように「マネジメント」をすることが重要です。
一方、不確実な価値創造の挑戦に対して、このやり方でマネジメントを行い、挑戦の芽を無自覚に潰していることがよく見られます。
価値創造の挑戦を育むには、主体的な想いを引き出し、スピーディーにアイデアを行動にうつして実現可能性を高めるような支援を行う「イネーブルメント」が必要になります。

挑戦者を育み、実現を支援するイネーブルメントとは、具体的にどのような行動なのでしょうか?
イネーブルメントに大切なこと
挑戦の実現に向けて支援する「イネーブルメント行動」には、実践研究で明らかになった重要な前提が2つあります。
個人の想いを起点とする
価値創造や変革の取り組みは、挑戦者の個人の想いを軸に置いた主体的な挑戦であることが大切になります。まず第一に【1】個人の想いを起点として、次に【2】社会・顧客のどのような課題を解決し、価値を実現するのか、そのために【3】自社のリソースの何を生かし、成長につなげるのかの順に考え、3点が重なるところに価値創造の焦点をあてます。

挑戦者のステージに合わせて変容を促す
適切なかかわり方を行うため、挑戦者の状態を見極めることが重要です。実践研究から、社員の状態を4段階の「変容のステージ」に分けて整理しています。挑戦者のステージに合わせて、挑戦者自らが変容していくことを促すことが大切になります。

■Stage0「無意識」
危機や機会に気づいていない状態。
職務範囲の視野にとどまっている、または、割り切って働いており、自身の想いに気づいていない。変化を起こすことを諦めていることもあります。
■Stage1「意識」
自社の成長への危機感、または新たな事業機会を感じており、変革の必要性は感じているが、自分事としての変革・価値創造のテーマは不明確で、もやもやしている状態。
当事者意識が低く、誰かがやらなければならないという他人事なところがあり、総論賛成、各論反対が起きやすいのもこのステージ。
※役員・部長層がこのステージにいると、現場は非常に苦労する。
■Stage2「意欲」
自分事の価値創造・変革テーマがある状態。
アイデアがあり、アイデアを行動に移している。社内外に仲間をつくり、仮説検証活動を行い、実現の解像度を高めていく。
挑戦したいことは明確だが、本気で実現する覚悟、構想化までは至っていない状態。
■Stage3「意志」
行動した結果、実現する価値があることを確信し、覚悟をもって事業構想を実現しようとする状態。社内の抵抗があっても、できない理由ではなく、どうしたら実現できるかを考え、社内外の仲間と連携して、障害を乗り越えていく。
Q. みなさんの所属組織の全社員を100%だとすると、各ステージにいる社員割合はどれくらいでしょうか?特にステージ3の社員は何%いるでしょうか?
イネーブラーは何をするのか
変容ステージを進んでいく挑戦者の行動
挑戦者は、どのように変容ステージを進んでいくのでしょうか?
それは、価値創造のための行動を体験することで、その実感を通じて変容していきます。

たとえば、
Stage 0や1では、課題意識が芽生えるような視座や視野が転換する触発される体験
Stage 2では、事業テーマを発見し、実験的な行動と検証を通じて解像度が上がる体験
Stage 3では、社外の顧客や共創相手と試行的活動を行い、外部評価を得て社内を巻き込んでいく体験
などです。
変容ステージと対応したイネーブルメント領域
イネーブルメントは、挑戦者自らが行動し、その体験から実感を得られるよう、挑戦者のステージに応じた支援をする必要があります。

Stage0、1には、社員個人の「想い」を触発し、醸成して、その表出化を促すイネーブルメントです。(A:想いの表出化)
Stage2では、想いをベースにしたアイデアを形にし、行動を通じて具体化するプロセスを後押しするイネーブルメント行動です。(B:アイデアの具現化)
Stage3では、想いを起点に検証を重ねてきた企画や構想を組織で実現するために社内、社外を巻き込む支援をするイネーブルメント行動が求められます。(C:構想の実現化)
個々のステージに対応したイネーブルメントを行うことが挑戦者の価値創造・変革への取り組みを促進していきます。
具体的な動きが生まれてきたら、組織全体の動きへ展開するための環境や仕組みをつくる段階です。(D:組織の環境・仕組みの創造)
価値創造イネーブルメントに関するポイントの一部をご紹介してきましたが、価値創造のイネーブルメント行動の詳細については、実践者が共通に行っていることをパターン・ランゲージという手法で体系化しました。
「価値創造イネーブルメント パターン」
価値創造に取り組む組織におけるイネーブラーが実践すべき行動の型(パターン)を36個の「言葉」であらわしたものです。これらは、パターン・ランゲージという手法で書かれているため、一つひとつの「言葉」(型・秘訣)はパターンと呼ばれます。
*パターン・ランゲージについて、詳しくはこちらをご覧ください。
全体構成
36個のパターンは、図8で示したA~Dの4つのイネーブルメント領域ごとに分けられます。各領域には、目的別の3つのグループがあり、各グループには3つのパターンが含まれます。したがって、1つの領域は合計9つのパターンで表現されています。
さらに、36個に加えて、一番はじめに最も大切なCoreというパターンがあります。Coreは、実践研究を通して、明らかになった価値創造イネーブルメントの根本的な在り方を示しています。どのように実践していけばよいのかの出発点であり、どのプロセスにおいても立ち戻ることのできる原点となります。

これから、パターンを1つずつご紹介していきます。
どうぞ、お楽しいみに!
